第18話「デッサン」
マオは困っていた。鉛筆を持ちながら固まっていた。
紙に描いては消して描いては消して。消しすぎてボロボロになった紙を丸めてゴミ箱に捨てる。既に丸まった紙がゴミ箱に数個ある。
「マオきゅん。そんなに苦しまなくてもいいよ」
「いや、駄目だよ。どうせ描くなら綺麗に描かなくちゃ」
マオたちは今、『己の心を落ち着かせ、他者の心を理解するのに有効だ』との学園長の一言で始まったというデッサンの真っ最中。教室の席が隣同士でペアを組み、お互いをデッサンする。マオは真剣にミルフィーを描こうとしているのだが、なかなか納得ができずにいた。
「ほどほどでいいでしょ。ワタシもマオきゅんを描かなくちゃいけないし。ね?」
「それは分かってるんだよ。オレだって早く終わらせたい。だけどこれじゃあ駄目だよ」
「見せてくれる?」
「……笑わないでよ」
マオはゆっくりミルフィーに紙を見せた。何度も何度も線を描いており、髪の毛先まで念入りに描いてある。
ミルフィーは正直驚いている。同時に感動する。どれほどの下手さかと思っていたら、そこに描かれていたのは紛れもなく自分なのだから。
「凄い……凄い! 凄いじゃん!」
「どこが!?」
描いた本人は驚き困っていた。自分ではまったく納得していないからである。描いた絵と実物を何度も何度も見比べては首を捻る。
「マオきゅんは美意識が高いのかも」
「そんなことないよ」
「あとは……周りに綺麗な女性がいたとか?」
「えっ!?」
「カムちゃんとネルちゃんが一緒だもん。このあいだはジャンにお姉さんの写真を見せてもらったんだけど綺麗な人だったし。ジャンが言ってたよ。『マオっちの周りには美人や可愛い子ばっかだ』って」
「そうかなあ? オレには分からないよ」
「きっとそうに違いない。マオきゅんは、知らず知らずのうちに女性の理想が高くなってる。だから、その絵を見ても納得がいかないんでしょ」
「うーん」
「とにかくマオきゅんはそれでおしまい。描かれたワタシが認めたんだから納得して。ね?」
ミルフィーは、マオから再度紙を取るとニコニコと見つめる。よほどその絵が気に入ったのだろう。
喜んでくれているのは嬉しいのだが、やはりマオ自身は納得できないでいた。
※ ※ ※
「気持ちいいよ~。あー極楽極楽」
「授業を自習扱いにして受けるマッサージは格別?」
「言い方がやらしい。生徒の自主性を尊重しているの」
「流石サっちゃん。教師の鑑だね」
「おっ……おう」
サツキはカナンのマッサージをいつものように受けていた。「自分には絵心がない」とさっさと授業を自習にして保健室に来ている。
「そういえば私、マリク先生に告白されちゃったんだ!」
「ふーん。ふーぅん!?」
カナンの告白に、マッサージでほぐれた身体を飛び起こして反応するサツキ。冷静になろうと眼鏡をかけて深呼吸する。
「驚いた?」
「驚いた驚いた! 驚きすぎて肩つった」
「話、聞きたい?」
「コイバナは女の美容だよ」
「サっちゃんも女の子だもんね!」
保健室は今、男子禁制となった。




