お嬢様達のナイトメア その42
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ズンッ!
魔法攻撃が目の前の敵を薙ぎ払った。
B中隊が孤立している箇所までの通路を確保した。
あのT字路を曲がればすぐだ。
敵の侵入経路は焼き払ったから、敵の後続が来るまでに時間は稼げている。
撤退させるなら今しかない。
後は―――
イーリスが、そう思った次の瞬間、
ズンッ!!
ギャァァァァァァッ!!
角の向こうから凄まじい絶叫が聞こえたかと思うと、
グシャッ!!
鈍い音がして、目の前に壁に妖魔の残骸が叩き付けられた。
「!?」
妖魔の残骸は、叩き付けられたエネルギーで文字通りグチャグチャだ。
爆風に吹き飛ばされたにしては奇妙な死に方だった。
「……」
「……」
イーリスとルシフェルは、互いに頷きあうと、T字通路の端に立った。
二人は、一気に侵入して敵を殲滅するより、まずは敵への魔法攻撃でダメージを与え、それから突撃することを選んだ。
リスクは、可能な限り減らすべきなのだ。
しかし―――
「せぇぇぇいっ!!」
恐らくメイドだろう女の子の声がした途端、妖魔の悲鳴がして、新しい妖魔がまた壁に叩き付けられた。
「?」
思わず、イーリスとルシフェルが顔を見合ってから、そっと妖魔が飛んできた方角をのぞき込んだ。
通路の向こう。
土嚢で作られた陣地の向こう。
そこでは、一人のメイドが妖魔の大群を相手に奮戦していた。
右手にモップ。
左手に対戦車ライフル。
その周囲は妖魔の死骸で埋め尽くされていた。
それはまさに鬼神の戦いそのものだった。
対戦車ライフルを妖魔の群れめがけて放ち、近づく妖魔をモップで文字通り粉砕していくメイド。
微塵の躊躇も情けもなく、近づく敵をすべからく殺していく。
そのすさまじさに、妖魔達も攻めあぐねているのが手に取るようにわかる。
「イーリスさん」
「ああ……栗須殿といい、ここのメイドはバケモノか?」
「いえ、違うんですよ……あのメイド」
「ん?」
「あのメイド、誰かに似てませんか?」
「ん?」
イーリスは目を凝らしてそのメイドを見た。
赤く長い髪。
お嬢様然とした愛らしい顔立ち。
カチューシャに隠れたヘアバンド。
「……まさか」
イーリスは、正直、我が目が信じられなかった。
「その、まさかみたいですよ?」
ルシフェルは、さすがに免疫が出来ているらしい。
「だが、なんで、あの子がここに?」
「可能性は二つです」
ルシフェルは言った。
「出番が少ないから割り込んできたか―――水瀬君を追いかけてきたか」
「この連載開始から半年近く……そういえば、出番がなかったな」
「最近、水瀬君との関係冷え込みっぱなしですから」
そうしている間に、そのメイドは妖魔の群れの中に飛び込むなり、モップを振り回し、対戦車ライフルを逆手に持って妖魔を殴りつけた。
不幸にもそのメイドの周囲に立つハメになった哀れな妖魔達が粉々になって宙を舞う。
ズンッ!
攻めあぐねる群れの中から単身飛び出したのは、重装甲とダイヤモンド相当の硬度を誇る凶悪な爪を持つ妖魔だった。
その戦闘力を誇りとする妖魔が、そのメイドを、戦い甲斐のある敵と認めたのだろう。
それを相手にしたメイドは、恐れている様子すらない。
その背は、明鏡止水の境地とはどういう境地かを如実かつ雄弁に語っていた。
グガァァァァッ!!
妖魔が威嚇の遠吠えを行う。
その妖魔へ、
チョイ。
モップを持つ手の中指をそんな感じで動かすメイド。
意味はわからなくても、敵意だけは感じ取ったのだろう。
怒りの咆哮と共に妖魔が高々とメイドに爪を振り下ろす。
ルシフェルも、イーリスも、メイドは避けると思っていた。
一年戦争で国連軍を悩ませたあの妖魔が相手だ。
それでいいんだ。
しかし―――
戦車ですら踏みつぶすその妖魔の一撃を、
ガンッ!!
