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 間もなく霧香たちはふたたび上昇した。

 避難民の振りはもうお終いだ。リトルキャバルリーは速度を上げた。街道から右方向にに進路を変え、森林の上を飛んだ。

 アマゾネスのAPVには離れて着いてくるよう指示してある。目標はたった五〇マイル先だ。リトルキャバルリーは音速の三倍に達した。

 レーダーが前方に浮かぶ防御システムを探知している。後方施設を防護するピケだ。レーザーで掃射した。

 対空防御システムの数は少なく、大半は自動システムだった。森林地帯の一部が切り開かれ、おびただしい数の緑色のコンテナが集積されているのが見えた。そんな集積基地が三カ所ほど距離を置いて設けられていた。霧香はリトルキャバルリーを上昇させ、ククルカン駐屯地の全景を頭に叩き込んだ。そしてリトルキャバルリーをふたたび降下させると、機体下部の自在アームを起動させた。

 自在アームの先端から紫色のビームランスが発生した。

 リトルキャバルリーは二本のビームランスを真下に向け、集積基地上空を高速でフライパスした。もともと宇宙船の防御隔壁を射貫くための装備だ。アルミ製のコンテナなど焼き尽くすのは容易だった。森林一帯がたちまち燃え上がった。

 敵の応戦がようやく本格化した。兵隊たちは携帯ミサイルを発砲し始めた。だが周囲が突然爆発と業火に包まれ、おそらく肝を抜かしたのだろう。霧香が加速してミサイルをやり過ごすと、短い応戦がほとんど止んだ。霧香は周囲の炎と断続的な爆発、立ちのぼる黒煙を見渡し、三台のAPVが高度を落として進み続けているのを見つけた。そのAPVの背後に回り、行く手の障害物をレーザーで潰した。アマゾネスたちは荷台の銃座で眼下を掃射している。女王は赤毛をたなびかせ、堂々と立っていた。

 前方にアンテナが林立していた。あれがなんらかの指揮所なのは間違いない。一台の通信指揮型装甲APVが上昇し始めたので、霧香はレーザーで真っ二つにした。

 「マリオン、イグナト側も交戦に入ったぞ」

 「了解です……前方のアンテナ群、あれは指揮所だと思います。叩きますか?」

 「イグナトアドバイザーもそう言っている。われわれはあそこに強行着陸する」

 野戦指揮所はまるい広場になっていて、テントやAPVがたくさん並んでいた。兵隊たちがかけずり回っていた。上空に突如現れたAPVに向け自動小銃を発砲していた。霧香は上空に留まり、パルスレーザーを振りそそいでアマゾネスの降下を援護した。

 アマゾネスの突撃部隊が散開した。霧香はそれを見届けてAPVの側らに着陸した。ハッチを開けて素早く降り立ち、銃弾が飛び交う焦げ臭いフィールドを駈けてアマゾネスたちのあとを追った。

 アマキは一個分隊を従え戦場を練り歩いていた。分隊の半数がボウガンを構えて並び、前方の物陰から躍り出てくる敵に矢を放っていた。それからアマキたちが槍や剣、斧を振り上げて突進する。イグナト兵も片手に巨大なライフル、もういっぽうの手に山刀を構えてのんびりのし歩いていた。時折山刀を振るい、運悪く対峙したククルカンの兵隊を真っ二つにしていた。

 奇襲が成功していた。ククルカン軍のあいだにじわじわパニックが広がってゆくのを感じた。彼らはちょうど侵攻作戦の開始に注意を向けていて、戦闘に巻き込まれるなど想定していなかったのだ。

 ほかの分隊が通信システムを破壊していた。APVが次々と爆発している。

 前方のテントから兵隊が飛び出し、アマキたちに虐殺された。テントの中から巨大な顎を血まみれにしたイグナト兵が現れた。四つん這いで、二本足の時よりずっと素早い。

 右のほうで咆吼が聞こえ、バルカンが兵隊に襲いかかっていた。彼女もイグナト兵に負けず張り切っていた。そのうしろにミルドリアがいた。側らにはレーザードリルを太い腕に構えたバーサがいた。ミルドリアが指すほうにレーザーを向け照射していた。

 「マリオン、、アマキ、無事か?」

 「はい」

 「無事です、レジナ」

 「奴等の救援隊が近づいてくるそうだ。長居は無用だ」

 「了解!」

 アマゾネスたちは統制の取れた動きで後退し、APVに乗り込んで素早く上昇した。何人か怪我人が出ているようだが、まだ戦死者はいない。

 林の中を地面スレスレに移動して次の目標に向かった。

 

