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お嬢様達のナイトメア その37

 「おい……」

 窓の外からはい上がってきたのは、イーリスだった。

「あ。まだ生きていたんですか?」

「冷たいな……」

 見ると、イーリスはボロボロだ。

 そのまま床にのびるイーリス。

「どうしたの?蹴られた程度でそんなになるとは思えないけど」

「……あいつ、わざと私を窓の外に蹴り飛ばしたんだ」

「へ?」

「窓の外、妖魔のるつぼだったぞ」

 窓から外を見る。

 うららに気を取られていたが、外は妖魔の残骸で足の踏み場もない。

「妖魔撃破スコアが1ケタ確実にあがった……もしかしたら2ケタかもしれん」

「ぱらぱっぱっぱ〜イーリスはレベルがあがった」

 ゴンッ!

「冗談がわかんないの!?」水瀬が涙混じりに抗議する。

「言っていい冗談かどうかもわからないのか!?」

「言っただけだもん!」

「言葉は口に出した以上、責任を持て!」イーリスは怒鳴る。

「お前は相手の心情を考えずに軽々しく口を開くからモメごとになるんだ!」

 水瀬は、返す言葉がなかった。

「水瀬君」ルシフェルが水瀬の肩を叩きながら言った。

「反省」

「―――はい」

「で?上条うららの確保には成功したようだな」

 イーリスは、複雑な顔で保健室の中を眺めた。

「私は何だか割り切れないぞ」

「そういうものです」

 水瀬は、どこから取り出したのか、大きく×が書かれたマスクをしている。

 先程の説教に対する当てつけかと思ったイーリスが怒鳴ろうとした所、ルシフェルが口を開いた。

「ターゲットの対霊障防御の呪符の処理は終了しています」

「そうか……ん?」

 イーリスは腰に下げていた通信装置の呼び出しに気づいた。

「“最上”から?」

 

 魔素は空気に反応すると、LSIをはじめとした電子機器どころか、ジャイロ、電波、通信といったあらゆるものを狂わせる物質へ変化する。

 発見者の名前をとって“狩野粒子”という、一種の魔法物質だ。

 人類が自らを数度にわたって殺せるだけの兵器を持ちながら、一年戦争であれほどの苦戦を強いられた理由も、この狩野粒子にある。

 ミサイルはまっすぐ飛ばす、

 照準装置は正しく作動せず、

 誘導装置は狂い、

 無線は言葉を運べない。

 レーダーが敵の位置を掴めない中、米軍の最新鋭戦闘機が、開戦当初、GPS誘導でミサイルを発射した所、狂った誘導装置がミサイルを誘導した場所は、米軍の司令施設そのものだったし、敵陣地を肉薄攻撃した攻撃機は敵上空にたどり着く前に電子機器の暴走で墜落した。

 各所にコンピューターが使用されている戦車や戦闘車両は戦場では動くことすら出来ず、鉄の棺桶と化し、飛行機は墜落する。

 無線機ですら使えず、組織だった戦闘は出来ず、軍は各個撃破されていった。

 

 結局、人類がまともに使えた兵器とは、

 地上では鉄砲と大砲。

 空では超高々度からの爆弾。

 通信はよくてモールス、あるいは有線かメガホンか、声が大きい兵隊の怒鳴り声が頼り。

 その程度だった。

 

 一年戦争の戦場は、歴史上、最も奇妙な戦場と呼ばれた。

 地上を走るのは電子機器を一切搭載しない数十年前の戦車や軍用車両のコピー。

 空を飛ぶのはプロペラ機に電子機器を外したヘリコプター。

 全く60年間の科学技術の進歩を完全に無視したような戦場だったからだ。

 

 莫大な予算で配備した90式戦車は電子機器がなければ鉄くずで、ならばと電子機器を取り払ったらまともに走らなくなった74式戦車に愛想をつかした陸軍は、61式戦車をスクラップにしたことを本気で後悔しつつ、即座に1940年代欧州最強とされた88ミリ搭載型のティーガー現代版改良コピーの生産を本気でスタートさせた。

