ジュラルミンと非常口2
彼女は能天気そうににっこりと笑い、口を開く。
「久しぶりね」
「えっ!」
その言葉に、俺は思わず声を漏らした。
脳内でもう一度彼女の言葉を復唱するが間違いない。
久しぶりね。確かに、そう彼女は言った。
だが、それはおかしいのだ。席が隣とはいえ、会話したことはおろか一緒のクラスになったことさえないのだから。
しかし、彼女は何が可笑しいのか、くすくすと笑いながら続ける。
「あら、覚えていないのかしら?」
「……ごめん覚えてない。どこかで会ったことあるか?」
そんな俺の言葉に、
彼女は気を悪くすることなく、気味の悪い笑みを浮かべた。
「残念だわ、覚えていなくて。ねえ、世界を救った勇者さん。それとも来木元さんの方が良いかしら?」
「……お前なんでそれを知っている?」
全身から冷や汗を出しながらも、俺はそれだけの言葉を必死に紡ぎ出した。
知っているはずがないのだ。
何故ならその名前は、俺が記憶を共有している別の平行世界の『僕』であり『私』だからだ。
多面平行世界記憶共有。
二二二二年に生まれた子供の一部が担った能力のことだ。
無数の子供の中から選ばれた天才は、数多の平行世界の人の記憶を一方的に共有し、その記憶を世の中のために使うよう義務付けられている。
他の世界の記憶──知識は現代の世にないものが多く、今の停滞した科学技術を飛躍的に進歩させるものとして期待されているからだ。
だからこそ、自分が持っている知識は独自性が重要であり、唯一無二でなくては価値がない。
とはいっても、無数に平行世界があるため普通であればそのような懸念をする必要はないのだが。
しかし、彼女は何らかの方法で俺の記憶を見たのだ。
悟られることなく。
あっさり、
音なく、
完璧に。
「あら、そんな警戒しないでよ。別に私はあなたの記憶を盗み見たわけでもないし、言いふらすつもりもないわ」
「……何が目的だ?」
俺は絞り出すように声を漏らす。
圧倒的に不利な立場にいた。
彼女の気持ちひとつで、俺の価値はなくなり、天才は凡人へと成り下がる。
彼女には脅している気はなくても、俺には脅迫にしか思えなかった。
心臓が早鐘を打ち、舌がしびれる。
喉が張り付き、眩暈がする。
だが、彼女が空気を震わせて発した言葉は、見事に俺の予想を裏切った。
「助けてほしいの」
「なんで俺に……?」
「あら、可笑しいかしら。一つ目の世界では『敵』であり『概念』だった私が、二つ目の世界では『親友』であり『中村真由』である私が、この世界では『仲間』になろうとして私が声を掛けるのは間違っているかしら?」
そう言って、彼女は驚くほど白い手を差し出した。
福原優太。
中二病をこじらせました。
少し短いのですみません。