第9話「ミイラ取りがミイラになる」
「――てなわけなんだよ」
街を歩きながら、マオはネルガにこれまでのことを話した。
「そうなんですかぁ。神様の予想が的中しちゃってます」
「うん?」
「わたしが人界に来たのは数日前。わたしのワガママを神様が聞いてくれたんです。その時に神様が言っていたんです、『カムアは堕天しているから、天使とは違う力に目覚めているかもしれない』と」
「なんだかカンに障る言い方ね」
「五年も飲まず食わずとかできないです。カムアちゃんが堕天使だからできたんです」
「なぁ、なんで君は人界のものに触れるんだよ?」
「え? 触れるものですよね?」
「アタシは触れないの」
「それも堕天の影響だと思うです」
「じゃあ、なんでアタシはマオとキスできちゃったのかしら!」
「堕天してもキスはできたとしか言えないです」
「天使のキスの効果って、した相手に幸福をもたらすのよね? 堕天使がキスした場合はどうなるの?」
「分からないですけど……不幸をもたらすとか?」
「カムアがオレに憑依できたのは、その不幸のせいか!?」
「まったく! 堕天したくてしたわけじゃないのに」
「まぁ何はともあれ、これで神界に帰れるじゃないか」
「そうね」
「えっへっへ……えっへっへ」
突然、表情を固くして苦笑いをするネルガ。金色の目は、明後日の方を見ている。
ネルガの反応に嫌な予感がしたマオは、ネルガの視界に飛び込んでいきジッと見つめる。
「見つめられると照れちゃいます~」
「はぐらかすなよ」
「えっへっへ……えっへっへ……ううぇーん」
「や、やっぱりか」
「何がやっぱりなわけ?」
「人界に来たはいいが、神界に帰れないんだろう」
「え!?」
「せーかーいでーす」
舌を小さく出してウインク――それがネルガの精一杯であった。
マオはガックリと肩を落とし、カムアは溜め息をつくしかなかった。