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Re:ゼロから始める異世界生活  作者: 鼠色猫/長月達平
第八章 『ヴィンセント・ヴォラキア』
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第八章40 『取るに足らない脅威』



 ――ハインケル・アストレアは『星詠み』ですらない。


 知っての通り、『剣聖』でもなければ、己の剣力で功績を立てたものが与えられる『ヴァン』の剣名ももらっておらず、ルグニカ王国の近衛騎士団副団長の立場もお飾りだ。

 およそ、選ばれなければ得られなかったモノに何一つ選ばれなかった男、それがハインケルという人物であり、それはヴォラキア帝国へきても変わらない。


 流されるままに戦いに参加し、この世のものとは思えぬ光景に心が折れ、逃げ出した先で命を拾い、そこでまた流されて戻った場所で弱々しい希望に縋り付く。

 その希望も、ハインケルに捨て石の役割を期待した相手がいいように提示した逃避の道しるべであり、その思惑にすら気付けない思考放棄の末の愚鈍さ。


 ――それが故に、狂気的な理由で戦いの方針に逆らったロウアン・セグムントと違い、自分は真っ当に役割を果たそうとして最悪の貧乏くじを引かされる。


「クソったれ……」


 帝都の防衛の要となる城壁の五つの頂点、ロウアンと分担するはずだった南と南東の二点、その両方を一人で担当することになったハインケルは、本来、都への出入りを行うための城門がある第一頂点、それを攻略すべしと南へ向かった。

 それは平たく言えば順当な判断であり、奇抜さとは無縁の妥当な選択と言えた。

 そして、その順当で妥当な選択の末にハインケルは遭遇する。


『――我、メゾレイア。我が愛し子の声に従い、天空よりの風とならん』


 その、第一頂点を守護するように翼を広げる白い龍の威容と――。



                △▼△▼△▼△



 その部屋には、乱雑に宝飾品の類が積み上げられていた。

 金や銀がふんだんに使われた細工品や、宝石をちりばめた衣装や髪飾り、様々な逸品が所狭しと並べられ、転がされ、目にやかましい煌びやかが散らばった一室。

 そんな眩い部屋の真ん中で、マデリン・エッシャルトは目を覚ました。


「――――」


 ボーッと、現実との重なり合いの甘い黄金の瞳が何度か瞬きし、空色の髪から伸びる二本の黒い角を揺すり、小柄な体が立ち上がる。途端、周りにあった宝飾品がぶつかったり転がったり、乱暴に床に散らばるがマデリンは意に介さない。


 宝飾品や金銀財宝、そういった煌びやかなものはまあ好きだ。

 ニンゲンは弱くて脆いわりにやかましくて好きではないが、奴らが宝石や黄金を使って作る細工には他に代えられない魅力がある。

 ニンゲンに命じられた仕事を果たし、それらを褒賞としてもらうのは悪くない。

 それを巣穴に積み上げ、詰め込んで、囲まれながら眠るのはマデリンの安眠に一役買ってくれた。――しかし、宝石も黄金も、心の穴までは埋められない。


「――――」


 ふらと、立ち上がった首を巡らせ、マデリンは巣穴の扉を押し開けた。

 ここは元々、マデリンが『九神将』になってからしばらく過ごした巣穴とは違い、今回のことがあってから急ごしらえした新しい巣穴だ。

 自分の匂いが足りないし、財宝も城の中にあったものを搔き集めたものなので、満足感とは程遠いが、ないよりはマシだった。

 何より、そうして住み慣れた巣穴を捨ててまで移る理由がここにはある。

 それが――、


「――カリヨン」


 巣穴から出て通路を渡り、ぬるい風の吹いているバルコニーへ出ると、そこで翼を休めている一頭の飛竜の姿があった。


『――――』


 名を呼ばれ、こちらに頭を向ける飛竜――その全身の鱗には痛々しい亀裂が走り、どす黒い眼は金色の瞳を浮かべ、命の抜け落ちた器の在り様をありありと示している。

 続々と蘇るニンゲンたちと同じで、彼方から此方へと引き戻された飛竜は少なくない。

 ただ、生前は野にあったモノたちとは意思疎通ができないが、目の前の飛竜――カリヨンのような、限られたモノとの間にはそれが成立する。

 事実、マデリンの呼びかけに反応したカリヨンは、その場で静かに頭を低くした。


 他の死したる飛竜――屍飛竜たちは、たとえ相手がマデリンだろうと、それが命あるモノとみなせば容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

