第10話「判明」
チクタックは時計の街。至るところに時計関係の店が建ち並んでいる。
懐中時計を買え気分がいいのか、珍しくジャンが鼻歌を歌っている。リョウコに教えてもらったようだ。
「ご機嫌だな。ジャンが鼻歌なんて珍しいよ」
「おう! これでボクも懐中時計デビューだぜ!」
「デビューするのは勝手だけど、くれぐれも壊したり無くしたりしちゃ駄目よ」
「分かってるぜ。ミルフィーたんの母ちゃんモードはおっかねえぜ」
「ジャン、ミルフィー。せっかくだし何か食べて帰ろうよ」
「それもそうだな。ボクも腹減ったぜ」
「ワタシも。アルトスの名物料理でも食べようかしら」
※ ※ ※
「ただいま――!?」
「お帰り父さん。どうしたのじゃ?」
店のベルが鳴ったのは店主の帰宅の知らせ。
両手に紙袋を提げた父親は目を丸くして驚いている。かけている丸眼鏡を上げたり下げたり。
「店が綺麗になってる! コノハが掃除してくれたのか!」
「あたくしだけじゃない。今日、お客が来たんだ。懐中時計を買いに。だけど店や時計の埃が気になって掃除をすると言い出して」
「変わったお客さんだね」
「掃除を終わらせてからは懐中時計とにらめっこ。あそこまで時計を真剣に見る人なんか久々だったのじゃ」
「へぇ。それは父さんも見たかったなあ。それで、懐中時計は買われたのか?」
「そのことなんだけど……あげちゃった! 掃除してくれた礼に」
オレンジ色の髪を手で掻きながら笑うコノハ。一個の売上がどれだけ大事か重々承知していてあげてしまった。もう怒られるのは覚悟していた。「あはは」と笑ってはいるが、その笑いは乾いている。
「そうなのか」
「ごめんなさい! 勝手に店内を弄らせた挙句、大切な商品をタダであげちゃって!」
「そんなに謝らなくたっていい。いつまでも無意味に動いているより、誰かに必要とされている方が時計だって本望のはず」
「けど売上が……」
「そんなのコノハが気にする必要はない。なんだかんだ店は潰れてないだろう? 時計を売るだけが商売じゃないからだ」
両手に提げていた紙袋から父親が時計を出し始める。
針が折れてしまったもの、動かなくなったもの、蓋が取れてしまったもの、鳴らなくなったもの。用途も種類も様々な時計の数々。
「これはなんじゃ?」
「どれもこれも壊れてしまった時計なんだ。これを父さんが修理する。修理も立派な商売だ」
「父さんがよく店を空ける理由って、こういうことだったの!?」
「そうだ。チクタックには時計関係の店がたくさんあるから部品には困らない。ただ、修理をする腕を持つ人が意外に少ないんだ。壊れたら、新しいのを買う人が増えたからね」
「直すのは大変なのじゃ」
「うん。だから修理代は高い。部品だって安くはないし、手間だってかかるから。それでもこうして修理をお願いする人はたくさんいるんだ」
「どうして?」
「お金では買えないものが詰まっているんだ。何物にも代えがたいものがある」
「お金では買えないもの、か」
「さてと。父さんはさっそく、修理に取りかかりますか」
「意外に行動が早いのじゃ。ん? 父さん。どうして店の掃除をしてなかったのじゃ?」
コノハは浮かんだ疑問を父親にぶつける。
父親は乾いた笑い声を出して小さく呟いた。
「父さん、掃除は不器用なんだ」