 何故、ティーガーかについては、諸説あるが、日本軍戦車のデザインがよっぽど軍部のコンプレックスになっていたのだろうと推測されている。

 公式な開発機関わずか2日。

 陸軍戦車開発部の若手が入所実習の際、同様のテーマで書いた設計図がそのまま利用されたという。

 装甲は最新鋭戦車にも使用されるそれをそのまま流用し、さらに近衛の技術支援により魔法攻撃耐性コーティングを施すことで妖魔に対抗させる。

 主砲は意地で積んだ105ミリ砲。

 問題のエンジンは電子機器を介しない最新版へ改装。

 戦車長が精神注入棒を振りかざす中、砲弾は一発ずつ戦車兵の根性で装弾し、根性のみで敵に命中させるという画期的システムを採用。

 開発者がどこまで本気だったかは不明だが、とにかく8式戦車と命名され、前線で活躍したことは事実だ。

 この戦車を導入したことで、日本陸軍は、根性のみで全てをこなす帝国陸軍軍人の名を世界にとどろかせた。

 当然、この戦車には通信機以外の電子機器が全くない。

 これが前代未聞の戦車の大量生産を可能にした上、生産コストを下げ、かつて日本軍が配備したことのない規模の戦車部隊を作り上げることに成功したのもまた事実として知っておくべきだろう。

 

 旧ソ連軍顔負けの数にモノを言わせる戦闘は、各地で成功を収める。

 

 この陸軍に負けじと戦略空軍と海軍は、戦闘機として帝國軍最後のレシプロとなった烈風改と、米軍より購入した攻撃機スカイレーダーを海軍とを共に連日量産する有様。

 おかげで一年戦争に従軍した兵士達は、間近でジェット戦闘機を見たことがなかったという。

 最初こそ「軍事マニアかテメエは!」と議会で罵声を受けながらも、これらもまた、相応の戦果を上げたことも事実だ。

 

 日本軍のこの奇抜ともいうべき行動は、世界の軍隊に多大な影響を与えた。

 米軍もこの流れに乗り、M1を諦め、電子機器を省いたM60の大量生産を実施したことに代表されるように、精密誘導兵器や火器管制システムといった電子機器に頼り切っていた半世紀以上の産物は、一年戦争では何の役にも立つことはなかった。

 

 その中で、唯一、人類の最新鋭機器として機能しえたのが魔法科学を応用した兵器だ。

 メサイア。

 飛行艦。

 飛行艇。

 ただし、その技術の高さが仇となって、次から次へと兵器が送り込まれてくる陸軍を後目に、生産が遅々として進まぬが故に、近衛軍が最後まで補給に泣かされたことは知っておくべきだろう。

 

 なぜ、魔法科学が魔素、そして狩野粒子に勝てたか?

 簡単だ。

 兵器そのものが魔法だから、魔素という魔法の産物に対抗できる。

 ただそれだけだ。

 問題は、魔素にうち勝つ魔法を戦争中に開発することが出来なかっただけ。

 魔素影響下である程度の信頼性を確保できる無線通信機でさえ、戦線に配備されたのは、戦争中期。

 正直、通信機の精度は今でもそれほど高いとはいえない。

 戦場となった長野県を中心に、狩野粒子被害によって各地で電子機器がまともに作動しなくなる被害が続出しているのも、それを悪化させる一因となっている。

 

 強い魔素の影響下、イーリスが通信機で最上からの通信を傍受できたのは、魔法技術の産物以外の何者でもない。

 最上から放たれたのは魔法通信。

 口さがない兵士から「霊界電波」と呼ばれる念話テレパスを応用した通信技術。

 理屈はイーリスにはわからないが、

「本当、技術は日進月歩っていうけどねぇ」

 水瀬は感心したように言った。

「さっきのPDAもそうだけど、すごいねぇ。本当の魔法って、こういうこと指すんじゃないかなぁ」

「充分に進んだ技術の呼び方は、魔法じゃない」イーリスは答えた。

「じゃ、何です?」不思議そうに訊ねるルシフェルにイーリスは答えた。

「ご都合主義だ」

「成る程」

 ご都合主義。

 それはそうだ。

 水瀬は納得した。

 自分が使っている魔法。

 それが、どれほど理不尽なものかは、水瀬自身がよくわかっていることだから。

 

「それで、最上からは?」ルシフェルが訊ねる。

「ああ。繰り返し同じ通信が送られている」

 イーリスは腰を上げた。

「水瀬、後を任せるぞ。ルシフェル、来い」

「え?」

「イーリスさん?」

「敵の一部が白銀寮内に侵入。現在、メイド達と交戦中だ。支援に向かう」

「寮内への侵入を許したの!?」

「地下通路の一部からな。メサイアがほとんどの通路を焼き払ったが、網の目状の地下通路全てを焼き払う前にやられた」

「ルシフェ、行って!」

「う、うんっ!イーリスさん!」

「水瀬、後、頼んだぞ」

「それ、こっちのセリフ」

「うむ」にこりと笑ったイーリスは、床に倒れたうららを担ぎ上げると、空へ飛んだ。

 

