零-Ⅴ
あれから6日が経った。
想子は未だ帰らず、茜音と桜月も戻って来たと連絡もない。
想子が残した手紙は、想子が発ってからすぐに取り出したが、封を切るのが怖くて机上に放置している。
雨が一層激しく降っている。陽向は心が圧し潰されそうだった。
すると、玄関先から僅かに扉を叩く音が聞こえ、陽向は寝転んでいたソファから飛び起きる。
想子さん。
バタバタと音を立て、勢い良く扉を開ける。…が陽向の視線の先には想子ではなく、一人の女性が立っていた。
「……あ、え…鬼月さん」
「こんばんわ。…想子ちゃんは、いますか?」
鬼月穂村、セミロングの黒髪に蒼い瞳、眼鏡をかけた姿はどことなく暗い雰囲気を漂わせている。
陽向が想子や茜音の他に唯一話す事の出来る人間だ。
陽向は穂村の質問に正直に答えられず、『今はいません』とだけ返した。
瞬間、穂村の表情が曇る。
「そうですか。…何度か電話したんですけど出なくて。…嫌な予感がして」
「嫌な、予感ですか?」
「……どこかへ連れていかれる、感覚です。想子ちゃんは閉じ込められている…どこかに」
巫部島から出られない事を指すなら、穂村の読みは当たっている。陽向の背中に冷や汗が流れた。
が、穂村はこれ以上言及する気はなかった様で、腕時計に目をやれば『じゃあ』と口を開いた。
「帰ります。想子ちゃんが戻って来たら連絡下さい」
「あ、…は、はい」
「………陽向さん」
赤い傘から覗く彼女の瞳が真っ直ぐ陽向を捉える。
何もかもを見透かした様な蒼い色に、底知れない恐怖を覚えて陽向は、思わず後退った。
「……想子ちゃんは、待っていると思います」