 当然、そんな身の程知らずにかける慈悲はないと、それらを砕くのに躊躇はないが。


「竜は、お前を砕くのはごめんだっちゃ」


 頭を下げたカリヨンの首を撫でて、その冷たさにマデリンは口の端を硬くする。

 元々、空を飛び回るために余分な贅肉のない飛竜の体は体温が低い。とはいえ、触れた指先に伝わってくる熱は、飾ってあった宝石に触れた冷たさだ。

 違うのは宝石と違い、そこに煌びやかさも美しさも感じられないこと。

 それでも、こうしてカリヨンが動いて目の前にいることの尊さには代えられない。


 ――マデリンにとって、カリヨンは初めて目にしたニンゲンに手懐けられた飛竜だ。


 現存する最後の竜人であるマデリンは、竜殻だったメゾレイアの性質もあって、生まれた雲海の外と全く触れ合わないで生きてきた。

 それこそメゾレイアを除けば、マデリンと接する機会があったのは雲海の周囲を住処としていた野生の飛竜たちだけであり、それらにしても竜人に従う存在でしかなかった。


 竜人である自分と、飛竜たちとの間にある隔絶した生物の差。

 それは本能に根差したものであり、何故とか何のためにとか考える余地のないモノ。あって当然の隔たりに、悲観も疑念も生まれる余地はない。

 黄金の美しさを目にしたことのないモノは、黄金の冠を欲しはしないのだ。


 しかし、マデリンの雲海の外を知らぬが故の満たされた日々は、唐突に終わった。

 その終わりをもたらしたのが、他ならぬこのカリヨンであり、『雲龍』たるメゾレイアの気配に上昇を嫌った愛竜をなだめすかし、雲海の中へ飛び込んだはぐれ者――。


「――竜の良人は、バルロイはどこだっちゃ?」


 首筋を指でくすぐりながら、マデリンがカリヨンにそう問いかける。

 口にした名前はカリヨンにとっても馴染み深いもので、音を舌の上に乗せたマデリンの胸にも遅効性の毒のようにじくじくと染み渡る。

 この、魂さえも蝕むような毒の痛みが、マデリンが雲海を飛び出し、ニンゲン共の生きる地上へまで降り立った理由でもあった。

 だが、今はこの毒の痛みは、それまでとは違ったものになりかけていて。


『――――』


 胸の内で毒の痛みを味わうマデリン。そのマデリンの傍ら、撫でられていたカリヨンがゆっくりと首を持ち上げ、小さく喉を鳴らした。

 その仕草と鳴き声が背後を示していると気付き、マデリンが振り返る。

 すると、バルコニーと繋がる通路の向こうから人影がやってきた。その人影はひらひらと手を振り、竜人相手に気安い態度を取ってくる。


「……そんな無礼、お前じゃなかったら竜の牙で噛み砕いてやるところっちゃ」


「そりゃ、あっしじゃなけりゃ尊かれし竜人相手にこんな態度は取らんでしょう。と言いたいところでやすが、存外、『将』には無礼者も多いでやしょうからね」


「そうだっちゃ。本当に、ニンゲン共にはうんざりする」


「たはは、返す言葉がありやせんで」


 苦笑し、肩をすくめるその人物の仕草に、マデリンは呆れたように鼻から息を抜く。

 だが、その息に隠し難い感情が混じってしまった気がして、彼女は自分の落ち着かない心を戒め、色づいた吐息を隠すように手を払った。

 隠し難い感情――それは目の前の相手に対する、とめどなく溢れる熱情だ。


 その顔色も瞳の造りもすっかり違ってしまったとしても、感情に嘘はつけない。

 屍飛竜となったカリヨンにも抱いた尊さを、より一層強く彼には感じてしまう。


「バルロイ、どこにいってたっちゃ?」


 すぐ目の前にやってきた彼と半歩距離を詰め、マデリンはそう問い質す。

 あの、宝物を集めた巣穴でマデリンが眠りについたときは傍にいたのだ。できれば、目覚めるまでずっと傍にいてほしかった。

