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肌をなでるどころか、体毛全てをかっさらうような暴風に体をさらされて飛び起きた。
飛び起きた反動で体が少し浮いて、さらに真後ろに転がりそうになるのを慌てで手につくものを握って耐えた。
「いやいやいやいや、ここどこよ」
地面に生えている草をつかみながら数メートル先にある木の元まで這って移動し、やっと身体をの力を抜くことができた。ちょうど自分が隠れるくらいの大木があったからよかったものの、無かったら早々に力尽きて草原の彼方に吹き飛ばされていたかもしれない。
そもそも自分が寝室どころか家の中ですらない場所にいるという状況がおかしい。昨日はいつもの通り12時前に布団に入って就寝したはずだ。その証拠に、パジャマ代わりに着ている着古した浴衣を今も身に付けている。それなのに、目が覚めたら全く知らない場所でパジャマの浴衣を着て、さらには裸足で寝ているなんてファンタジー小説も真っ青なベタな展開だ。
”目が覚めたらそこは異世界だった”なんちゃって。
約30年間それなりに生きてきて、図太さも身に付けているけど、ゴーゴーとなり響く風の中、何もしないでぼーっとできるほど図太くもない。
とりあえず、ぐるっと周りを見渡してみると、今根元に自分がいる木以外高いものないことがわかる。ただただ風になびく一面の緑が見えるだけ。まるで寝る前に見た旅行番組のモンゴルの草原のようだ。ただ足りないのは、モンゴル式住居のゲルに馬に乗った民族衣装の人々だけ。
こんな強風の中、馬に乗る強者なんてあまりお見掛けしないけど。
「そっか、これは夢なんだ。」
予定していた長期休暇が直前で上司の勅命でキャンセルにされた事が精神に響いて、こんなにもリアルな夢を見るなんて、私の妄想力も捨てたもんじゃないかも。これが夢と考えるなら、自分の妄想力・再現力の高さにフフフと知らずに笑みがこぼれる。
もし本当に夢ならば、そろそろお迎えが来てもおかしくない。姫や聖女なんて呼ばれちゃったりして、お城で丁重に扱われて、左うちわの生活。ふわふわのクッションに、美味しいお菓子、肩こりなんて無縁の生活、そして綺麗な衣装…もとい民族衣装!
まだ見ぬ民族衣装に身を包みたいと常々夢見てきたけど、まさか夢の中で夢叶う日が来るなんてお釈迦様でも知らないよっと。
この風だし、当分動けないからお迎えが来るまでこの木の下で待って居よう。
ごつごつした木肌の中でも比較的居心地がいい場所を手で探して、丸くなって眠ることにした。
「お迎えが来るのが先か、夢から覚めてしまうのが先か、それが問題だってやつだわ。」