【速報】勇者様、魔王の討伐に成功する
「号外、号外!」
紙束を抱えた新聞屋がそう叫びんでバラバラと紙を投げながら大通りを駆け抜ける。
世界各地に支店を置く新聞ギルドという異質な彼らは、王国や諸外国の情報を新聞という紙媒体で世間に広く知らしめる庶民の味方だ。
時にはどうやってこんな情報を得たのか疑問に思うことも紙面に載せられるが、おおむね読者からは信憑性の高い情報だと受け入れられている。
真面目な情報を届けるだけのアイテムというわけではなく、『国王陛下、御前会議で三度も噛む』や『財務大臣、一夜にして謎の増毛事件!』などといったユニークで笑いを誘う記事も有り、読者を楽しませることも忘れない。
そんな新聞だが、最近誰もが関心が寄せられる話題と言えば、勇者のことだ。
人類の脅威である魔物を使役し、組織だった運用で大きな被害を与える魔族が突如として現れた。
そんな魔族の脅威から人々を救うために魔族の王、魔王の討伐へと旅立ったのが勇者である。
その勇者が今、どこでどのような活躍をしているのか、そんな記事を毎日教えてくれる新聞という存在に誰もが感謝し、1日の糧として楽しみにしている。
誰もが楽しみにしている新聞の号外だ。
翌日の記事に回すよりも、人々へ早く知らせるために無料で蒔かれる号外は、特別なものだということは誰もが認識している。
前回の号外は、魔王討伐のために勇者が旅立つことが決定したという情報をいち早く伝えるためだった。
今回はいったいどのような話なのかと道行く人は足を止めて、地面に転がった新聞を手に取る。
その一番目立つ文章を目にした誰もが歓喜の声を上げ、その姿を見た人間が何事かと新聞を拾い読むというサイクルができあがった。
『勇者様、魔王の討伐に成功する』
その一文は人々を歓喜させるのに十分な情報だ。
勇者様はいったいどのような活躍をしたのか。
記事の内容を詳しく読んでいくうちに人々は今までのものとは一風変わった記事が掲載されていることに気づく。
記(記者):勇者様、魔王討伐おめでとうございます。
勇(勇者):あ、ありがとうございます。
記:やはり魔王は強かったですか?
勇:すごく強かったです。
記:確かに序盤は圧倒していたのに魔王が真の姿を見せてからは苦戦していらっしゃいましたね。
勇:まさか第三フォームまであるとは思いませんでした。正直、第二フォームでもギリギリでしたから……
記:そうですね。圧倒できるかと思ったところで変身し、苦戦しつつも倒せるかというところで真の姿ですからね。
勇:正直、死を覚悟しました。
記:ですよね(笑) 私も、死ぬかと思いました。
勇:まだ記者さんは離れてたから良いですよ。私なんか目の前であの濃密な魔力の奔流を受けたんですから。
記:いやいや、私はただの記者ですよ? 離れてたって死にますって。超人的な能力を持った勇者様と一緒にしないでください(笑)
勇:ですよね(笑)
記:さて、読者の皆さんも気になるでしょうから勇者様と魔王との戦いについて質問していきましょう。
勇:あ、はい。
記:最初は圧倒していましたし、変身してなかった魔王はやはり大したことなかったですか?
勇:いえいえ、そんなことないです。
記:え!? 端から見ていたら圧倒的でしたよ?
勇:魔王と最初に会話した時――
記:ああ、あの『我に協力するならば世界の半分をお前にやろう』とかいう悪い冗談みたいなやつですか?
勇:そうですそうです。あの時、魔王途中から完全に意識が記者さんに行ってたじゃないですか。
記:『なんでここに一般人がいるんだ』とかなんとか言ってましたね。細かいこと気にしすぎて禿げるタイプですよあの人。
勇:(笑)
記:でも、それがどうかしましたか?
勇:魔王の意識がずっと記者さんに行ってたおかげで、初手は不意を打てたので、流れを持って行けたのが幸いでした。正面から戦っていたらどうなっていたか。
記:意外と私も勇者様の戦いに貢献できていたんですね(笑)
勇:ですね(笑)
記:では、魔王が変身した以外で特に苦労したと思ったのはどの瞬間でしょうか?
勇:第二フォームになった魔王が『散弾爆破小球』を使った時ですかね?
記:ああ、あれはすごかったですね。全方位に飛んだおかげで、私の方にも飛んできましたから……
勇:でも、記者さんペンで打ち返してましたよね?
記:いやぁ、さすがに手帳で受けると燃えちゃいますからね。ペンではね返すしかないですよ。
勇:でも、あれって触れた瞬間に爆発するはずなんですけど……
記:そこは気合いでなんとかなります。
勇:いや……あの……まぁ、はね返したのが魔王に当たったおかげで魔王の体力が半分ぐらいになったのでいいんですが……
記:そうですか。それ以外だとどの場面が辛かったですか?
勇:やっぱり、第三フォームになった魔王が『吸生魔』を使った時でしょうか?
記:黒い球体が魔王の身体から打ち出されたやつですね。あれも全方位に飛んだおかげで私にも飛んできたんですよ。
勇:でも、記者さんあれもペンで打ち返してましたよね?
記:手帳が黒ずんだら書いた中身が分からなくなっちゃいますからね。
勇:でも、あれって触れた瞬間に生命力を吸われるはずなんですけど……
記:失われた生命力は勇気で補えば良いんです。
勇:いや……あの……まぁ、はね返したやつが魔王に当たってほとんど自滅になったからいいんですが……
記:なら問題はありませんね。ところで、魔王との戦いの中で一番驚いたことは何でしょうか?
勇:そうですね……止めの一撃ってところで聖剣を魔王にはじかれたことかなぁ……
記:たしかに、あれはビックリしましたね。死に体だと思ったら止めの一撃を防ぐんですから……私の顔に向かって飛んできたのも驚きですけど……
勇:でも、記者さん聖剣もペンで打ち返してましたよね?
記:そりゃあ、手帳で受けたら穴あいちゃいますからね。ペンではね返すしかないですよ。
勇:聖剣の刃にペンが当たったら真っ二つになると思うんですけど……
記:ペンは剣よりも強いんです。
勇:いや……あの……まぁ、打ち返した聖剣が魔王に突き刺さりましたからいいんですけど……というか、よく考えたら、魔王を倒せたのって半分以上記者さんのおかげなんじゃないですか?
記:つまり、きたる大魔王との戦いでは、自分1人ではなく仲間を集めると言うことですね。
勇:なんでそうなる!?
記:今後も勇者様の活躍から目が離せませんね。
勇:無理矢理締めようとしないで!
いろいろな意味で衝撃的な内容であった。
魔王を倒しても、まだ大魔王が残されているのだ。
人類の危機は未だ過ぎ去っていない。
戦え、勇者よ!
思いつきで書いた。
後悔はしていない。