 

 外でメサイアが新たに発見された地下通路に穴をあけ、火焔放射装置のノズルを突っ込む。

 女の絶叫のようなもの悲しさすら感じる音が響き渡り、穴の中が数千度の高熱で焼き払われた。

「T12、T13、焼却完了しました!」

 戦闘指揮所のメイドが報告してくる。

「よし。T5の状況は?」

「現在、B中隊が応戦中……第3区交差点を巡って……五分五分です」

 参謀が太田に報告する。

「メイド達に火焔防御服は着けさせているな?」

「はい―――気休め程度かと思いますが」

「通信、B中隊へ火焔を吐きそうなヤツを優先して始末するように伝えろ」

「はいっ!」

「問題は」

 参謀のメイドが寮内施設の断面図を指揮棒で突く。

「この通路のここまで敵に侵入されたことです」

「真上に穴を掘られたら寮内へモロに侵入されるか」

「B中隊の一部が敵にその動きありと報告してきています」

「一階の荷物運び出しはあとどれくらいかかる?」

「A中隊室町中尉からです。都合、あと15分」

「10分だ―――それ以上は認めない」

「了解。伝えます」

 太田の表情は硬い。

「まさか、メイドが寮を戦場にするとはな」

「ご主人様を御守りすることこそ、我らメイドの至上命題―――違いますか?」

 参謀のメイドにはそう答えられるが、

「割り切れないよ」それが太田の本音だ。

「同感です」

 

 ズンッ!

 

 戦闘指揮所が揺れた。

 

「何事だ!?」

「D5に妖魔出現!地上からの攻勢です!」

「メサイアの支援を求めろ!各隊に戦闘許可!」

「了解!」

 太田はホルスターからP38を抜いて弾丸を確かめた。

「参謀、戦闘指揮所各員にも武器を携帯させろ」

「―――了解」

 指揮所要員が武器を持つ。

 その意味がわかる参謀のメイドは、太田以上の堅い表情で頷いた。

「生徒の方々の避難は?」

「地下シェルターも危険ですか……地上からの脱出も、今となっては困難かと」

「……地下からの敵侵入経路警戒、気を抜くな」

「メサイア、交戦開始」

「―――税金分、働いてくれよ」

「寮一階に妖魔侵入!」

「どこだ!?」

「一階、応接間付近、続々と穴から上がってきます!」

「A中隊の室町にやらせろ―――外の部隊はC中隊か?」

「はいっ挟み撃ちにされます」

「外部侵入の妖魔はメサイアに任せろ。C中隊は応接間周辺から外部に出るやもしれない敵を警戒、窓から出次第、攻撃」

「了解!」

 

 ズズンッ!

