零-Ⅲ
失せもの探しとは、陽向や想子、茜音…『他人の想いを読み取れる』力を持つ者が行う事の出来るちょっとした儀式の事である。
まず『他人の想いを読み取れる力』の事を裏詠と言い、失くなったものや人、記憶に宿る魂の断片を片御魂と呼ぶ。
裏詠が出来る者は片御魂の宿る『写真』や『モノ』に触れ、失くなったモノの後を追う。
見つかる場合とそうでない場合も勿論あるが、モノについてはほぼ9割、人については遺体を8割、見つける事が出来るのだそうだ。
「そしたら巫部島にいるって事が分かってね。茜音は桜月君を探す為に今夜から巫部島に向かうみたい。私も行ってくるから、留守番宜しくね」
「はい。……ってえ?ちょっと待って下さいよ!」
流れで頷いた陽向だったが、想子の突然の宣告に慌てて彼女を見つめる。
想子がいなくなっても、店番はとりあえず出来る。しかしごく稀に、執拗に話し掛けて来る客がいるのだ。
ずっと前に、想子が少し買い物に出た時客が来店。
余りにも話し掛けてくるモノだから、耐え切れず陽向は客に「出て行け」と怒鳴ってしまったのだ。
想子が帰って来てから、泣きながら誤りに行ったのは今でも陽向の黒歴史だ。
焦る陽向を見て、想子がくすくすと笑う。
「大丈夫よ。何も店番をしろだなんて言ってないわ。私がいない間は店を閉めててくれて良い。長期休暇だと思ってのんびりなさい」
「……でも、俺。…1人で…、待ってるなんて」
「陽向」
不安な表情を浮かべる陽向の肩に手を置いて、想子が真っ直ぐ目を見据える。
「私達の『帰って来る場所』になって欲しいの。とても重要な事よ。あなたにしか頼めない…お願い」
「……想子、さん」
陽向の手にかけられた手に力が篭る。同時に伝わってくる『危険な目には遭わせたくない』、『信じて欲しい』という真っ直ぐな気持ちに、陽向は嫌でも応えるしかなかった。