出会いは気まぐれに・・・04
嬉しそうに微笑む彼女に全く悪意がないのはわかっているが嫌味を嫌味で返されるとは思っていなかった彼は思わず苦笑いした後、深いため息をした。
「そうですか‥‥。それはそうと、きみ、名前は?」
「‥‥‥‥人に名前を聞く前に自分から名乗るのが礼儀だと思うけど‥‥私、なにか間違ってる?」
「え?ああ‥‥それもそうだな‥‥僕は‥‥」
「あっ‥‥」
名乗ろうとしていた彼の言葉を遮った彼女は身震いして自分を抱きしめ、小さく震えた。「さむっ」と、呟くと彼は呆れてなにも言えなかった。
「なに‥‥?」
「いや‥‥なんつーか‥‥きみって見た目によらずマイペースなんだなって」
「よく言われる‥‥のんびりでさ、周りからどんくさいってからかわれてるんだよね‥‥」
「ふーん。僕はきみが抱えてる闇がわからないけど、これだけは言える。死んでもいいことはないってこと。でもそんなに死にたいなら一ヶ月後にきみを殺しに行く。この契約は絶対だから生きたいって願っても無理だからね?それとその1年、僕はきみが一番したいことを叶えてあげる。きみは僕になにをくれる?」
その言葉に呆気に取られた彼女は動揺を隠せない瞳で彼を見つめた後
ゆっくりと唇を動かした。
ーなにをくれる?そんなものは‥‥
「‥‥物語をあげるわ」
純粋に笑ってそう言った。
彼は驚いて目を見開くがすぐに元の表情へと変わる。
「物語?」
「そう。物語‥‥あのね、すごいのよ。物語は‥‥文の一つ一つがまるで生きてるように弾け飛ぶの。まるで音符のように‥‥私はね、いつか‥‥いつかよ。誰もが憧れて、面白いっていう小説を書きたいと思ってるの。感動もして‥‥そして、なによりも惹き込まれるような‥‥そんな小説を書いてみたいの‥‥」
「‥‥‥‥いい夢じゃん。今のきみは誰よりも輝いてると思うけど?」
目をぱちくりさせた彼女はくすりと笑っていつの間にか雨が止んで曇っていた空から太陽がひょっこりと顔を出した。