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ほんわか天使とツンデレ堕天使の人界散策  作者: 碧衣玄
第一章 天使と堕天使
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第4話「記憶」

 カムアはマオを指差したまま立ち上がり叫ぶ。

 見下ろされているマオは首を傾げたまま。


「オレはお前なんか知らないよ」


「アタシを忘れたなんて言わせない!」


「そう言われてもなー。やっぱりオレ、お前を知らない」


「ひどい!」


「お前の名前何だよ?」


「アタシはカムアだわ!」


「……知らないよ」


 マオは本当にカムアを知らないのか、やれやれと髪を掻きながら立ち上がりあくびをした。すると、人の視線が自分に向いていることに気付く。


「視線が痛い」


「アタシは人間には見えないから。アンタが独り言を言っているようにしか見えていないんでしょう」


「どういうことだよ?」


「言ったでしょう? 天使だって」


 周りの視線に耐えられなくなったマオは、近くの公園に場所を変えた。小さな公園にはブランコと滑り台と砂場とベンチのみ。


「早く座りなよ」


「アタシは座れないの。人界の物には触れないの」


「不便な身体だな」


「何も考えずに人界に来たアタシが悪いだけ」


「そうか」


 マオはビンを片手にベンチに座ると、向かい合うように立っているカムアをジーッと見る。


「なんだオマエ、アタシのことを思い出したか」


「違うよ。その格好は趣味なのかなって」


「これが天使の正装だわ」


「布を身体に巻きつけたような格好なのに?」


「て、天使を侮辱するの!」


「変な言いがかりはよしてよ。ただ、もうちょっと着飾ってもいいんじゃないかと思っただけだよ」


「何度も言わせるんじゃないわ。人界の物には触れないと言っているでしょう」


「お前、今日までよく生きてたな」


「天使のほうが人間よりも丈夫らしい」


「よく言うよ。あんなに弱ってたのに」


「だ、誰も弱ってなんか――!?」


 マオに言い返そうとした瞬間、カムアのお腹が空腹を訴えてきた。思わず顔を赤くして黙り込んでしまう。


「ほら見ろよ」


「うっさい!」


「なあ、そんなに不便なら帰ればいいんじゃ――」


「――帰れるわけないでしょう! あんな去り方したんだから。アタシには敷居の高いところになってしまった。神界が」


「謝れば許してくれるよ」


「どのツラさげて謝れってんの。第一、どうすれば神界に帰れるのかも分からない」


「なんだよそれ」


「人界に来て五年だってのに分からない。もう見つかりっこない」


「諦めるのかよ」


「ああそうね」


「そうか。別にお前がどうしようと勝手だけど、その腹の虫が鳴いてるってことは、お前の身体は生きたがってるってことなんだよ」


「何言ってるの?」


「五年も何も食べてないんだろう? 故郷の――神界の食べ物を恋しくなったはずだよ。帰れるわけないだろうと言うことは、帰れるなら帰りたいと言っているようなものだよ」


「アタシのことを分かった風に――」


「――ようやく思い出したよ、お前のこと。確かに五年前に会ってるよ」


※ ※ ※


 五年前のマルギア。当時五歳だったマオは、路地でうずくまる五歳のカムアと出会っていた。

 捨て犬のように怯えているカムアに手を差し伸べるマオだが、カムアは走り去ってしまった。


「どうしたの? マオ」


「いまね、そこにおんなのこがいたんだよ」


「そうだったの?」


「うん。でもどっかいっちゃったよ」


「きっとお家に帰ったのよ」


「う~ん……そっか」

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