第6話「堕天使のキス」
カムアの言葉にマオは首を傾げる。
「天使のキス?」
「天使のキスは幸福をもたらすの。神界で天使が天使にしているわね」
「ふーん」
「その反応はなんなわけ!?」
「お前、人間に触れないだろう」
「それはそうだけど」
「それに天使だって相手を選ぶだろう。仮にできるとして、お前は誰にするつもりだよ?」
「うっ……」
「それに、キスしたところで何の解決にもならないし」
「うっ……うっさい! 言ってみただけじゃない!」
顔を赤くしてカムアはそっぽを向いた。天使としてできることを言ったまでなのだが、マオに言い負かされて悔しくなる。
「なあ、さっきから思ってたんだけど、お前随分と小綺麗だな」
「そりゃそうでしょう。天使だから、怪我をしてもすぐに治るし、病気もヘッチャラだし、どんな汚れもすぐに落ちるからいつでも清潔なの」
「水にも触れないのに五年も小綺麗なのはそういうことだったんだな!」
「随分と素直な反応ね」
「空を飛べるとか天使のキスってやつなんかよりも凄いと思ったよ」
「そ、そう? お、思い知ったようね!?」
マオに凄いと思われて嬉しくなるものの、それを見せれば舐められると思い感情を押し殺すが、顔の熱さはなかなか引かない。
「どうしたんだよ、顔が赤いけど?」
「うっ、うっさい! そんなにジロジロ見んな!」
「まさか風邪か? 病気もヘッチャラじゃなかったっけ」
「アタシが風邪なんかありえない! あまり舐めないでくれない!」
「いつオレがお前を舐めたんだよ?」
「アタシのことを忘れてたじゃない! それにさっきから――!?」
カムアは興奮するばかりにバランスを崩す。ベンチに座るマオの顔に向かって自分の顔が近づいているのを自覚する。
突然のことに目を見開いて驚くマオ。自分の唇に別の唇の感触があるからだ。
「――お前いきなり何すんだよ!?」
「こ、これは事故だから! だからノーカン!」
二人とも思わず唇を手で拭うが、先に冷静になったマオがカムアの腕に手を伸ばした。伸ばした手はスルッとすり抜ける。
「お前、オレに触れるか?」
「触れるわけないでしょう! どこまでアタシを舐めれば気が済むのよ」
マオの言葉にムッとしつつ、マオが差し出す腕に手を伸ばす。やはりスルッとすり抜けた途端、思わず溜め息をついた。
「やっぱりそうなるよな。じゃあ、なんでキスできたんだろう?」
「知らないわよ。ていうか、よく平然としていられるわね」
「だってノーカンだろう?」
「そ、そうだけど――もう!」
「何怒ってるんだよ」
「うっさい! 怒ってないから!」