街の底
時計の針が頂点に重なった。歯車の組合わさり。濁った夜を震わせる。
網目上の通路を滑り抜けてきた、十二回のかねのねが、ここまで届いていた。金の鐘が三つ高い音をならすとまわりを取り巻く6つの銀の鐘が、一回り大きな体躯を揺らすひくいおと。
かなり離れているのに、以外と聞こえるものだ。聞くところによると、あの鐘が、町のなかなら何処にいようと聞こえるように設計されているらしい。現に、いくつもの通路と、幾つもの岩壁と、幾つもの穴蔵を経由して、金属の柔らかい音は、なだらかに脇を通りすぎ、黒糖を煮詰めた闇のなかに、消えていった。
夜の鐘は、よく聞こえる。と思った。音は、自分一人だけの通路を身をかあがめることなく軽やかに踊っていった。静かだなと思った。あらためて無人の冷たさを実感する。
中央の槍の塔が、12時を告げる頃には、外出は許されない「禁時」であるから、当然一人だった。こんな時間に、歩く者など殆どいない。その数少ない例外だった。
静まった臼青い意思壁に、蝙蝠が改めて羽音をうちならす。横幅腕ふたつぶんの空中歩道を掻い潜る密やかな湿気。
その一番下並ば、湿気は肌にへばりつく重さを備えていた。上の歩道から滴り落ちた水滴が、乾かない石畳に、水分を含ませ、水溜まりには、波紋が交差。
足を進める。みずおとが狭い通路に無人の沈黙を浮き立たせた。
足を這わせて滑るように。速くなりすぎないように。遅くならないように。
踏み潰した足音が靴と石畳の間で微かに反響。
金の音に比べても静かなものだ。また、小さくなったようなきさえする。
一層しんと、静まり返った夜を歩く。
上の通路が、雲の巣のような影を落としていた。月は、はるか上にある。
暗がりの底には、星の光さえ光を惜しんでいた。
瞬きを早める星は、小さく遠い。
さっきから、手の先が冷たかった。
夜は、暗く、冷たい。呼吸が跳ね返ってくるたびに星の瞬きを早める。
心臓は、高く、乾いた心音を放つ。
うちと、外でまわり巡る冷たさ。
柔らかい闇を進み、這いずる虫が、体を包んでいた。
また速くなる。
鐘のねがなりやまない。消えた闇のなかから、自らのうちからせりあがる。
手の先を握り、また一歩進んだ。擦り合わせても、お互いの冷たさを押し付けるだけだった。
闇は暗く。そして長い。
夜があけるまで、後幾ら待てばいいのか。右左、右右、左左。四番街の浦辻を屈めて粋すぎ、曲がり、そこから、6番街の七層空中歩道を横切る。そこから、階段を二段飛ばして転がりかけ降り、最後に六段飛ばして、踊り場を飛び越え、窓の外へ。直ぐそばに予め見つけておいた締めっとした暗がりに身を潜める。そして、塔守をやり過ごした。そこまでは、思い出せる。
呑み込んだ唾は、緊張の味。同じ味がした。
金の音がけていった先に、あるのだ。必要だから歩く。必要だから探す。
夜が、明けたとき。そこにたどり着かなければ。
右手を握る。冷たい。少し汗をかいていた。
今は、誰も握る人はいない手は、少しの骨の先に、申し訳程度の肉がついていた。
ひどく細いそれを、握り会わせ、金の音をおう。
自分一人だ。ここからは。自分一人でしなければ。