第2話「白髪少年とお姉さん」
グラン王国――海に囲まれた国で自然豊か。そんなグラン王国の首都は賑やかである。大小様々な建物がそびえる中を人々は往来していた。
「眠い。あんまり寝れなかった」
白い髪を一本に束ねて歩いている少年。茶色いジャケットを着ているが、その下は肌着一枚だけである。
少年――マオは、ジャケットに六つあるポケットのうち、右の胸ポケットから飴玉を一個取り出して舐め始めた。
「うん。やっぱり飴はいい」
何度か口の中で転がし奥歯で噛み砕く。これがマオの飴の味わい方だ。
朝食を摂るべく歩いていたマオは、フォークとスプーンが描かれた看板を見つけて入っていった。
「いらっしゃい。一人?」
「うん」
二人用のテーブルに着くとグラスに注がれた水を飲み干す。テーブルに置かれた手書きのメニュー表に目を通して料理を注文した。
「パンとオニオンスープだね」
愛想のいい店員だと思いながら、周りに座る客を観察するマオ。注意深くというより、単なる暇潰しといった感じだ。
五分も経たない内に料理が運ばれてきた。湯気を発てるスープをすくって一口。玉ねぎの甘さとコンソメの香りが広がっていく。
「どう?」
スープの味をマオに訊きながら、マオの向かいのイスに座る店員。ニコニコと笑顔を絶やさないのはプロである。
「なんで座ったの」
「子どもが一人で来るのは珍しいんだ。しかも、結べるくらいに髪を伸ばしている男の子ときたもんだ」
「ジロジロ見られると食べづらいんだけど」
「いいのいいの! 気にしないで。で、スープの味はどう?」
「……旨いよ」
「それはよかったね。店長も喜ぶ喜ぶ」
「随分と嬉しそうだけど」
「子どもは正直だからね。美味しければ食べるし、不味ければ残す。そのへんの評論家よりも信用できるね」
「ふーん……おかわり」
「喜んで!」
キッチンへと向かう店員の背中を無意識に追っていることに気づいて窓に視線を移す。窓から外を眺めボーッとするのが癖になっていた。
「眺める姿も可愛い可愛い」
店員はおかわりのスープをテーブルに置いて着席すると、マジマジとマオを見つめる。やっぱり笑顔は絶やさない。
「……食べづらい」
「気にしない気にしない」
「オレを見て面白い?」
「全然。むしろその逆だね」
「じゃあなんで」
「君を見ていると故郷の弟を思い出すんだ。弟は今年で十歳なんだ」
「オレも十歳だよ」
「へえ、それは偶然だね!」
「偶然なだけだよ」
「照れない照れない」
「照れてない。お姉さんに照れる要素なんてないよ」
「ひどーい! それはないんじゃない」
「ごめんねお姉さん。子どもは正直だから」
マオはおかわりしたスープを完食して立ち上がる。左の内ポケットから財布を取り出すが、店員に制止された。
「今日は店の奢りにしといてあげる……ね?」
「オレがお姉さんの弟に似ているから? なんだっていいけど、ウインクされても照れないよ」
「つれないね、君は。私はめげないけどね!」
「……ごちそうさま」
自己アピールが強い店員に見送られながら店を出る。マオは満腹になりあくびをするのだった。