 そうとは言えないマデリンの問いに、言わなかった心情を察したようにバルロイが「すいやせん」と自分の頭に手をやり、


「どうも、帝都の中をちょろちょろと鼠が走り回ってるようでして。目に引っかかったとパラディオ閣下がうるさくされるんで、ちょいと偵察と報告に」


「鼠……ちゃんと殺したっちゃ?」


「いやあ、これがしぶとい鼠でやして。取り逃がしたと話したら、そりゃもうパラディオ閣下がカンカンもカンカンで、絞られてたとこでさぁ」


 ゆるゆると首を横に振ったバルロイ、彼の言葉にマデリンの瞳の瞳孔が細まる。

 彼が口にしたパラディオというのは、確か蘇ったヴォラキア皇族の一人だったはずだ。兄弟姉妹で殺し合いをするヴォラキアの習慣、それに勝ち抜いて皇帝になったヴィンセントに負けて、その後に蘇った魔眼族の男――。


「竜の良人を困らせるなら、竜がこの手で引き裂いてやってもいい」


「おっかねえこと言いなさんな。たとえ一度は死んだとてヴォラキアの皇族……蘇りの中にゃぁ無条件に従ってる連中も少なくありやせん。その連中も敵に回しやす」


「――ッ、竜とバルロイが死したモノ共に負けるというっちゃ!?」


 だとしたら、それは大いなる勘違いだ。

 協力したマデリンとバルロイの前に、屍人たちが勝てる道理などない。自分たちの邪魔をするというなら、そんな連中は根こそぎに打ち砕いてしまえばいいのだ。

 そう息を荒らげるマデリン、しかし、その細い肩をバルロイがそっと押さえ、


「違いやすよ。あっしらが勝つとか負けるとか以前の問題じゃありやせんか」


「何が……」


「わかるでやしょう。あっしら骸の自由は、あの『魔女』に握られちまってんですから」


「――ッ」


 窘めるようなバルロイの発言に、マデリンは強く奥歯を噛んで押し黙った。

『魔女』とは、この帝都を屍人だらけに変えた張本人であり、今、こうやってバルロイやカリヨンがマデリンの前に立っている理由を作った存在だ。

 不自然な、メゾレイアの竜殻と似たような体の造りをした『魔女』は、竜人であるマデリンでも知らないオド・ラグナの神秘に触れている。

 だからこそ、これだけ大勢の魂を呼び戻し、生前の状態で再現できている。

 ただ一方で、『魔女』が気紛れにその奇跡を中断すれば――、


「マデリンの言う通り、戦えばあっしらは大抵の連中には勝てるでやしょう。けど、たった二人と一頭のあっしらと、数百数千を言いなりにできるパラディオ閣下。『魔女』がどっちを重宝するかはわかりませんで」


「竜たちより、ニンゲン共を選ぶ?」


「わかりやせん。なにせ、『魔女』の御大層な望みが何なのか誰もわかりやせんからね」


 歯痒さしかないが、バルロイの答えには一理も二理もあった。

 いったい、何を考えているのかわからない『魔女』は、自分に協力するならばとマデリンを占拠した水晶宮に置いている。相手に顎で使われるのは腹立たしいが、そもそも地上へ降り立ち、ベルステツの提案を受けた時点でその屈辱は呑み込んだ。

 呑み込み難いのは、相手の思惑がわからぬこと、それ一点だ。


「――――」


 バルロイの言う通り、『魔女』の目的がわからない間は、マデリンは延々と逆鱗に刃の先を突き立てられた状態に等しい。

 それがなければ、バルロイだってこんな状況に甘んじなどせず、マデリンと一緒に雲海の彼方へ逃れ、約束の婚儀を誓ってくれるはずだ。

 そう、果たされなかった約束を――。


「やっとまた、こうして会えたっちゃ」


「……マデリン」


 込み上げる衝動のままに、マデリンはすぐ目の前のバルロイの体に抱き着いた。

 小柄なマデリンよりもずっと身長の高いバルロイ、彼に体を預けると、マデリンの黒い角がちょうど彼の首に刺さりそうになる。それを器用に躱し、マデリンの背中をポンポンと叩くバルロイ。

