第2話 突然の出会い
走りきった良は、徐々にスピードを遅くしていく。その間にも、「君!オリンピック出ちゃえ!」等の声が聞こえてきた。良はただ笑顔を見せていた。そして、良は動きがゆっくりになり、歩き始めた。
良が前方に歩いている時、目の前に1人の少年がやってきた。その少年は良に気軽に話し掛けてきた。
「良!やっぱお前すげーよ!ダントツの一位だぜ!?…まあ、ダントツどころじゃないけどな。」
「いやいや、あれは普通に走っただけだよ。」
「あれで普通?ありえねえよ。ははっ」
少年は思わず笑った。良も微笑んだ。
この少年の名前は、上村 俶健。俶健と良は、10年前から一緒に遊んでいた、昔からの親友だった。今日は、良が運動会に出場することを知り、見に来ていた。
すると、後ろの方から「ちょ…ちょっと待ってよー。」という声が聞こえてきた。そのすぐ後に、1人の少女が沢山の人の中から出てきた。疲れたのか、息を切らせていた。
「俶健君…、速いよ…。」
俶健は慌てながら、「ご、ごめん、橋川さん。」と言った。
この少女も、良の友達で、橋川 蓁菜という。橋川と俶健と良は同級生で、とても仲良しだった。
3人は会話した。
「それにしても良君、速かったね。」
「当たり前だろ。良は認定はされてないけど世界一なんだからよ。」
「いや、俶健、それは分からないよ。もしかすると俺より上の人がいるかもしれない。上には上がいるからね。」
「いやいや、いねえだろ。」
「そうだよ良君。絶対良君が一番だよ。」
「そう…?」
「ふふ」
「…ちょっと俺、トイレ行ってくるな。」
「おう。テントのベンチで待ってるぞ。」
「分かった。」
そう言って、良は歩き出した。俶健と蓁菜は白いテントの方へ向かった。
俶健と蓁菜が歩いている途中、俶健は蓁菜に言った。
「蓁菜さんは良のことどう思う?」
「えっ?」
突然言われたので、少し焦った。蓁菜は考えた後、こう言った。
「私は、良のこと凄いなと思ってるよ。優しいし、足が速いし…て、速すぎかもしれないけどね。」
蓁菜は微笑んだ顔で答えた。それを聞いた俶健は、「そっか。」と言った後、少し空を見た。空には雲が点々と浮かんでいた。
━4分後、良もトイレを済ませ、2人のいるところてと進んでいった。ただ、とても人が多くで進みづらかったので、少し遠回りして行くことにした。
━歩いていると、黒のコートを着た男が前に立っていた。なぜかこちらを見ていた。行は不気味に思い、スルーしようとした。その時、
「君、」
男が話し掛けてきたのだ。
「…えっ?」
良は少し驚いた。
「さっき、4秒台で100mを走りきった子だね?」
「え、…あ、はい。」
少し真剣な目つきだった。良に何か話したいような感じだった。
「少し、来てほしいのだが。」
「ヘ?」
『来てほしい』。この言葉の意味は、『誘拐する』という意味だと良は思い、この人が普通じゃない人だと思った。そのため、驚いた声で言った。
「い、いきなり何ですか!?警察呼びますよ!?」
すると男は慌てながら、「いや、そういう事ではない。」と言った。しかし良は怪しく思い、「いえ、呼びます!」と言い、走ろうとした。が、男は慌てて止めた。
「え!?ま、待ってくれ!」
「…何ですか。」良は少し呆れていた。
「本当に、不信な人ではない。私はただ君と話したいだけだ。」
「何を。」
「…その話はここではしたくない。」
その言葉を聞いて少し頭にきた。
「じゃあ、あなたの名前は?」
そう聞くと男は、「あ、まだ言ってなかったな。」と言って、コートのポケットに手を入れて、いろいろ書かれているカードを取り出した。そして男は言った。
「私は古坂 謙講。国の組織の者だ。まあ、『秘密組織』だがな。」
「は?」思わずそう言ってしまった。
「おそらく何の事か分からないだろう。なら、ついてきてほしい。」
さりげなく古坂は『ついてきて』と言った。
古坂が出したカードには確かに『古坂 謙講』と書かれていた。また、名前の隣に『日本国』と書かれたはんこが押されてあった。偽装したとは思えなかった。気になったことに、カードに『Vチーム』と書かれていた。聞いたことのない言葉だった。
「頼む、来てくれ。」
「…うーん、でも、友達とか家族が心配するかもしれないし。」
すると男は、「すぐに終わる。」と言った。
「…。」
考えた末、良は、
「…すぐ終わるんですね?」
「約束する。」
古坂についていくことにした。ただ、良は『この人、何がしたいんだろう。』と思っていた。
歩き始めて1分経った。運動場をたった今出たところだ。
━そういえば、古坂さんにどこに行くか聞いてなかった。
「古坂さん、あの、どこに行くんですか?」
「あまり人気のない所に行く。」
「どうしてですか?」
すると古坂は少し真剣に言った。
「…奴に見つからないためだ。」
「?…」
『奴』とは誰なのか。何か危ない人物なのだろうか。良は静かに考えた。
━その後、2人は日常市にある小さな山の近くに着いた。そこは家などの建物は少なく、人も今は全くいなかった。時々鳥の鳴き声が聞こえてくる。
良は本題に入った。
「で、何を話すんですか。」
「ああ、実は、君の持つ『能力』についてなんだ。」
「能力?」
古坂はそこにあった椅子に座った。
「まず、私の詳しい話をしよう。」
そう言うと古坂は語り出した。
「私の入っている秘密組織の名は、『バールブチーム』通称『Vチーム』という組織に入っている。その、『バールブ』という言葉は・・、」
「『動詞』って意味ですよね。」
「お、よく知ってるな。その通り、『バールブ』は日本語で『動詞』という意味がある。」
「…で、私が言いたいことは、この世界には、ある決まった『能力』が物凄く発達した人がいる。我々Vチームは彼らを『バールブマン』、略して『VM』と呼んでいる。」
「バールブマン?」
「実は私もVMなのだか、今日、新たなVMを発見した。」
「え?」
「それは、」
古坂が良の顔を見た。
「君だよ。」