二通りの選択肢
「幽霊?」
「うん。信じられないでしょ?」
そういうと、少女はその場でくるくると回って見せる。なるほど、確かに浮いているのか。
というかそもそも足が見えない。
「いや、まあ……信じてはいなかったけどさ。見ちゃったからな」
「話変わるけどさ」
もう一周して。
「ちょっと笑ってみて」
口を、弓なりに歪める。
「やっぱりかあ……。目が死んじゃってる」
彼女はがっくりと肩を落とす。
「本当に、感情がないんだね君。……にしても困ったなあ……明日以降私が見える可能性は100パーセントじゃないし。てか、感情って教える物じゃないよね……」
一通り独り言してから、彼女は言う。
「ちょっと待ってて」
「? わ、わかった」
何をするんだろうか。彼女は森の中に入っていった。
三十分経過。まだ彼女はかえって来ていない。
「遅いなあ……」
がさ、と音がした。
「ん?」
「だーかーらー! あんた長生きしてるんじゃん! この子に――」
「長生きしてるからって、何でもできると思うなぁ!」
彼女と、もう一人、何かがいた。
「君か? 感情がないとかいうのは」
「はい」
「まあ、この流れからしてわかるだろうが、俺も、『幽霊』だ。『幽霊』になってから、まあ、ざっと200年ってとこか」
「200年?」
さすがに長い。てか、人間よりも長生きなのか(生きているというかは別として)。
「とはいえ、感情が、ない……か。まあ、おそらく俺たちが見えているのは、あまりにも君が『人間』離れしているからだろう」
「はあ」
まあ、そうなのかもしれない。
「一応、二つの選択肢があるの」
少女が、今度は俺に話しかける。
「『感情』を身につけ、『人間』として生活するのか。それとも――私たちと、同じように『幽霊』に、なるか。そこは君の自由」
幽霊になれるのか。ああいやそうじゃなくて。
「感情って身につけるものなのか?」
「……多分、生まれた時から持ってるものだが――最初は、『うれしい』と『悲しい』くらいで、成長するにつれて増えていく。まあ、だからこそ、感情は教えられるんじゃないか、ってことだ」
なるほど。わかったような、わからなかったような。
「で、君はどうするんだ」
じっと彼に見つめられる。
俺は、どうするんだ? 感情を身につけて、それだけでいいのか?
幽霊になっても、彼女らを見る限り、感情を身につけることはできるだろう。
どうする?
俺が、最初に求めたのは、『感情』。だが、その先になにがあるのか。
そこまでは考えてなかった。
多分、ここが俺の未来を決めるターニングポイント。
そして俺はすうと、息を吸って。
「『幽霊』には、なりません。俺は、『人間』として生きます」
彼は、瞬きすらしなかった。
「ま、そーだろうな。っても、お前。これからどうするんだ?」
「どうする、とは?」
「あーその、なんて言うかな……俺の力が強大すぎて、俺が『視えた』やつはここから出られなくなるんだ。俺が、『視えている』限りは」
なんだそりゃ。
「まあ、その、なんだ。少し頑張ってくれや。そう簡単には死なせねえからな」
そう彼はいい、森の奥へと進む。
「ついてきて」
俺は彼らの後ろをついて歩いて行った。