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お嬢様達のナイトメア その36

「あっちゃ〜っ」

 それがイーリスと合流した水瀬の第一声だ。

 イーリスは、水瀬が顔をゆがめていることに構いもせず、

「ん?水瀬に、ルシフェルか?そっちはどうなった?」

  倒れた大型妖魔からナイフを引き抜いて訊ねた。

「イーリスさぁん……」水瀬の声は泣きそうだ。

「命令の注意事項、忘れてたのぉ?」

「注意事項?」

「建物の被害は最小限度にって。この校舎って、都の文化財なんだよ?」

「……」

 イーリスは、顔色一つ変えずに周囲を見回した。

 大型妖魔の死骸がめりこみ、半壊したものが最も程度が良い。

 それだけで校舎の状況は知れるだろう。

 修繕と立て直しが同義語で使える状況。

 弁明の余地はない。

「ダメだよぉ。広範囲魔法使う時は、気をつけなくちゃ」

「……ま、いいだろう」

「なにが?」

「作戦遂行上、不可抗力に近い。うん。そうだ」

 イーリスはそう言い残してすたすたと歩き始める。

「逃げるの?」

「違う!」イーリスはムキになった答えた。

「倒壊していない校舎を調べに移るだけだ。職員棟と……講堂だな」

「ふうん?……じゃ、僕は倒壊した建物探すね?」

「敵はいないと見ているが?」

「行方不明の生徒や重要な証拠探しとか、いろいろあるでしょ?」

「昼間探せ」

 にべもないイーリスの顔をのぞき込みながら、水瀬は楽しそうに、

「あ、ヤバいと思っている」

「う、うるさい!」

 

 ズンッ!

 

 遠くから爆発音が聞こえる。

「あれ?寮の方面だ」

「ああ。敵が攻撃してきたんだろう。理科棟の地下でトンネルをみつけた」

「連絡した?」

「……行くぞ」

「ねぇ、水瀬君」

 ルシフェルが水瀬の袖を引っ張り、その耳元でささやいた。

「イーリスさんって」

「うん。結構、ドジ」

「何か言ったか!?」

「いえ何も」

「大体、私が連絡しなくても、すでに準備はされているんだ!」

 もう弁解モード突入かな?そう思いながら、水瀬はイーリスの言葉を待った。

「そうなの?」

「メサイア部隊が展開する。迎え撃つ体制は盤石なはずだ!」

「メサイア?メサイアを動かしたんですか?」

 ルシフェルも、さすがに驚いた。

 メサイアは別名“究極の魔法兵器”と呼ばれるほどの破壊力を持つ兵器。

 滅多なことで動して良い代物ではない、いや、動かすべき代物ではない。

 しかも、メサイアの存在を肯定するように、風に乗って聞こえてくる独特なメカニカルノイズは……

「この音……まさか!」

 ルシフェルの顔が蒼白になる。

「開発中の“白龍”を!?」

「え?……ああ。この独特なエンジン音、間違いないね。うわっ。大盤振る舞い」

「近衛の最新鋭メサイア……まだ機密解除されてないのに。よくそんなに平然と」

「ほら、これで公然と戦闘データとれるでしょ?戦闘データは僕達にとっても貴重な資源になるし」

「対妖魔戦専用騎よ?それをたかが、寮一個守るのに動かしたなんて……正直、信じられない」

「ルシフェ……それがね?」

 水瀬はルシフェルに状況を説明した。

 封印が外れかかった“門”。

 そこからあふれる魔素。

 そして、妖魔の大群。

 一年戦争を戦った、つまり、“門”の恐怖を知るルシフェルの顔は真っ青だ。

「メサイアは、寮を守るんじゃなくて、“門”を制圧するために」

「そう。だから司令部も“白龍”持ち出したんだよ。日菜子殿下の采配は当然だけど。―――“門”制圧目的で派遣されて、その前に妖魔が襲ってきたからその排除に動いたんだね」

「勝てるかな」

「スイーパーズフレイム(広域火焔掃射装置)か何か持ってきたんじゃない?かなりの重装備だと思うよ?」

 

 二人がちらと寮の方を向いた瞬間、

 

 凄まじいばかりの白い光が辺りを昼間の様に明る照らし出した。

 

「実際の発射は見たことなかったけど、あれがそうかな?」

「……数百メートルを焼き払ったんだよ、ね」

「カタログスペックではそうなるね。……あ、まだ続いてる。科学ってすごいよねぇ」

 白い光を見つめながら、水瀬は感心したように呟いた。

「僕達の“炎陣”と同じ規模の破壊を作り出せるんだから……僕達が生きているうちに、魔法騎士なんてお払い箱かもね」

「それはそれでいいけどね?」ルシフェルは水瀬に言った。

「イーリスさん、先に行っちゃったよ?」

「いけない!」

 水瀬達は校舎に入るイーリスを追いかけた。

 

 メサイアなんて関係ない。

 それが、イーリスの言い分だ。

 自分達は自分達の仕事をする。

 ただ、それだけなのだ。

「とはいえ……」

 イーリスは、背後から駆け寄ってくる子供達をちらと見てため息をついた。

 妖魔との戦闘に気を取られ、やるべきことをしなかった失態はどうしようもない。

「やれやれ……どう弁明しても無駄か」

 そう。

 弁明なんて無駄。

 だったら、結果で帳尻を合わせるしかない。

「イーリスさん。一人じゃ危険だよ?」

「二人で見物するのはいいのか?私は行くといったぞ?」

「ううっ……」

「スミマセン」

「ったく……水瀬。上条うらら、発見したか?」

「いえ。未だに」

「ルシフェルは?」

「ここへ到着して以降、人らしい人と接触していません」

 そう言って、ルシフェルは思い出したように付け加えた。

「水瀬君は、別ですけど」

「人以下なんて放っておけ」

「ひ、ヒドイよぉ!僕にだって人権というものが!」

「あーっ。うるさいうるさい。聞こえない」

「水瀬君」ルシフェルが、凹む水瀬に哀れむように言った。

「水瀬君に人権なんてないから」

 

 もうやだ!

