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ジュラルミンと非常口5

開け放たれた混沌の扉の向こうには、全てを呑みこもうとする闇が広がっていた。

俺は、恐れを殺し、その闇へと身を投げた。


五感が、意識が混沌に溶け合い、自分と言う存在が薄れていく感覚。

俺は心に浮かんだ断ち切るように目を閉じた。

しばらくして、ゆらぎが治まる。

そして、聞き覚えのある声が聞こえた。


「おかえりなさい、予想以上に早かったわね」


弾かれるように目を開ける。

最初に目に飛び込んできたのは、ダンボールで閉鎖された非常口の前で

皮肉気な笑みを浮かべる"彼女"の姿だった。

周囲を見渡してみるも、気を失う前に居た筈のマユや女将さんの姿はどこにもない。

ただ、ただ彼女だけが出来の悪いコラージュ写真の様な、

強烈な違和感を撒き散らしてそこに立っている。


嫌な予感を覚えた。


あくまで彼女の能力は『並行世界に転生する能力』であって、

『並行世界に移動する能力』ではない。

ならば、なぜ、彼女が元の、俺の世界の姿でここに居るのだ。


焦燥が口を走らせる。


「なんで、お前がここにいる。マユはどうした?」

「マユ?マユならここに居るじゃない。私がマユでマユが私、最初に言わなかったかしら」


何が楽しいのか、笑いながら彼女はそう答えた。

それが俺の望んだ答えでないのを分かった上でなお、からかうように。

それに助長されるようにして、俺の不安は増していく。

俺は、それを振り払うように僅かに語気を荒げた。


「そう言う意味じゃない、この世界の、元のマユはどこに行ったのかと聞いている!」


その言葉に対して、彼女は笑み一つ崩さず、まるで当然の事の様に言った。


「消えたわ」

「な、何だと?一体なぜ……」

「因果率を意図的に乱れさせたことによって全ての並行世界同士に因果関係が発生したようね。

 あなたがこちらに帰ってくる直前に全ての世界が因果同士の引力によって衝突を起こし、合一化したわ。

 原則として、一世界に同一因子を持つ人間は一人しか存在し得ない、 

 彼女はそのルールに法り、私に統合されて消えたわ」

「それは……」


嫌な予感は当たっていた。


彼女の言葉が真実だとしたら、その原因なんて一つしかない。

因果率の乱れを許した事、そして、俺が混沌の扉を開いた事。

だとしたら、彼女を消したのは……


考えかけて、止めた。

それ以上考えても、どうなるわけでもない。

僅かに浮かんだ罪悪感から目をそらして、彼女に問いかけた。


「……これが、お前の狙いだったのか?」

「いいえ、こういった状況を想定していなかったわけではないけど、

 私の狙いはあくまでも、あの魔法世界の崩壊の阻止にあったから」

「なら、結果的に魔法世界が消滅してしまった今の状況は、失敗なのか?」

「それも違うわ。あくまで魔法世界は消滅したのではなく、他の世界と合一化しただけ。

 最も重要なキーは失われていないわ」


こいつの言っている事がさっぱり分からない。

そう言えば、俺はこいつの最終的な目的がなんなのかすら知らないのだ。


「なあ、結局、お前は何がしたいんだ?」


因果率とやらを捻じ曲げ、いくつもの並行世界を消滅させて。

その上でなお、こいつは何を実現させようと言うのだろうか。


「知りたいかしら?」


少々、興味が湧いた。

ごめんなさい


一年 うらびす

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