メイドは対戦車ライフルとモップを交差してやすやすと受け止めてしまった。
さすがに対戦車ライフルが粉々に砕け、モップがへしゃげる。
だが、メイドは動じることがない。
グォゥゥゥゥッ!!
妖魔は好機と捕らえ、再度爪を構える。
モップとライフルを捨てたメイドが短く何かを叫ぶと、陣地の中から棒―薙刀―が放り出された。
それをメイドは受け取るなり、妖魔に襲いかかった。
薙刀が振るわれる度に、妖魔が細切りにされ、最後にその首が飛んだ。
「……」
「……」
ルシフェルもイーリスも、言葉を失ってその光景に見入っていた。
それは、人間に許された戦い方ではない。
だが、ルシフェルだけは知っていた。
これと同じことが出来る存在を、一人だけ。
あの一年戦争で何度か見た光景。
単独戦闘となると、彼はいつもこうだった。
他人の目がないと知るや、いつも、こうしていた。
だけど、あれは、彼だから、彼一人だから、許されることだ。
同じ事をしてのける存在が、この世に二人といてたまるか。
「……おい」
イーリスがルシフェルに訊ねた。
「こっちは大丈夫みたいだな」
「はい。……あのメイドに任せて、他のメイドさん達が退避するかどうか確認を」
そう言うルシフェルのつま先が、床に転がった恐らく照明の破片を蹴ってしまう。
カンッ
その音が、廊下に奇妙に高く響く。
しまった。
二人がそう思った途端、大きく下がったメイドが、陣地横においてあったそれを掴むなり、目にもとまらぬ早さでルシフェル達めがけて投げつけ、再び敵前へ躍り込んだ。
それは宙を飛び、ルシフェル達の数メートル前で床に着地、そのままスライディングしながら、
ザザザッ
音を立てて、まるではかったように彼女達の足下で止まった。
「?―――!!」
それが何か、少なくともすぐにわかったイーリスは、それを不思議そうにのぞき込もうとするルシフェルの襟首を掴むなり、陣地へむけて突撃した。
ドンッ!!
その途端、それ(C4プラスチック爆弾10キロ)が爆発し、イーリス達はその爆風に押される形で陣地へ転がり込んだ。
「イタイっ!」
イーリスによってクッション代わりにされたルシフェルが堪らず悲鳴を上げた。
上を見ると、銃口を向けるメイド達に包囲されつつ、彼女達へナイフを向けるイーリスの姿があった。
「―――誰だ?」
「アリアハン教会シスター、イーリスだ。通路を開けに来た」
「B中隊、小隊長の長沢中尉です」
銃を引っ込めて敬礼したのは、メガネにお下げのメイドだった。
そのメイド、長沢中尉が逆にイーリスに訊ねた。
「あっちの通路が確保されたのですか?」
驚くメイド達。
「そうだ」
イーリスは短く答えつつ、陣地をちらりと見ると、陣地内には多数のメイド達が負傷して横たえられていねのがわかった。
重傷者はいないらしい。
それが唯一の救いだ。
「退路はすぐにふさがる恐れがある。撤退するなら今のうちだ。司令部は何と?」
「司令部との通信は、包囲された時点で不通になっているの。逆に教えて欲しいわ。他の状況は?」
「芳しくないが、ここよりマシだ」
「最初はよかったんだけど、挟撃されたらどうしようもなかった。爆発で通路を塞いだけど、効果なくて。ここまで持ちこたえたけど、白兵戦で負傷者続出。弾薬はほとんどなし……今では、あの子が頼りなのよ」
長沢中尉は、陣地の外で奮戦するメイドを一瞥しながらそう言った。
「後方に衛生兵と療法魔導師を待機させている」
「わかったわ。ありがとう……各員、後退する!負傷者を担げ!」
「はいっ!」
「下がるんですか!?」