 何度目の振動か、日菜子はすでに数えるのをやめていた。

 最初こそおびえていた生徒達も、今では悲鳴をあげる者すらいない。

「殿下」

 くるまった毛布に落ちた破片を払いのけていたら、栗須が魔法瓶から注いだコーヒーを日菜子に渡してくれた。

「ありがとうございます」

 カップから伝わる暖かさとコーヒーの香りが張りつめた心を癒してくれる。

「最上からです。先程、メサイアの増援を搭載した“須磨”が宮中を発進。第一、第二魔法騎士小隊があと数分で到着予定です」

「……メイド達に犠牲は?」

「負傷した者が数名、死者はゼロです」

「本当ですか?」

「人の生き死にについて、ウソは申しません」

 栗須の目を見た日菜子が頷いた。

「ありがとうございます」

 シェルター内はすでに電力がバッテリーに切り替えられた。

 赤い非常照明だけが頼り。

 その下で、生徒達はそれぞれ思い思いに恐怖に耐えている。

「殿下!」

 皇女の姿を見た生徒の一人が血走った目で日菜子に駆け寄ってきた。

 恐怖に耐えられなくなっていることは誰の目にも明らかだ。

「こ、近衛はどうしたのです?すぐに来なければ!」

「もうすぐです」

「そっ、そうですか……ハッ、ハハッ」

 その生徒はへたり込んで笑い出した。

「そ、そうですよね。私が、男爵家のこの私が、こんなところで死ぬなんてはずが」

「ただし」

 日菜子は言った。

「その前に、敵がこのシェルターへ到達しないという保証はありません」

「……」

 生徒の顔から笑顔が消えた。

 驚愕の表情が浮かぶ。

「なんで……」

 生徒は日菜子に躍りかかった。

「なんでそんなこというのよ!」

 栗須と生徒の執事がその生徒を羽交い締めにして止める。

「みんな、みんなが助けを望んでいるのに、どうしてそんな希望を削ぐようなこというのよ!」

「現実です」

 日菜子は冷たく言い放った。

「こういう時にこそ、支配階級に立つ者はその価値が試されるのです!」

 日菜子は立ち上がると、大声でそう言った。

「!!」

 生徒は驚いた表情で日菜子を見た。

「常に、万一に覚悟を決め、決して無様な姿をさらさない。その程度、私達の階級では当然の嗜みのはず……あなたも男爵家の子女なら、覚悟を決めなさい。そして、その覚悟に乗っ取った振る舞いをなさい!」

「そ、そんなの……」

「そのためのあなたですよ?」

「そんなのできないよ!」生徒は泣きながら叫んだ。

「そんなこと出来るわけないじゃない!ただの女の子だよ!?そんな侍みたいな覚悟なんて―――」

 日菜子は、泣き崩れた生徒をそっと抱きしめた。

 生徒のぬくもりと、震えが直に感じられる。

 そうだ。

 日菜子だってわかっている。

 怖いのは、皆同じなのだと。

「……皆、死にたいわけじゃないんですよ。私だって」

 日菜子は諭すように言った。

「みんな……そう。私だって怖いです。死にたくはありません。ですけどね?絶望の先に希望を見いだしましょう。もうだめだって思える内は、まだ大丈夫なのです」

「……」

「よろしいですね?諦めてはなりません」

「……」

 生徒は、泣きながらただ頷いた。

 

 ガラガラガラ―――

 ガチャンッ!

 

 その突然の音に振り返ると、そこには木箱を押してきた夢見とその部下らしい男達がいた。

「西園寺さん?」

「……こんばんわ」夢見は、バツが悪そうに日菜子に言った。

「はい。こんばんわ」

「……」

「……」

「あの、西園寺さん?この荷物は」

 夢見は、だまって箱の中から長い筒を取り出した。

 自動小銃だ。

「……西園寺さん?」

「ここも危ないから、万一に備えて」

 夢見は危なっかしい手つきで銃にマガジンを装填した。

「破壊力は高いけど、私達みたいな武器に不慣れな者でも使えるように工夫された銃です」

「……それで戦え、そうおっしゃるの?」

「……」

 夢見の沈黙は、その答えを肯定していた。

 

 ズンッ!

 ズンッ!

 

 振動が激しさを増す。

 

「春菜」

 夢見が覚悟を決めたように言った。

 公爵家の夢見が、人前で頭を下げて、だ。

「ごめんなさい」

「えっ?」

「ほら。覚悟決める時ってあるでしょう?そんな時が、多分、今だと思う。もしものことがあった後、取り返しがつかないから、したいことはしておきたいのよ」

「西園寺さん?」

「……あの旧校舎で私、本当にひどいことしたって、今なら言える……私、本当はあなたの友達になりたかっただけだって」

「西園寺さん……」

「だから、そのオトシマエ。私、バカやるから……見てて!」

 

 夢見は、銃を片手に声を張り上げ、そして、夢見の一世一代の演説が始まった。

「私達はお嬢様として傅かれる日々を送っています。

 傅く人達は、私達に何を望んでいるとお考えですか?

 そう。支配者として素質、振る舞いです。

 だったら、今、窮地に陥った私達は何をするべきですか?

 ただ、お嬢様というだけで……だからといって、ただここで震えて怯えているだけが私達にできる全てですか?!

 それとも、神様に祈るだけですか?

 それが、支配階級に生きる我々のすることですか?

 違う!

 断じて違うのです!

 皆さん!

 生き残るために武器を手にして!

 私達、支配階級にある者は、人として規範を示すべく生まれてきた身です!

 こんな時にこそ!

 その規範を示さなければ、一体いつ、我々は規範を示すことが出来るのですか?