 上空は混乱状態だった。

 分散していたククルカン空軍が集結し始めていた。だがそれだけではなく、低い高度を無数のローバーが飛び交っていた。野次馬が乗っているのだろうか。霧香は舌打ちした。危なくてヘタに速度を上げることもできない。だが目標を定められないのは空軍機も同様だ。為す術もなく旋回しているようだった。

 ときおりまばゆく明滅する光が空を垂直に切り裂いた。敵の宇宙艦か、それともイグナト巡航艦の攻撃なのか。軌道上からのレーザー攻撃は着実に目標を捕らえる。地上近くを飛ぶ航空機など止まっているも同然だ。霧香はアマゾネスたちに高度を上げないよう警告した。

 シザーが連絡を寄こした。

 「まだ侵攻部隊はそれほど混乱していない。われわれは砲兵部隊一個大隊を潰した。これから反転してくる先陣部隊の一部に襲いかかる予定だ」

 「気をつけて……わたしたちは次の野戦陣地に向かっています」地図を見て位置を教えた。

 「了解だ。また連絡する」

 通信拠点をひとつ潰しただけでは軍用ネットワークを寸断するには至らないようだ。GHQもまだ健在らしい。

 航空機編隊が霧香に気付いたらしい。レーダーブリップがいくつも接近していた。もはやAPVと併走してもかえって危険なだけだった。霧香はミルドリアに航空機部隊と交戦することを伝えた。

 霧香はリトルキャバルリーを急上昇させた。

 野次馬のローバーは宇宙船の出現に慌てて回避行動に移っていた。メインドライブの咆吼は航空機の比ではない。

 地上からはほとんどデタラメな対空砲火が始まっていた。目標はばらばらで、誰を狙っているのか分からない。ククルカンの航空機は上と下から狙われ、やはり右往左往していた。どのみち一部は侵攻部隊の支援に向かってしまったようだ。霧香は高空を飛ぶ大型機に気付いた。派手に電波を発信している。背中に大きな皿形アンテナを背負ったずんぐりした機体だった。A―WACS機だ。霧香は最大出力のレーザーを放って巨大な主翼を切り裂いた。

 大型機はぐらりと傾いて墜落した。音速の十倍で突進してくるリトルキャバルリーに護衛機は対処する間もなかった。霧香のアドバンテージは速度と、航空機とは比べものにならない大出力のレーザーだけだ。だがいい気になって機動飛行を続けていたらあっという間に地面に追突してしまう……速度が速すぎるのだ。たった一度の旋回でイグナト兵士とククルカン侵攻部隊が入り乱れる主戦場上空まで差しかかっていた。

 戦場は恐るべき様相を呈していた。

 もはや大地全体が燃えているように見えた。まだ地上を動くものがあるのが信じられない。だがククルカンの人型機動兵器と、得体の知れないマシーンが何百機も入り乱れ、壮絶な戦いを繰り広げていた。信じられないほど巨大な戦車が一列に並び、あたりを蹂躙していた。リトルキャバルリーの船内にたちまち何十というロックオン警報が響いた。霧香はたまらず、行く手を飛行する爆撃機編隊をパルスレーザーで掃射しながら戦場を離脱した。

 わずか一分ほど離れただけだったが、アマゾネスのAPVが健在だったので霧香はホッとした。次の攻撃目標に降下しようとしていた。さすがに上空援護が忙しく地上戦に参加する余裕はなかった。パルスレーザーで辺り一帯を掃射して降下を援護した。

 敵はだんだんリトルキャバリーに狙いを定めるようになった。ホバリングして動きを止めていたからいい的だ。いくら強力な防護フィールドを備えているとしても、これではいつか穴を開けられてしまうだろう。二機のレーザーで地上掃射と、飛んでくるミサイルの迎撃をこなした。慌ただしくてほかのことはほとんどなにも考えられなかった。ただ眼下で戦うアマゾネスがいつまでたっても戻ってこないのでじりじりしていた。拠点は炎上していた。攻撃は成功したようだ。

 やがて林のあいだからアマゾネスたちが現れた。

 何人かが肩を担がれ、やっとという感じで歩いていた。

 アマキとイグナト人たち、健在のものが撤退を援護していた。ミルドリアが血まみれの一人を抱えてAPVに走っていた。

 霧香は歯を食いしばり、アマゾネスが撤退を終えるのを待った。

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