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お嬢様達のナイトメア その41

イベント開催中です。

後書きをご確認ください!

 「せいっ!」

 イーリスが気迫の言葉と共に切り込んだ。

 ルシフェルがその背後から支援の攻撃魔法を飛ばす。

 ギシャァァァァッ!!

 突然、背後から攻め込まれた妖魔達は、為す術もなく撃破されていく。

 通路を埋め尽くさんばかりの妖魔達を相手に、イーリス達は恐れることなく、その真っ直中へと飛び込んでいった。

 

 

「信濃の艦砲射撃?」

 メイド達の参謀、三千院中尉からその言葉を聞いたのは、近衛軍大尉の岡本大尉だった。

「はい」

 弾着観測用に派遣された飛行艇の中、テーブルタイプの戦況情報システムを挟んで、メイドと士官は向かい合っている。

「出来ない」

 岡本は拒んだ。

「一女官の発案であの主砲を発射するなど」

「殿下の危機です」三千院は岡本の言葉を遮るように言った。

「すでに殿下は地下にて孤立。増援を止める手段は信濃艦砲の他、ありません」

「……信じられない」

「この状況を前に、そうおっしゃるのですか?」

 三千院は戦況情報システムに映し出される戦域マップを指で突いた。

「……状況はわかる」

 岡本は苦い顔で言った。

「敵の狙いは生徒達……殿下も間違いなくその中にいらっしゃるのです」

「……」

「殿下を、見殺しになさるおつもりで?」

「そ、そんなことはないが……しかし」

 岡本が渋る理由を三千院はよくわかる。

 岡本大尉はメサイア部隊の後方に位置し、情報収集と戦況監視が任務であって、独自の判断で砲撃支援を命じる立場にないのだ。

 しかも、肝心の砲撃支援要請は、近衛軍とは無関係に近い女官から出されている。

 たとえ、殿下の危機と言った所で、そんなことは皆、わかっていることだ。

 メサイア部隊が寮の周辺に配置され、魔法騎士隊がその中で、共に戦っているのはそのためなのだ。

 そんな中で、信濃による艦砲射撃を上層部にかけあっても、却下されるどころか、「独断と焦燥感により混乱を来した」として岡本大尉の進退に及びかねない。

「岡本大尉」三千院は労るように言った。

「ならば」

「ん?」

 苦虫を噛み潰したような顔の岡村が、戦域マップから視線をメイドに戻す。

「考え方を変えてください」

「考え方?」

「そうです」

 三千院は戦域マップの一点。ポイントAを指さしながら言った。

「メサイア部隊と交戦中の敵はここから出現しています」

「そんなことはわかっている」

「しかし、それはごく一部に過ぎません」三千院は岡村の言葉を無視した。

「ほとんどの敵は、地下をそのまま前進しています」

「……」

「このままでは、別な場所、最悪、メサイアの直下を襲われ、メサイア部隊は包囲、最悪なら殲滅される恐れがある―――そうは思えませんか?」

「攻撃の及ばない地下からの奇襲の恐れあり。敵を地上に誘出す必要有。従って、ポイントAに通じる地下通路を破壊するのが得策である……そう進言しろと?」

「正解です」

 三千院はニコリと笑った。

「全く」

 メイドの微笑みに、岡本はやや頬を赤くして答えた。

「進言はしてやる。弾着地点に仲間はいないんだな?」

「当然です―――何分後に?」

「30分以内だ」

「10分以内に」

「わかった―――通信!緊急通信、信濃につなげ!」

 

 

 

「ギャンッ!!」

 

 床に叩き付けられたタマが悲鳴を上げた。

 猫とはいえ、バケ猫だ。

 魔法騎士とだって互角に張り合えるバケ猫のその身が、目の前の存在にまるで相手になっていない。

 

「もうやめなよ」

 水瀬は、労るような、哀れむような、沈んだ口調で言った。

 

「僕は戦いたくてここに来たんじゃない。それに、君がそんなに苦労する理由なんて、もう、どこにもないんだよ?」

 

