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 水晶に映し出される砂時計の中の砂は、戸惑っている間にどんどん下に吸い込まれていくのが見える。

 下働きすらままならない人間=生きていけない

 こんな右も左もわからない場所でそんなの嫌だ…


「裁縫の腕を私に!いや裁縫でなくても、とにかく服飾系の技能をください!」


「裁縫か、珍しいな。いいのかもっと簡単に金や宝石が作れる錬金術や商才、魔術、占星術などでなくて」


「どんな職業があるのかわからない状態で決めろと言われましたからね。それにそもそも、民族衣装好きなのですよ、私。和洋中はもちろん全大陸、時代も問わず、民族衣装がが大好きなのです。仕事こそごく普通の総合商社でこれまたごく普通の一般事務をしていたけど、アフター5はすべて趣味に時間を費やしていました。時代コスプレ鑑賞から始まり、新作舞台、伝統芸能、バレエにオペラ、民族楽器、古代民族衣装体験、そして着物。仕事の唯一のいいところ定時上がりを使って、なんでもかんでも衣装が見られたり、着られるところには出没して、お財布は常に閑古鳥は当たり前。趣味が高じて和裁も習い始めて5年目。ドレス作りのために洋裁に刺繍、染めもやりたかったけど時間が足りず、まだ手が出せていたかった道半ばで気が付いたらこんなところですよ。まだやりたいことがいっぱいあったのに!なので服飾系です」


 一息で言い切った私を若干引いた顔で見つめる二人。

 なだ言い足りなけど、さすがに初対面でこれはなかったかなと反省する私。

 3人の間に沈黙が広がった。


「麻衣とやら、お前の望みは承知した。そなたの服飾への情熱、そして長い間草原に迎えに行けなかったことも加味して、最高レベルの服飾関連技術を授けよう。」


 沈黙を払しょくするように発した、美青年の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、手元の水晶が淡く輝き砂時計の動きが止まった。

 言われるがままに手を水晶の上に乗せ、目をつぶると頭の中に大量の何かが入ってきて、体の一部が自分のものではないように変化する感覚が気持ち悪くて、思わず手を放そうとすると、上からぐっと手を押さえられた。

 

 「水晶から離すな。知識が零れ落ちるぞ」


 身体がぞわぞわするような感覚をどうにか我慢して数分。

 目をひらいて手を放すように促され、元に戻るとあきらかに自分の身体と中身が変わったことが分かった。美青年の服、男の服、見つめるだけで作り方が頭に浮かんで、さらには改善点や省略ポイントも何点上げることができそうだ。


「すごいです!すごい!服の事ならなんでもわかる気がします!」


「それは重畳。これにて技能の授けは無事に終わったようだ。そこの男、カルクがばば様の元に送り届けるゆえついて行くがいい。ばば様と面談後、これからの衣食住を案内することにだろうが、それもカルクに聞くがいい」


 未だ名前も知らない美青年は、離れて立つ男…カルクを指さしもう用はないとばかりに、手を振ってこちらの退出を促した。


 その傲慢な態度にいくら美青年でも、容色が霞むよと毒付きたいところだが、今の私には念願の裁縫技術、それも上級らしい裁縫技術を手に入れられてご機嫌だだから、全く問題ない。

 

 「お世話になりました」


 ぺこりと頭を下げてその場を辞した。

 「ありがとうごめんなさい」はマナーだからね。

 

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