誰より大声で叫んだのは、薙刀片手に妖魔を薙ぎ払っていたメイドだ。
気がつくと、妖魔達を30メートルは下げていた。
「そうよ!」長沢中尉が叫ぶ。
「負傷者を優先します!それまで持ちこたえて!」
「はいっ!」
メイドは返事をしながら薙刀を振るう。
「ここは倉橋さん―――彼女に任せます」
「倉橋?」
「はい。3日前に入ったばかりの新入りです。なかなか優秀だと思っていたのですが」
「……仕事」
「……大丈夫なのかなぁ」
「ルシフェル、いくぞ!」
「早くどいてください」
「ああ。忘れていた」自分のクッション代わりになり続け、恨めしそうにこちらを見るルシフェルに気づいたイーリスが立ち上がった。
「あのメイドを支援する」
イーリスはルシフェルにそう言った。
それは、乱戦を得意とする者の戦いに、下手に助太刀することがどれほど愚かなことかわかっているイーリスならではの指示だ。
「メイド達の後退が完了次第、下がらせる。余計な手出しはしなくていい」
負傷者を弾薬を運び込んだトラックに乗せ、メイド達が銃を手に後退するのにかかった時間はわずか2分。
上空では信濃が艦砲の射撃準備にかかっていた。
門上空を旋回する信濃の艦内は、すでに臨戦態勢のまま、乗組員各員が指示を待つ。
「艦長、始めますぞ?」
主砲射撃指揮所にいる砲術長からの通信に、艦長は頷くなり、
「よろしい。―――対地上砲撃戦闘合戦準備!」と叫ぶ。
途端に、ブザーが鳴り響き、オペレーターの声が艦内に指示が飛ぶ。
各所に「合戦準備!」と書かれたマジックホログラフィボードが艦内の各所に浮かび上がる。
「主砲、砲撃戦!一斉射撃!」という表示がすぐに続く。
主砲射撃指揮所に座る砲術長の周囲では、オペレーター達の動きがあわただしい。
「主砲射撃準備成せ、収束率50%、弾幅2300mm。一斉射撃!」
「主砲射撃準備、収束率50%、弾幅2300mm―――宜候」
「MCへデータ転送中」
信濃においておよそ「砲」とつけば、それはすべてメサイア同様、メサイアコントローラーによる火器管制によりコントロールされる。
絶対に外れることはないとまで言われる精度を誇るMC達が、信濃を形成する精霊体と共に目標へ向け、主砲を向ける。
主砲砲塔内にエネルギーが流れ込み、主砲射撃体勢が整えられる。
モニターに、
「MC、準備完了!」の表示を見たオペレーターが叫ぶ。
「主砲照準よし!」
ほぼ同時にオペレーターからも報告が入る。
「第一、第二、第三砲塔射撃準備よし」
「砲塔連動確認、連動よろし!」
「MC、統率射撃……いろいろまとめてオールオッケーです!!」
オペレーター長の報告を受けた砲術長が命じた。
「よろし……撃ち方始め!」
メイド達が角を曲がりきった。
イーリス達もその後に続く。
先行する斥候担当のメイドが、さらなる角をのぞき込み、手招きで、先が安全であることを宣言する。
メイドとトラックが急いで通路を走り抜け、敵の進入路を抜けた。
進入路からの増援はない。
「敵も消耗しているということか?」
「地下シェルターへの攻撃に戦力を向けたのかもしれません」
「あるいは―――」
「あるいは?」
「門防衛に戦力をとられているか」
「とにかく、急ぎましょう。ここは封鎖でいいんですよね?」
C4爆薬が入った袋をかついだルシフェルが訊ねる。
「爆破ポイント、どうします?」
「橋頭堡前数カ所吹き飛ばす」
「じゃ、後は」
「彼女を下げさせることにしよう―――きりがない。長沢中尉、それでいいか?」
「はい」
部下の撤退を見送った長沢が頷いた。
「倉橋さん!下がりなさい!」