「う、うるさいっ!」

 タマは、憎悪の光を目にたたえたまま、立ち上がり、水瀬に飛びかかった。

 

「!?」

 タマの必殺の爪は、かつて多くの騎士達を殺してきた爪は、水瀬にかすりもしなかった。

 

 爪を外されたタマは、水瀬の喉元を狙って牙を剥く。

 

 それすら、外された。

 

「ニンゲンにだって何にだって、運命ってものはあるよ……」

 

「そんなもの、僕は知らない!」

 

 再度、飛びかかる。

 

 また、かわされた。

 

「運命は、自分で切り開くモノだっていうけどさ……どうあっても、受け入れなければいけない運命って、あるんだよ?」

 

「ご主人様の死は運命だったというのか!?」

 

「そう……そういうものなんだと思う」

 

「黙れっ!」

 ついに水瀬の袖に噛みついた。

 布の味が口の中に広がる。

 さぁ!すぐに、肉と血の味を―――

 

「!?」

 どこをどうされたのかわからない。

 顎を開けた瞬間、タマは宙を舞っていた。

 

「昔は知らないけど、だけど、今の君が本当にほしいのは、敵討ちじゃないんだ―――そうでしょう?」

 

 床へ着地したタマに水瀬は言う。

 

「君が欲しいのは、“理由”なんだよ」

 

「……何?」

 

「ご主人様が死ななければならない理由……憎むべき相手……ううん。それさえ違う」

 

「……」

 

「君は、憎む理由を失いたくないだけなんだ」

 

「戯れ言を!」

 水瀬の手がタマの背を叩き、タマはそのまま床にたたきつけられた。

 

 ポウッ

 

 水瀬の手が小さく光る。

 それは療法魔法。

 決して意識したものではない。

 水瀬自身が、その発動に気づくと、驚いたように光を消した。

 光った手は、じっとりと汗をかき、困惑したように握っては放しを繰り返す。

 

「最初は」

 全身の痛みに耐えるタマの耳に水瀬の言葉が聞こえてくる。

「グッ……グゥゥゥッ」

 起きあがることが出来ない体でタマはもがいた。

 

「確かに、敵討ちを望んだ……でも、仇を討った後、君は憎むべき相手を、自分がバケ猫として生きる理由を、全てを見失った……。バケ猫だから簡単には死ねない。長い年月を無為に過ごす内、君は何のために生きているかわからなくなった。だから、だから君は学園の生徒を守るっていう存在理由を見つけて、それに固執しようとしている……君は、そういう存在なんだ」

 

「わ、わかりきったようなことをいうな……」

 

「北村真由は、ある意味、君のご主人様にはなれなかった。君は、彼女の死で自信を失った……だから、敵討ちをしなかった……そうでしょう?」

 

「……ろ」

 

「そして―――君、あの戦争へ行ったんでしょう?それって」

 

「やめろっ!」

 大声で叫ぶタマはふらつく体で立ち上がった。

 

「訳知り顔でモノをぬかすな!貴様のどこに、他人の思いを語る権利がある!?」

 

「……それを言ったら、誰も何も言えないよ。死にたい時って、誰にだってあるし」

 

「わかってる!」

 タマは言った。

「僕は、ご主人様を守れなかった……それは僕の罪だ!そんなことは僕自身が一番わかっているんだ!だけど、罪を負ったから、僕は死なずに生きてきた!その贖罪のためにも、もう、ご主人様のような娘を、あんな悲劇を繰り返さないためにも!―――僕はそのために生きて戦ってきた!死ねなかったんだ!!」

 

「!!」

 猫の魔法が水瀬を襲う。

 防御魔法が水瀬を守るが、衝撃波は教室のあらゆるものを吹き飛ばした。

 

「僕は頑張ったんだ!やるだけやったんだ!」

 叫ぶタマの両眼に涙が浮かんでいた。

 

「……タマ」

 水瀬の目から涙がこぼれ落ちた。

 

「僕を苦しめるな!出ていけ!この学園から出ていけ!」

 

「タマ……」

 破れかぶれの攻撃。

 攻撃は防ぐことが出来る。

 だが、タマの言葉は、確実に水瀬の心に傷をつけた。

 

 

 目標をもって生きる。

 それは素晴らしいことだ。

 

 だが、その目標を果たした後は?

