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 霧香はAPVを先導して次の目標に向かった。あたりは刻一刻と様相を変え、今は小康状態だ。

 アマゾネスは四人の戦死者を出していた。

 APVも一機減っている。霧香たちは低空をゆっくり移動していた。もはや奇襲の効果はなく、アマゾネスは負傷者を手当てする時間が必要だった。半数が怪我を負っていた。

 それでも、ミルドリア女王はいったん引こうとは言わなかった。


 霧香たちは次の拠点の五百ヤード手前に着陸した。

 ここからは地上を徒歩で移動する。戦死したものと重傷の何人かを残して全員が参加した。霧香たちは言葉もなく淡々とした調子で移動し続けた。

 

 上空をローバーの編隊が航過して、アマゾネスはなにごとかと上空を振り仰いだ。

 「さっきの野次馬かな……こんなところまで来ちゃって……」

 不思議なことに、戦いはもう始まっているようだった。行く手でまばらに煙が立ち、まばらな射撃音と大勢の人間の叫び声が聞こえた。

 霧香たちは駐屯地の端に辿り着いた。

 あたりは慌ただしかった。べつの林の中から誰かが発砲しているようだ。ククルカン兵士たちは土塁を築き、その奥に頭を伏せている。断続的な戦闘にはなっていないが、明らかに第三勢力の攻撃を受けている。

 「思ったほど不利ではないようだな……」ミルドリアは煤で汚れた顔に不敵な笑みを浮かべた。

 「それではレジナ、突撃いたしましょうか?」アマキが同様の笑みを張り付かせた顔で応じた。

 女王は頷いた。

 「一歩一歩、行こう。一番近い防御陣地に突撃する」大砲を備えた陣地を指さした。土塁とバリケードに囲まれている。

 十名のアマゾネスがボウガンを構えた。鏃に高性能爆薬を込めた特性だ。矢が一斉に放たれ、土塁とバリケードを吹き飛ばした。続いて霧香とイグナト兵がビームを照射した。敵が応戦できずにいるあいだに女王たちが突撃した。霧香とイグナト兵もあとに続いたが、イグナト人たちは四つん這いで走り、バリケードの下をすり抜けてたちまち土塁の奥に雪崩れ込んでしまった。悲鳴が上がった。霧香たちがようやく防御陣地に辿り着いたときはすでに戦闘は終わっていた。

 べつの防御陣地から応戦が始まり、霧香たちは土塁の影に身を竦めてやり過ごした。銃弾とレーザービームが頭上を飛び交った。

 イグナト人が唸るように言った。

 「ここでのんびりしていられねえぞ。大砲を撃ち込まれたらおしまいだ」

 だがククルカン駐屯地は明らかに全方向を敵に囲まれているようだった。攻撃はあいかわらずまばらだが、霧香たちの陣地に攻撃を集中しきれずにいた。

 頭上を飛ぶローバーの数が増えていた。手榴弾かなにか落としているらしく、爆発が起こっていた。

 そんなローバーの一台が霧香たちの背後に荒っぽく着陸した。撃ち落とそうとレーザーを向けたアマゾネスたちに霧香が叫んだ。

 「まて、撃つな!」

 ローバーの中から女性と男性がひとりずつ現れた。青い制服と帽子、ごついブーツ姿だ。

 女性が霧香たちのほうに駆け寄ってきた。武器を持っていないことを示すように両手を拡げていた。

 「あなたたち、ベンガルヒルに住んでたアマゾネスでしょう!?」

 「そうだ」アマキが言った。

 「わたしは隣のハットフィールド郡に住んでいた……ククルカンに占領されたところよ……」

 「そうか」

 「わたしたちも戦いに加わらせて欲しい。郡議会にねじ込んだんだけど、彼らは日和見で通そうとしている。ここで立ち上がらなければ後がないと言ったのに!わたしはレンジャーの仲間に呼びかけてここに来たの。そうしたらあなたがたが旗を揚げて突撃してゆくのが見えて……」女性はあたりを見回し、ミルドリアの姿をみとめて叫んだ。

 「ああ!女王陛下!わたしたちはあなたの放送を見ました!それでここに集ったのです!どうかお願いです、わたしたちも戦いに加えてください!」

 「願いは聞き届けた。戦士よ。名を名のるがよい」

 「キャシー、キャシー・ゾイル」

 「キャシー・ゾイル。大勢連れてきてくれたようだ」

 「ええ、レンジャーに消防士、元軍人……中にはただ戦いたいと言って着いてきた人も……」

 「では武器を拾え。われわれに着いてきなさい」


 キャシーが携帯端末でどこかに連絡を取ると、林の中から大勢の男女が現れた。みなあり合わせの武器で武装していた。素早く号令がくだされ、やがてキャシーが、突撃の準備ができたと告げた。女王がアマゾネスとともに突撃を始めると、森全体から怒号が上がった。おびただしい数の人間が木立のあいだから湧き出し、ククルカン軍拠点に殺到した。

 大混乱だった。

 霧香たちはとにかく頭を下げ、味方に撃たれないように移動した。

 ミルドリアはもう防御陣地をひとつずつ攻略するつもりなど無く、まっすぐ野戦テントの群れに向かっていた。装甲APVに囲まれた本部だ。突然現れた増援に任せる気はなく、本命を狙っていた。

 本部に近い防御陣地に雪崩れ込み、アマゾネスの二人が砲撃を引き受けた。二人が本部を囲むAPVに砲弾を撃ち込み始めると、ミルドリアはふたたび突撃した。

 破壊されたAPVに取り付き、奥の様子を伺った。もはや応戦はない。

 アマゾネスたちは濃緑色のプレハブ宿舎を囲んだ。

 中から女性の声が聞こえた。

 「撃たないで!わたしたちは降伏する!」

 ミルドリアはプレハブ宿舎のドアを開けて中に踏み込んだ。

 将軍と参謀は死んでいた。若い士官の女性は震えながら両手を挙げていた。

 霧香は女性士官に尋ねた。「なにが起こったの?」

 「分からない……突然みんな死んじゃったの……」途方に暮れ、泣き出しそうになっていた。

 霧香とミルドリアは顔を見合わせた。

 「終わったようだな」

 女王が言った。

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