長沢の言葉に反応したのか、すでに後退する妖魔の殲滅戦に移りつつあったメイドが一跳躍で通路の端まで飛び下がる。
そして、イーリスとルシフェルの顔を見るなり、血相を変えて叫んだ。
「いましたっ!」
「え?倉橋さん?」
長沢中尉はワケがわからないという顔でメイドの顔を見る。
メイドは長沢中尉の存在を無視したようにルシフェルに攻め寄った。
「どこですか!?」
「やっぱりっていうか、どうしてここが?」
「携帯電話の通話記録から発信源を突き止めました。後は適宜必要に応じて」
「……本気でそういう所に勤めてみない?成功するよ?」
「私の目的は、あの浮気者に天誅を喰らわせるだけです!」
「妖魔は?」
「立ちふさがるなら排除する―――しかも、こんなカワイイエプロンドレスを着るかよわき女性に襲いかかるなんて、あらゆる観点から許されることではありません!」
「よ、よくわかるけど……」
ルシフェルは訊ねた。
「結局、成り行き任せだったんだね」
「仕方ないじゃないですか!」
メイドはくってかかった。
「ルシフェルさんまで行方不明、しかも、私には事務所へ圧力が加わるし!」
「圧力?」
「永久に、どこか日本国外で仕事させろって!かなりの資金援助と政治的圧力が加わったんです!あやうくヨーロッパへ送られる所でした!こんなの、絶対、誰かの陰謀です!」
「で、逃げ出してきたんだ……よく騒ぎにならなかったね」
「マスコミすら潰しているんですよその圧力は!」
ルシフェルとイーリスは、そんなことをする相手に心当たりがありまくった。
間違いない。
二人は確信した。
あのお方だ……。
近頃、水瀬との関係が急上昇、ヒロインの地位を確保しつつある以上、邪魔者を合法的に水瀬君の前から抹殺するつもりなんだろう。
無論、二人共、止めることが出来る立場ではないが……。
「それで!?」
彼女はついにルシフェルの胸ぐらを掴んだ。
「悠理君はどこですか!?」
「長沢中尉、部隊を連れて先に」
イーリスに言われ、困惑しながらも二人の関係者と判断した長沢中尉は敬礼の後、部隊を追った。
「こんな女子校に何の用があるっていうんですか!?」
「そ、それは水瀬君に聞いてほしい」
「知っているんでしょう!?」
「水瀬君から説明聞いて」
「女装が趣味になって、身も心も女になったなんて、そんな話はないですよね!?そうですよね!?」
「……まぁ、落ち着け」
イーリスがメイドの肩に手を置いた。
「いろいろ大変だが、とにかく落ち着け。瀬戸さん」
そのメイド。
瀬戸綾乃が、ルシフェルから手を放した。
ここで皆様にクイズです。
Q:本来ならば、銃を撃つべき職業の連中がシェルター内にいます。
それはどんな連中でしょうか。
以下、ヒントです。
ヒント1、樟葉達には銃を向けました(つまり、SP兼ねてる人達です)。
ヒント2、男爵の娘を止めたのは栗須と?
ヒント3、シスター・マリアの焼死体第一発見者のこの職業の人です。
ヒント4、この職業の主人公が活躍するマンガがアニメ化されます。
回答方法:評価欄にて感想とご一緒にお願いします。
期限:07年3月10日(土)まで。
賞品、というのもヘンですが、お嬢様達のナイトメア後日談、
「プリンセスワルツ」(仮題:日菜子&水瀬)
「副会長の割とヒマな一日」(仮題:生徒会スタッフ)
「スクープ!生徒会長の驚愕の過去を見た!」(仮題:栗須)
以上、短編3本の本編終了後の順次作成と公開を実施します。
条件 クイズ正解者が10名を越えた場合のみ公開とします。条件を満たさない場合、公開しません。
こぞってご応募下さい。