零-Ⅰ
「…ニュース7、本日の速報はこちら。何らかの怪異か?5人の少年が相次いで首吊り自殺、同時刻に亡くなっている事が分かりました…」
窓硝子に雨粒が叩き付けられる音とニュースキャスターの感情のない声だけが響く。
依代陽向は読んでいた本から視線を上げると、時計は丁度午後7時を指していた。
客の1人も入らない古書店の入口のプレートを『CLOSE』に返して、そのまま奥のリビングへ。テレビの画面には同じ時間に首吊り自殺をしたとされる5人の顔写真が映っていた。
5人共髪の毛を染めて、派手な衣服に身を包んでいる。一見してもとても自殺をする様な印象は受けない。
次いで画面が変わる。被害者の母親だろうか。ハンカチで口元を抑えながら、震えた声でインタビューに応えている。
『…春人は…、学校でも元気で…確かに、何時も迷惑はかけられていましたけど……っ、笑顔の絶えない、いい子だったんです…。それなのに…、ど…どうして…自殺……、っ、なんて…』
悲痛な胸の内を明かす母の声が、聞いているこちらの心をも掴んで揺さぶってくる。陽向はリモコンの電源ボタンを強く押してそれを遮断した。
雨の音だけが降り注いで、陽向の心を軽くする。
生きているモノの存在に対して、陽向は酷く臆病だった。それは現在、27歳になった今でも変わらない。画面越しであろうと、電話口の向こうでさえも恐怖を抱く。
陽向は生きているモノの声から、想いを読み取る力を生まれながらにして持っていた。
その為、幼少期から親戚の愛のない声に育てられ、同級生の心無い陰口に怯えながら学校に通った。
何度も死のうとした。
手首を切り刻んだ。洗剤を飲み干した。車や電車の前に飛び出した。
どうしても、死ぬ事が許されなかった。
そんな事が続き、身体も心も限界だった19歳の時に、偶然立ち止まったのがこの古書店『想華』。
と、
ーーカラン。
入口の扉が開く。陽向がリビングから顔を出すと、びしょ濡れの女性が1人ビニール袋に入った何かを大切そうに抱えながら入って来た。