第21話「人界の天使」
辺り一面に草原が広がる場所に到着したマオは「成功!」と頷き、ネルガとカムアは息を飲む。吹く風は温かく、地面からは草の匂いを感じる。
そんな長閑な場所に建つ家々。そのうちの、赤い三角屋根がアリサの住む家であった。タタタッと玄関まで走りノックをすると、赤ちゃんを抱えた女性が出てきた。
「マオマオ!?」
「昨日の今日で驚いた?」
「もしかして姉貴に追い出された?」
「違うよ。ちょっと配達を頼まれて」
「そうなの。ま、立ち話もなんだ。ジュースでも飲んでいき」
マオが通されたリビングには、三人がけのソファーとテーブルが置かれており、隣の部屋にはベビーベッドが置かれていた。が、それよりもマオが目を惹いたのは――。
「――昨日の今日で驚いた。おもちゃがいっぱいだよ」
「マオマオが出発してすぐに。積み木やらおままごとセットやら――パズルに折り紙……まだ生後一ヶ月なのに。早速の親バカ始まっちゃって」
「英才教育!?」
「勉強なんて基本さえできればいい。けど、子どもの将来を狭めることはしたくない」
「しっかりしてるよ、アリサさん」
「言ってくれちゃって! マオマオのくせに」
「きゃは!」
「この子も笑ってる。うかうかしちゃってると、あっちゅう間にこの子に追い抜かれちまうね、マオマオ」
「あはは」
アリサと赤ちゃんを交互に見て同時に見て――自分と母親に重ねるマオ。幸せな画を羨ましく思いつつ、アリサが出してくれたジュースを飲む。
「可愛いです~! 見とれちゃいます~!」
「ネルガちゃんは、赤ちゃん見るの初めて?」
「わたしは一人っ子ですけど、赤ちゃんの面倒見たことあるです」
「アタシもあるわ」
「お前には訊いてないよ」
「うっさい。言っただけでしょう」
「きゃは! きゃは!」
「どうしたん? マオマオがおかしいのか」
ソファーに座るマオを見て赤ちゃんが笑っているのだが、目線が少しずれている。
「赤ちゃんは色々と見えてる言うから。きっと面白いのが見えてるのだろう」
「きゃは! きゃは!」
赤ちゃんが腕を伸ばした先にはネルガが立っていた。
「わたしが……見えるです?」
「きゃは!!」
「かーわーいーですー!!」
赤ちゃんの笑顔に萌え死にそうなネルガ。頬に両手を当てて身体をくねらせる。
そうこうしているうちに赤ちゃんの興味はカムアへと移る。赤ちゃんが腕を伸ばした方にアリサが向かうと突然、赤ちゃんが力み始めた。
「アタシの前で何なの」
「うー! うー!」
「な、何なの」
「うー! う~! きゃは~!」
力んでいた赤ちゃんが再び笑い出す。それはそれは幸せそうに。
「おや、この臭いは。気持ち悪くて泣き出す前に取り替えるって」
アリサは赤ちゃんをベビーベッドに寝かせると、慣れた手付きでオムツを取り替えていく。
「きゃは!」
「新しいオムツは気持ちいいでしゅかー?」
「きゃは!!」
笑顔でおでこを突き合わせる親子の光景は、見ているだけで癒されるもの。それはマオだけでなく、ネルガとカムアも同じであった。
「かーわーいーですー!!」
「癒されるけど納得できないわね。どうしてアタシの前で大きいのを」
「堕天使だからじゃないか?」
「な、納得できないわね! ……で、できないけど――」
ムスッと赤ちゃんを見るカムアだが、自然とどうでもよくなっていく。
「――許してあげるわっ!」
神界の天使たちも、人界の天使には敵わないのであった。




