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プロローグ

 辺り一面。

 広大に立ち並ぶ建物を一望できる街並みを眺める男は、街の中心部に悠然と聳え立つ城のバルコニーで遠くを見つめていた。


「こんな処に居たのね」


 男の背後から声を掛けたのは、綺羅びやかなドレスに身を包んだ美女。

 肩下まで伸びる艶のある金髪に、整った小さな顔。碧く澄んだぱっちりとした瞳の下には、細く長い鼻筋が通る鼻。ふっくらとした唇の端を吊り上げ、薄く微笑みながら近寄る女性に、男はゆっくりと振り返る。


「リベルか……」


 声の主を確認した男は呟くように名を口にすると、再び町並みへと視線を戻す。


「もぉ……婚約者にその態度はどうなの?」


 リベルと呼ばれた女性は、視線を逸らされてしまった事にご立腹なのか、ツカツカとヒールを鳴らして男の隣へと歩み寄ると、拗ねた表情で顔を覗き込む。


「すまん。少し考え事をな」


 眉を寄せて唇を軽く突き出しているリベルに、男は言いながら肩を抱き寄せる。

 「わっ!?」と可愛らしく驚きの声を上げたリベルだったが、すぐに嬉しそうな表情をすると男の肩に頭を預けた。


「考え事?」


 目を瞑りながら男の温もり感じて、心地良さそうな表情を浮かべるリベルが、そう問いかける。


「魔族との同盟についてな」


 そう言った男の表情は固い。

 返答を訊いて、閉じていた眼を開いたリベルは、盗み見るように視線を上げて男の顔を盗み見る。


「貴方は……反対?」


 リベルの問いかけに、男は軽く頭を振りながら否定した。


「……いや、反対などと大袈裟には考えていない。

 だが、不安の方が大きい。

 今まで我々古人族と魔族は、数万年も敵対関係にあったのだ。

 それが、今になって同盟など、簡単に受け入れられるものではない」

「──そっか」


 男の言葉に短く返したリベルは、そっと預けていた頭を離す。

 そして、一歩一歩踏み出すように歩き、少し距離を取った所で振り返った。


「でも、わたしは嬉しいよ。

 だって、もう争わないで済むから」


 笑顔を浮かべて本当に嬉しそうに、リベルが言う。


「そうか……リベルはそういう女だったな」


 男は納得した表情でそう言うと、緊張させていた頬を僅かに緩めた。


「惚れた?」


 表情の変化に眼を輝かせたリベルが、期待した面持ちで問いかける。


「ああ、そうだな」

「あぁー、そういう時はきちんと言葉にしないとダメなんだよ!」


 男の反応がお気に召さなかったのか、リベルは腰に手を当てて人差し指を向けながら諭すように言う。


「柄ではない」


 そう返しながら、男はリベルに苦笑を浮かべる。


「そうだとしても、女の子は言葉が欲しいのですよ」

「いずれな」

「また、そうやって誤魔化す!」











 更地と化した地に、大きく息を荒げながら男が膝をつく。


「貴様といえども、流石に我らが相手では分が悪いか」

「くっ……!」


 その言葉に、男は見下してくる相手を睨みつけながら悔しげに声を漏らした。


「何をしている、リベル! 貴様も古人族の王族に名を連ねる者ならば、私情を捨てろ!」

「ですが、ルシアス兄様……!」


 苦しげな表情で男を見つめていたリベルを、ルシアスが一喝する。

 それにリベルが抗議をすると、何者かの手がルシアスの肩に乗せられる。


「──よい」

「父上……」


 決して小さくない。むしろ、長身と分類されるルシアスよりも更に一回りも二回りも大きい体格をした父親の制止に、ルシアスは口を閉じた。


「ここまで追い込んでしまえば、あとは余と盟友で事足りよう」

「ええ、我らが死を運んで差し上げます」


 聳えるような巨体を持つ古人族の王が言うと、その影に潜むように立っていた頭に禍々しい角を生やす、スラリとした体格の男が応えた。


「リベル……邪魔だてする事は許さん」


 顔を強張らせながら激しい葛藤に苛まれている娘を一瞥した古人族の王が、そう釘を刺す。

 その言葉にハッと顔を上げたリベルは、言われた言葉の意味を理解すると、唇を噛み締めながら悔しさに身体を震わせる。


『【アエテルニタス・ハウラ】』


 未だ立ち上がることの出来ない男の前に二人が立つと、同時に魔法を発動させる。


 光の槍と闇の槍が男の身体を交差するように貫き、足元には複雑な魔法陣が描かれ鈍い光を放つ。

 二対の槍に貫かれた男は、抵抗するような事はせずに、徐々にその身体を魔法陣へと吸い込まれていく。


(国の為に我が身を擲って尽くしてきたにも関わらずこの有り様とは、実に滑稽だな。

 そこまで、私が怖いか──古人族の王よ)


 沈みゆく自分の姿を冷めた眼で眺める古人王に、そう心の中で問いかけながら睨みつける。


(魔族を取り込んでまで、私を消したかったか──

 だが、明日は我が身だ。せいぜい、そこの盟友とやらに首を狩られんことだな)


 古人族の王の隣に佇む魔族の王にチラリと視線を向けた男には、はっきりとその表情が映し出されていた。

 歓喜に満ちた歪な笑みを浮かべて、沈みゆく我が身を眺める魔族の王を捉えたのを最後に、男のはその身体を完全に魔法陣の中へと沈めていった。

よろしくお願いします。

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