 

 何かを目指す者の多くが忘れていること。

 目標を果たした途端、それが襲ってくる。

 それは虚しさという名の代償。

 目標を渇望した頃の反動のように襲う恐怖に似た空っぽの思い。

 この猫にはより過酷な代償が求められた。

 “理由無き生”。

 生きている理由すらわからない、いや、ない。

 そんな悲惨な日々を送ることを求められた。

 この猫はあがいた。

 そして、新たな生きる理由を、それでも見いだしたのだ。

 

 自分とは関係のない者達を守るという、報われない理由を……。

 

 この猫は、それに忠実に生きてきた。

 

 傷ついても、

 苦しんでも、

 たとえ、己の理由……いや、大義名分を果たしても、

 何一つ、救われることも、報われることもない、虚しい生を。

 

 それが、水瀬には辛かった。

 

 それは、水瀬の運命そのものなのだ。

 

 目の前にいる運命の先達を、水瀬は悲しい思いで見つめた。

 

 限りなく近い、自分の未来の姿を見つめているような、そんな錯覚すら覚えた。

 

「もうやめなよ!」

 水瀬の手がタマの横っ面を張った。

 猫が弾き飛んだように床を転がった。

「もうたくさんなんだ」

 水瀬は言った。

「君が傷つくことなんて、誰一人、世界中の誰一人も望んではいないよ」

 

「人の横っ面張ってそのセリフか……」

 

 タマの意識は限界に来ていた。

 意識が朦朧として、体に力が入らない。

 

「君のご主人様は、君に仇をとれなんて言っていないんでしょう?君はご主人様の菩提を弔っても、それ以上のことはするべきじゃなかったんだ」

 

「……僕が、間違っていたというのか?」

 

「そうだよ。いい?これは最初で最後の質問。……選んで」

 水瀬は猫の目を見つめながら言った。

 

「こんなこと、もう止めるか。それとも、ここで殺されるか。―――二つに一つだよ?」

 

 猫は、最後の意志でまっすぐに水瀬を見ながら言った。

 

「―――殺せ」

 

 ブンッ。

 

 水瀬の霊刃が光の剣を作り上げる。

 

「さよなら……天国のご主人様によろしく」

 

 水瀬は、霊刃を振り上げ、

 

「?」

 

 自分の腕を掴む者、彼女の存在に、気づいた。

 

 見たことのない制服から伸びる白く細い腕。

 泣き出しそうな瞳。

 おさげの髪型。

 

 それは―――

 

 

 

 

 

 



 ここで皆様にクイズです。


 Q:本来ならば、銃を撃つべき職業の連中がシェルター内にいます。

   それはどんな連中でしょうか。


 以下、ヒントです。

  ヒント1、樟葉達には銃を向けました(つまり、SP兼ねてる人達です)。

  ヒント2、男爵の娘を止めたのは栗須と?

  ヒント3、シスター・マリアの焼死体第一発見者のこの職業の人です。

  ヒント4、この職業の主人公が活躍するマンガがアニメ化されます。

  

 回答方法:評価欄にて感想とご一緒にお願いします。


 期限:07年3月10日(土)まで。


 賞品、というのもヘンですが、お嬢様達のナイトメア後日談、

  「プリンセスワルツ」(仮題:日菜子&水瀬)

  「副会長の割とヒマな一日」(仮題:生徒会スタッフ)

  「スクープ!生徒会長の驚愕の過去を見た!」(仮題:栗須)

  以上、短編3本の本編終了後の順次作成と公開を実施します。


 条件 クイズ正解者が10名を越えた場合のみ公開とします。条件を満たさない場合、公開しません。

 こぞってご応募下さい。

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