第3話 RUN(ラン)
良は、古坂が言っていることがよく分からなかった。というか『VM』とは何なのかも分からない。やはりこの人は不審者なのかと改めて思った。
「えっと、意味が分かりません。」
正直にそう言うと古坂は「なら、もう少し話そう。」と言った。
本当はもう帰りたいのだが、しょうがなく良は古坂の話を聞くことにした。
「そういえば、君の名前はなんだ。」
「え、竹中 良です。」
「良君、あの足の速さは生まれつきなのか?」
「いえ、中学生になってから速くなりました。それまではどちらかというと遅い方でした。」
「そうか、…なら、VMの可能性が高いな。」
「その、まだイマイチ『VM』ていうのが何なのか分からないんですけど。」
「…『バールブ』は『動詞』っていう意味のことは言ったな。」
「はい。」
古坂は話し始めた。
「動詞というと、playやhaveなどいろいろあるよな。VMとは、ある動詞の意味が人体に付いている人のことだ。多分意味が分からないだろうから、例を出そう。私もVMだとさっき言ったが、私は『FIY』、『飛ぶ』のバールブの能力を使える。私の経験上、上空5000メートルまで飛ぶことができる。まあ、今は事情があってできないが。」
良が言った。
「要するに、特殊な人なんですか。」
「その通りだ。」
ほんの少し分かってきた。VMとは、とにかく凄い人ということが。
「…それで、問題は良君だ。」
「俺が?」
「さっき言ったが、君はVMの可能性が高い。恐らく8割以上、VMだろう。」
やはり自分はVMなのだろうか。まあ確かに足は速いが…。
良は聞いてみた。
「その、俺がVMかどうか分かる方法ってありますか。」
「方法か…。1つある。」
「あるんですか。」
少し良は気になっていた。そして、古坂は言った。
「今、走ってみてくれないか。」
「…走る?」
走る、それが一番の方法だった。自分は足がとにかく速い。他の人達は絶対に追いつけない速さを持っている自分だが、それが自分の持つ能力ではないのかとだんだん思い始めていた。
幸いにも、2人がいる所の近くにあまり人の通らない道があった。そこなら100mは走れる。良は言った。
「分かりました。あの道の100m先にいてください。できれば、『用意、スタート』って言ってくれませんか?」
古坂は「分かった。」と言い、2人は道の方に行った。
準備が整った。後は良が全速力で走るだけだ。
「良君、いいか?」
向こうから古坂が叫んできた。良は「はい。」と大きな声で言った。
「分かった。」
…古坂はいろいろ考えていた。この子がVMだったら、今後どうするか。すぐに闘いに参加するのはまずい。だか、『Vチーム』には入って欲しい。第3軍VMでもいいから…。
とりあえず今は良君の走りを見よう。そう思った古坂は言った。
「位置について、」
その瞬間、良の目が明らかに変わった。古坂には遠くて見えなかったが。
「用意…、」
どうやら良はスタンディングスタートで走るようだ。良は少し腰を下げ、スタンディングスタートの体勢になった。…そして、
「スタート。」
『シュッ ビュウゥ…』
「?!!」
━速い。速すぎる。人間とは思えない速さだ。運動会の時、彼は100mを4.31秒で走りきったと放送で流れていた。計算すると、100÷4.31=約23.1、つまり秒速約23m、有り得ない速さなのだ。一秒で23m進めるということだか、この瞬間、今の彼もそのぐらいの速さだ。あの足はどう動いているのかが全く分からない。速すぎて何も見えないのだ。彼の姿もぼやけて見える。やはり、彼は…。
『ビュン…』と、古坂の目の前に強い風が来た。良が前を通ったのだ。微かに見えた。
良は一気に減速し、古坂のある場所から20mほど離れた所で止まった。
「ふう…。」
と、良は言った。
「良君、」
「…はい?」
古坂良の所へ歩いていき、話しかけてきた。古坂の顔に少し汗が垂れていた。
「凄い、速さだったよ…。」
「そ、そうですか。」
「そして、分かった。」
「何がですか」
「やはり君は、VMだ。間違いない。」
「…っ!」
もう、こう言うしか古坂には無かった。古坂は確実にこの目で見た。あの驚異的スピードを…。古坂は続けて言った。
「恐らくだが、良君のバールブは、『RUN』だ。」
「ラン…『走る』、ですか…。」
「それしかない。」
良は『RUN』のVMと分かった。しかし、古坂にはあと1つしないといけないことがある。
「さて、ここからが問題だ。」
「え?」
「VMと分かったことはいいのだが、後は良君がVチームに入るかどうかだ。」
「Vチームに入る?俺が?」
Vチームとは、古坂が入っている国の秘密組織のことだが、そんなところに入ると思ったら、良は戸惑うばかりだった。
「いやいや、無理ですよ!たとえ僕はよくても、僕の両親がどう言うか。あと友達のこともあるし…。ていうか、Vチームに入ったら都市部に行かないといけなくなるんじゃないですか?」
「…なら、ただ加入してほしい。加入するだけならこの町にいても大丈夫だ。ただ、もし本部から命令があったら、その時は話し合おう。」
「加入…か…。」
ひとまず良は考えた。なんだかもう秘密組織の感じがなくなってきたけど…、まあ…、
「…分かりました。入ります、Vチームに。」
古坂は微笑んで、「ありがとう」と言った。その後、古坂はスマートフォンを出し、何かをし始めた。
「…俺の加入ですか。」
「そうだ。」
ピッ、ピッと鳴りながら古坂はスマートフォンに指をあてていく。そして、『送信完了』という文字が画面に出てきたのが見えた。
「よし、これでOKだ。」
「そうですか。」
やはり加入したという実感が全くしない。が、とりあえずはこれでいいのかなと思った。
古坂はスマートフォンをコートに入れた。すると古坂は言った。
「これで用はすんだ。付き合ってくれてありがとうな。」
「あ、はい…。」
だか、良には1つ気になることがあった。それは、さっき古坂が言った、『奴』とは誰なのか…。
「古坂さん。」
「何だ。」
「その、さっき古坂さんが言ってた、『奴』ってだれなんですか?」
「…っ!!」
何故か古坂の顔が険しくなった。そして「…そうか、もう入っているのなら言ってもいいか。」とボソボソと言った。
「古坂さん…?」
古坂は口を開いた。
「…分かった。少し長いが話そう。」