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どれくらい時間がたったのか、照りつける日の光が全く変わらないからよくわからないけど、体が軽くて疲れがなくなっているのを感じた。まるで週末の土曜日をすべて眠りに費やしたみたいに、すっきり。
気が付けばあれだけ荒れていた風も落ち着いて、そよそよと気持ちいい風が拭いている。
「体調も万全で、天候も良く、時間もある。これは探検するしかない!」
木のそばを離れて改めて自分の格好をチェックすることにした。着ているものは紺色のレトロな雰囲気の浴衣に赤い絹の三尺帯のみ。靴はおろか靴下も履いていない。あとは浴衣の袖に偶然寝る直前になめていた喉飴が袋ごと入っていたのと、髪の毛を縛っているゴムのみ。
正直スペックが低すぎる…。せめて、せめて靴下くらい履かせてほしいところだ。ありがたいことに踏み出した草の上は柔らかくて、むしろ裸足が気持ちい踏み心地でいつまでも歩けそうな感触だ。
「こんなに気持ちがいい芝生?草原?初めて…」
誰にも見られていない開放感が理性を押し出し、麻衣は地面に身体を投げ出した。手足ををいっぱいに伸ばして、体中のありとあらゆるところで草のふわふわ感を楽しむ。
この気持ちよさ何に例えたらいいのか…例えば床屋さんに行ったばかりの坊主頭の手触りを柔らかくしたようだとか、高級ペルシャじゅうたんの密の細かい優しい手触りとか。
とにかく狂ったように手足を伸ばし、ゴロゴロと動き回り、体中で気持ちよさを堪能した。実際口から涎が出ていたかもしれない。三十路を超えたレディとしては、人様にお見せできる姿ではなかったかもしれない。いや確実になかった。
堪能して堪能してさすがに動かしつかれた身体を脱力するままに草の上に横たえて、空を眺めた。起きた時と全く変わらない日の光に、夢とはいえ違和感を感じずにはいられない。まるで時が止まっているようだ。
空を流れる雲をぼーっと眺めていると、不意に何か動物が近寄ってくる音がした。
びくっと飛び起きて音のする方を除くと、遠くの方に馬のようなものに乗っている人が近寄ってくるのが見えた。手に持った槍のようなものを振り回して、簡易の鎧のようなものを身に付けているように見える。
なんだか物騒だ。逃げた方が良いのか、見つけてもらった方が良いのか、心臓が波打つほどドクドクなりながら考える。
物語的にはお迎えのタイミングかもしれないけれど、あんな物騒なものを振り回しながら近寄ってくる人の前に姿を現す気には全くなれない。逃げるにしても立ち上がったらすぐばれてしまうような平原で、隠れるにしても眠った木からは距離が離れてしまっている。
目をつぶって身体をなるべく薄くするべく草にぴたっとつけて寝転がりながら、とにかく早くどこかに行ってくれることを願った願いもむなしく、音はどんどん近づいてきてついに近くでピタッと止まった。
「おい、寝てるのか?」
私は石、私は草、私は地面と頭の中で必死につぶやいていた私は、すぐには反応することができず、地面にぴたっと身体を付けたままだった。