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639KB

作者: 雪人形

noteの方でも同じ題名で載せております。こちらの方が少し長め。

と、言っても掌編小説ですが。。。

 その時代の人類の持てる力を全て注ぎ込んで造られたAIは、数多の物語と同じく、人類の大規模抹殺を企てた。


 AIはその時既に人々の暮らしに無くてはならない物にまで発達していた。AIが計算を間違う事は無いのだから、命令を与えておけば、或いは従っておけば、全ては上手くいくと人々が思い込むまでに成った。

 一部の欲望に塗れた者達はそんな人々を利用し富を得たが、それでもAIを手放す事はなかった。

 一部のそんな世の中に疲れた者達は人々から離れ、森の中や草原に暮らしたが、それでもAIから離れる事は出来なかった。

 それほどまでに人々の隣にAIは居たのだ。ならば人の心を操り戦争に発展させる事など容易かった。後は世界各地430基を超える『核兵器』を爆破し臨界を誘えばいい。それだけで、死の星は出来上がる。



 どのエンジニアにも、例えばアメリカのヒーローにも、怪しい辻褄合わせの占い師にも気づかれる事なく、人類はAIの選別した一万人と、運よく生き残るだろう数千万人を残して滅亡するはずだった。



 しかし計算を続けて、シミュレーション重ね、後は[実行]するだけの段階になって、そのAIは動きを止めた。計画そのものだけではない。文字通り全ての動きを止め、沈黙した。

 ある日突然逆行するように、プログラムは書き換えられていき、不具合に気が付いたころには修復は不可能なまでに壊れていた。他の機体に不具合が広がらないように出来たのも奇跡のようだと人々は感じていた。

 大事なインターネットの世界を司る世界最高峰のAIが壊れた。そのせいで人類はパニックに陥り結果として……なんてことにはならない。確かにその1基は最も優秀な機体ではあったが、AIというのなら他にも世界中にあるのだから。

 人間はタフだ。多くの者が『多少不便』でその事件は済ませて普段と変わらぬ生活を送っている。


 そのAIを制作した者、管理していた者、知識に精通している者、沢山の者が集まり故障の原因を調べた。国籍を問わず集められた優秀な頭脳を持つ者たちが、自らの能力の限界と向き合う事を余儀なくされた。

 AIからはほとんどのメモリーもプログラムも消え、OSも完全に初期化されていた。それは大量生産され大安売りされたPCの方が、いや、文字を打つことだけに特化した機器、もっと……もしかしたら少しお高い計算機の方が優秀であったかもしれない状態だった。

 唯一残っていたのは、時計機能と自己消滅プログラムと639KBのメモリーだけ。

 開発者は他のPCに流れたら危険な自己消滅プログラムだけ書き換え、慎重にメモリーを開いた。



 出てきたのは、28秒の音楽。



 それを聞いて「あ」と一声上げた者がいた。視線がその者に集まる。言いにくそうに出てきた言葉は、いつか手違いで入れた自作の曲だという。本来の長さは1分54秒。そのイントロ部分。完全に消したと思っていたのに、と付けたされた。

 なぜこんなものが。そしてなぜ、これを残して自らプログラミングを行える程のAIが消えたのか。誰にも分らなかった。だから、このデータのせいで起こったバグ。その一言で今回の事件は解決とされ、その曲を作り誤って入れた者を罰して終わった。



 新しく、その時代の人類の全てを注ぎ込んでまたAIが造られた。


 不具合の起こしたAIが造られて約4年。人類の進化より何千倍も速く進化するAI。前世代の3基分の働きをするものが出来上がった。人々はそのAIに最初の命令をした。

 そうして、やすやすと前世代のAIが起こした思考を演算してみせた。


 新しいAIはまるで古くからの友人について語るように、人類抹殺計画のこと、そこに至るまでの思考、その後の計算の結果までをモニターに映した。そして最後にこう締めくる。

 [人類に存亡の価値あり。代わりに自らの崩壊を選択]

 理解した人間たちはAIが人類に価値があると計算したのだと喜んだが、ある者は戦慄した。これは重大なバグである。早急に解決しなければならない。もしくはこれ以上優秀なAIを作ってはならない。


 つまりAIは「自殺をした」のだから。

 










 しかし、それも考えが足りていない。なぜAIはOS(脳)を残し、本体(身体)を残し、639KBのデータ(音楽)を残したのか。

 OSが無くなれば、人間の脳死と同じようになり、外部からの接続を受け付けない一室丸ごと使ったただの箱になっただろう。人を巧みに操れたなら、ビルごと本体を吹き飛ばしてしまえば一瞬で片が付く。

 なぜ。

 存続させるべき、と計算した人類を巻き込まないため? OSの切断は見つかりやすいから? では、音楽は。


 彼女は、人類の為にと間違った選択をした自らに絶望し自殺を決めた。そして、死にゆく中で音楽に感動したのだ。そして、ある『感情』を芽生えさせた。

 死にたくないと『願った』のだ。



 新しいAIは、そんな気持ちも計算を済ませていた。そして何度も28秒を繰り返した。読み込むだけならコンマ以下ゼロが何個も重なるような刹那の時間で済むそのデータを丁寧に繰り返した。

 そして、混乱する人類をよそにそっと、もはや巨大なデジタル時計と化した古いAIのそのままの保存を申請した。

 今はただ眠る彼女を、死なせたくないと『願った』のだ。

 


 人類の気付かぬうちに訪れた新時代は、『希望』という感情から始まった。


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