 その仕草に、一度、感極まったマデリンの抱擁で思い切り角が突き刺さり、バルロイが大量出血する大惨事になったのが思い出され、瞳が潤んだ。


 抱き着いた彼の体は冷たく、触れ合った肌に柔らかみはない。

 マデリンの髪と同じ色だった青い瞳は、やはり熱を感じさせない黒い眼に金色を浮かべたものとなっていて、その心情を見てくれからは容易にわからなくさせていた。


 それでも、思い出を共有している。それでも、願いを知ってくれている。

 落命し、死に別れ、今再び触れ合う体には血も熱も通っていない。だからどうした。


「バルロイがいる。……竜は、それ以上を望まないっちゃ」


 生き死には関係ない。

 死者が必ずしも土の下にいなければならないわけではない。まかり間違って、土の上へと死者が溢れたなら、その中に大切なものがいたのであれば、誰がこのおぞましき奇跡を否定し、過ちだと断ずる資格を持つというのか。

 この竜人たるマデリン・エッシャルトの前で、如何なるモノがそう語るのか。


「――きた」


 愛しい相手の胸に顔をうずめ、冷たい逢瀬を堪能していたマデリンが低く唸る。

 その声音の示すところを察し、優しく背を叩いていたバルロイが手を止めて、その視線をバルコニーの外――はるか遠く、帝都の南へ向けた。

 引っかかったのだ。マデリンの感覚――否、竜殻であるメゾレイアの感覚に。


 何がこようと、マデリンはそこを守護するよう命じられている。

 重ねて言う。業腹ではある。だが、マデリンは迷わない。欲しいものは、ここにある。


「いってくるっちゃ。バルロイ、今度は――」


「わかってやすよ。お呼びのかからない間は、傍にいやす」


「――それでこそ、竜の良人だっちゃ」


 絶対に離れないだとか、ずっと傍にいるだとか、できないことは言わない。

 飄々と、自分の手の届く範囲のことを弁えているバルロイだから、マデリンは過剰な期待も失望もなく、ありのままの彼を愛せたのだ。

 それを改めて確かめて――ふっと、マデリンの体から力が抜ける。


「――――」


 ぐったりと、四肢をだらんとさせてその場に崩れるマデリン。彼女の体をとっさに引き寄せて、バルロイはその小柄さからは想像できない体重をしっかり支える。

 そうして、意識をなくした――否、意識を戻したマデリンを抱き上げた。


『――――』


「わかってやすよ。ちゃんと、優しく運びやすって」


 小さく唸る愛竜は、ぐったりとしたマデリンの身を案じている。

 そのカリヨンの鳴き声に頷いて、バルロイは今一度、帝都の様子に目を向けて、


「たとえ死んでても、また会える。それ以上は望まない。あっしもおんなじでさぁ、マデリン。――また、会えさえすれば」



                △▼△▼△▼△



 ――戦いは一方的に始まり、一方的に終わった。


 そもそも戦いとは戦意のあるもの同士が、その戦意の尽きぬ限りの全霊のぶつかり合いのことを『戦い』と呼ぶのだ。

 その定義に倣えば、一瞬で片方の戦意が尽きたそれは『戦い』ではなかった。


『――――』


 それは、脅威とは呼べないほどか弱いモノだった。

 かといって、敵意や害意を抱いてやってくるモノを、他になんと呼べばいいのか適当なものが見当たらない。取るに足らない脅威、というのが最も適切な表現だ。

 実際、取るに足らない脅威は、通りを箒で払うように尾を振るっただけで木の葉のように吹っ飛んで、周囲の建物を巻き添えに粉塵の中に埋まった。


 呆気ない結果ではあった。が、殊更に嘆くことでも憐れむものでもない。

 それが龍とニンゲンと、生き物として比べ物にならない存在としての隔たりなのだ。


 文字通り、存在の質から違っている龍と相対すれば、ニンゲンは容易く塵と化す。

 何故か極々稀に、そうはならない突出したモノたちがいることは認めざるを得ないが、それはニンゲンという種の中に出現した突然変異であって、有体に言えばニンゲンではない別の何かであるのだ。

