第8話「ネルガの叫び」
次々と料理を注文しては胃に納めていくマオ――今はカムアの意識だが。
「人界の料理がこんなに美味いとは驚きね」
カムアが料理を完食して満足した途端、身体の主導権がマオに戻る。
「……今のはいったい……!?」
「アタシがオマエの身体に憑依したみたいね」
「憑依だって!? 天使って憑依もできるのかよ」
「知らないねそんなこと。憑依できると分かってれば、とっくにしてたし」
「う~ん、面倒なことになっちゃったよ。お前が憑依している間、オレは何もできないっぽい」
「憑依すれば食事を摂れることが分かったのは収穫ね」
「……それにしてもよく食べたよな。オレの財布が寒くなっちゃったよ」
「五年も食べてなかったからね。今回だけは大目にみて」
「今回だけだよ」
※ ※ ※
「いないです、カムアちゃん。この街にはいないのです?」
焼き魚にかじりつきながらカムアを捜すネルガ。すっかり胃は膨らんでおり、どこかで休もうものなら寝てしまう状態であった。
「おいしいものを食べれたからいいです。次の街に――」
ネルガは何気なくレストランの方を見た。ガラスの向こうにいるのは紛れもなくカムア。
「いたー!」
レストランから出てきた二人の前に飛び出していくと、ニッコリと笑顔を向けて声をかけた。
「ようやく見つけたです! わたしのこと覚えてるです?」
「誰? アンタ」
「わたし! 天使のネルガです!」
「ネルガ? ネルガ……ネルガ……」
「思い出しなよ。同じ天使だって言ってるけど?」
「……それは無理な話ね。アタシ、そもそもアンタを知らないから」
「えええ――――!?」
ネルガが悲しそうに声を上げた。