 愚かと笑うならどうぞ!

 笑われ、誰からも相手にされなくても、

 ……私は、私はたった一人でも戦います!

 この地位に生まれた者として、この学園の、教養科の生徒として!」

 

 生徒達からの反応はなかった。

 

 みな、どうしていいかわからないのだ。

 ただ、互いの顔を見合って黙り続けている。

 

「……」

 

 それはわかる。

 わかるが……。

 私は、間違ったことは言っていない!

 そう思う夢見は唇をかみしめ、俯いた。

 

 その眼には涙が浮かんでいる。

 

「夢見」

 そんな夢見に声をかけたのは、紫音だった。

「それ、私でも使えるの?」

「―――紫音」

 最も自分を嫌っているはずの紫音が一番最初に自分に呼応してくれたことに、夢見は正直、驚いていた。

「死ぬ前に言っておきたいのよ」

 紫音は笑って言った。

「あんたなんて大嫌いだって」

「紫音……ごめんなさい」

「そうね。生き残ったら、100ぺんは言ってもらいたいわ」

 紫音は箱から銃をとった。

「だから生き残るの。あなたの凹んだ姿見たいから」

「ふふっ……なら私も生き残って、もっと素敵なレディになって見返してやるわ」

「無理なことしない」

「あら随分ね……これマガジン。逆には入らない仕組みだから。それいれたら、そこの赤いレバーを引く。それで弾が入る。安全装置はそこよ」

「……使えるわね。多分」

「妖魔にも使える弾丸よ」

「じゃ、夢見、西園寺家血統の娘同士、最後くらいは仲良くしましょ?天国への馬車、引かせてあげる」

「ふふっ。引くのはあなたよ」

 そう笑いながら夢見と紫音が握手する。

 その互いの顔からは、笑いながら眼から涙がこぼれ落ちていた。

「西園寺さん」

 続いて近づくのは、舞やクリス、生徒会スタッフ達だ。

 白銀もいる。

「私達にも武器を」

「会長……みなさん」

「お姉さま!私達も!」

 ついに夢見の取り巻きが動いた。

 そして―――

「私も、銃を貸してください」先程の生徒も震えながら言った。

「私も、義務を果たします!だから!」

 それが引き金になったのか。

 それとも、単なる集団心理なのか。

 すぐに生徒達は全員が武装していた。

「真剣はないか?」

 その中で舞は言った。

「どうせなら、剣を握ってっていうのが夢だ」

「同感だ……部屋にある兼光もってくればよかった」

 そう言うのは白銀だ。

「舞も白銀も時代劇ファンだからな」とクリス。

「会長はお菓子の家で死にたい類ですね」沙羅が笑う。

「ふん!近頃は酒だ酒!」

「こらっ!アリスッ!」栗須が怒鳴る。

「やべっ……いやですわお姉さま。憧れを言っただけであ・こ・が・れ♪」

「ったく……」

 栗須はよく通る、大きな声で言った。

「皆さん。四方から敵が来ることはないと思います。そこで、銃器の扱いに慣れた身として皆さんに効率のいい方法をお教えします」

「栗須さん?」

「まず、敵が来そうだという場所に三列で並んでください。合図があり次第、最前列が敵めがけて引き金を引く。撃ち終わったらすぐに二列目が交代して撃つ、一列目は最後列でマガジンを交換。二列目が終わったら三列目と交代……この繰り返しです」

「長篠の合戦みたいですね」沙羅が感心したように言った。

「ええ。その通りです」

「……私のご先祖様、あの合戦で討ち死になさっているのになぁ」

 栗栖の近くにいた生徒がぼやいた。

「ご心配なく」

 その言葉に、栗須は答えた。

「私のご先祖もです」

「へ?そうなの?」

 そう聞いたのは、クリスだ。

 ゴツンッ!

 栗栖の一撃が妹の脳天に炸裂する。

「母方のご先祖様のこと位、知っておきなさいっ!桶狭間、長篠、関ヶ原、大阪!明治維新でも幕府軍と、常に敗軍に属してました!」

 叫ぶ姉に、妹は小さい声で抗議した。

「自慢にならねぇよ」

 


なんだか、途中で話がズレてしまいました。ごめんなさい。一年戦争がどういう戦争だったかのさわりを書きたかったので……。

お嬢様達は悪夢に立ち向かう!

というわけでまだしばらく続きます。

おつきあい下さい。

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