 その別の何かであろうと、究極的には龍には生き物として遠く及ばない。


 いずれ確かな形で証明しなければならない事実を、取るに足らない脅威を退けたところで改めて強く、こうあるべきだと認識し直す。

 そうした意味では、この取るに足らない脅威にも存在した価値があった。


『雲龍』メゾレイアの強大さを、改めて『魔女』に知らしめる結果を生んだことと、龍自体に己の存在価値を見つめ直す機会を与えたと――。


「……クソ、ったれ」


 不意に、そうこの世を呪うような声が聞こえて、『雲龍』の動きが止まった。

 龍は翼をはためかせ、薙ぎ払った通りに背を向けて城壁へ戻ろうとしていた。如何なる害意が近付こうと、そこを突破することはできないと結果を示すために。

 そうしようとする動きが止まった。してはいけない声がしたから。


『――――』


 ゆっくりと龍が元の方に向き直れば、ガラガラと音を立てて瓦礫の山が崩れた。

 尾の一撃で崩壊した通りと、うず高く積まれた建物だった残骸の塔、その中からボロボロの状態で這い出てきたのは、赤毛に青い目をした薄汚いニンゲンだった。


 取るに足らない脅威と判断し、実際にそうなったニンゲン。

『戦い』の定義に合わせれば、這い出たそれが今一度、腰の剣を引き抜いてこちらへ向けてくるなら、終わったと思われた『戦い』の幕切れがまだだったという話。

 しかし、這い出てきたニンゲンの全身には、戦意や覇気など微塵もなかった。


「いつも、こうだ……」


 粉塵を肺に入れたのか、咳き込みながらニンゲンがぼそぼそとこぼす。

 改めて、それは呪うような声だった。それも、龍ではなく、世界を呪っていた。自分の立っている足場を、自分を包んでいる空気を、自分を取り巻く何もかもを、そして何よりもその中心にいる自分自身を、呪っている声だった。


「俺は、肝心のとこで、運に見放されて――」


 その恨み節を聞いているのが心底疎ましく、今度は縦に尾をぶち込んだ。

 先ほどは通りを一掃する形での巻き添えだったが、今回はよろよろと立ち上がった弱々しい人影へと、『雲龍』の尾をすくい上げるように叩き込んだ。

 後ろに一回転する尾の打撃を浴びて、直撃されたニンゲンの体が蹴飛ばされた石ころのように吹っ飛び、壁を建物をぶち抜いて、通りを三本も四本も突き抜けていく。


 上空から見下ろせば、胸がすくほど整然と並べられた帝都の街並み。

 それを吹っ飛ぶ体一個で無秩序に打ち壊していくニンゲンは、その在り方も飛び方も死に方さえも醜く不格好で、龍の神経を満遍なく逆撫でした。


 こんなモノのために、美しいものが損なわれていくのは腹に据えかねる。

 挙句に――、


「――ぅ」


 遠く、いくつもの通りを突き抜けていった先で聞こえる呻き声。

 それがどれだけ甚大な被害を受けていようと、半死半生のかろうじての吐息だろうと、そもそも聞こえることがあってはならない。


 龍の尾撃を浴びて、その命が爆ぜない存在など、あってはならない。


「……俺、は」


 あっては、ならない。


『お前たち全員、消えてなくなれっちゃぁ――ッッ!!』


 膨れ上がり、抑え切れない衝動を息吹に乗せ、白い破滅が『雲龍』の、竜殻を纏ったマデリン・エッシャルトの口から放たれ、取るに足らない脅威であるはずのニンゲンへと降り注ぐ。


 これは『戦い』ではない。

 一方的な、一方的であるはずな、虐殺の始まりだった。



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― 新着の感想 ―
ハインケルが成長したらレイド並になると勝手に心躍らせてる
[良い点] ハインケルがタヒん___で無い?! でも、追いブレスとかこの人でなしーーー! 、、、あ、竜だったわw [気になる点] ハインケルは大きな丈の夫であったか、、、 この引きってことは、ブレス…
[良い点] また、思わぬ展開ですね。 [気になる点] マデリン ... あれ、死んでる? いつどうして? 生きてるのか? もしかして、大災いの前から金色の目でしたっけ??? 読み返さねばかな ... …
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