 もう辞める!

 泣き叫ぶ声が暗い廊下に響き渡る。

「うるさい!」

 ガンッ!

 瞬間、廊下は静けさを取り戻した。

 

「あの」

 イーリスに殴られてノビた水瀬の首を絞めつつ、ルシフェルがイーリスに訊ねた。

「この後、どうしますか?」

「この施設を調べるがな……ルシフェル」

「何です?」

「水瀬を殺すな。楯位にはなる」

「―――あっ、そうですね」

 ルシフェルは、残念そうに水瀬の首から手を放した。

 

「ヒドイよぉ……」

「だから泣くな」

「イジメ相談室に電話してやるぅ」

「これはイジメじゃない」

「グスッ。ウソだぁ。イーリスさんのイジメっ子、ウソつきぃ」

 水瀬は涙を拭きながらイーリスに抗議した。

「大体、さっきから何そんなに怒っているの?ムスッとしちゃって」

「―――何?」

「?何怒っているのって聞いたの」

「……元からこういう顔だが」

「昔は可愛かったんだね。しわくちゃで」

 ボカッ!

「やっぱりイジメだぁ!」

「黙れ!」イーリスがドスの効いた声で怒鳴った。

「こういうのは落とし前というのだ!」

「……それっていい事なの?」

「ああ。すばらしいことだ。人として忘れるべきではない」

「ふうん?そっかぁ」

「水瀬君、騙されているって……」

「じゃあ、あの番組見損なっても損じゃないよね」

「あの番組?」

「うん。今頃やっているんだよ?上条製薬がスポンサーになっているの」

「ああ、あの健康番組?」

「ルシフェル、どんな番組だ?」

「健康番組です。えっと、ダイエットとか」

「ふん。スポンサーの広告代わりだろう?」

「そうですね。ただ、わたしも結構、面白いと思って見てましたけど」

「見てました?何だ、ルシフェルはもう見ていないのか?」

「ええ。先週で打ち切りに」

「えっ!?」水瀬が驚いたようにルシフェルを見て

「終わっちゃったの!?」

「知らなかった?打ち切りになったの」

「し、知らなかった」

「原因は?」

「いろいろでっち上げが問題になって」

「ほう?例えば?」

「放射線を健康にいいとか」

「へ?」イーリスの目が点になった。

「僕、それ見ていたよ?」水瀬は自信満々に言った。

「“プルトニウムは飲める”とか、“放射能を浴びて元気になろう”って」

「どこが健康番組だ、それ……」

「反対派が“実証だ!”って、原発推進派の家族さらってきて実証番組作ったり、テレビ局に核廃棄物ばらまいたりして。話題性十分だったから、楽しかったなぁ―――あっ、“一次冷却水でお茶をてる”ってのだけは見逃したっけ」

「視聴率、低かったろうな」

 とてもではないが、普通の神経で見ることの出来る番組ではない。

 イーリスはそう思ったが、

「ううん?プルトニウムの売り場作ったデパートもあった位だから」

「ウソをつくな!いくらなんでもそんな!」

「本当だよぉ。大阪のデパートで」

仕事先(ルーマニア)の新聞で、日本のデパートが放射能汚染されたとあったが……あれはテロじゃなかったのか」

「そうだよ?あっ、でも番組で取り上げていた原子炊飯器は欲しかったなぁ。飯粒がつやつやと光り輝くんだって。あんなに輝かせられるなんてスゴいもん」

「おい―――それって、まさか」

「司会の人がね?暗くするともっと良く光るって言っていた」

「―――お前、チェレンコフ放射って、知ってるか?」

「撮影中に司会の人の髪の毛が抜けたり、ゲストが発狂したり、いろいろびっくりがあって見ていて面白かったですけど」

 どこかルシフェルも残念そうだ。

「お前等なぁ」

 

「いっ、痛い!痛いってば!」

「イーリスさん!やめて下さい!」

 顔を真っ赤にして怒るイーリスが二人の耳を引っ張って、二人を連れてきた場所。

 そこは保健室。

 ドアにはカギがかかっている。

「ここで脳みそ診てもらえ!どこまで私の良識を破壊すれば気が済むんだ!」

「わ、私は水瀬君じゃないんですから」耳をさすりながらぼやくルシフェル。

「二人とも、僕よりヒドい壊れ方しているクセにぃ」

 ガンッ!

 ドカッ!

 ルシフェルとイーリスが水瀬を刀の峰で力一杯殴った結果、水瀬は保健室のドアを突き破って中の闇へと消えていった。

「全く、ヘマしおって」

「まぁ、あのドジっぷりが、水瀬君のいいところですから」

「褒めていないぞ?それ」

「褒め殺しというそうです。最近習いました」

「ルシフェル」目眩を押さえながらイーリスは言った。

「お前、絶対、水瀬に毒されているぞ」

 

 一方、保健室の窓までぶち破った水瀬は、何とか保健室に戻った。

「い、痛いなぁ……」

 後頭部と首にキレイに決まった攻撃のせいで脳しんとうがひどい。

 ううん。

 水瀬は思った。

 あまりにヒドイのは、あの二人の振るまいだ。

 口より先に手が出るなんて、あんなこと、女の子のすることじゃない。

 だって、お菓子屋のおばあちゃんがそういっていたもんね。

 だから、あの二人、絶対結婚できないぞ。あんなんじゃ。

 美人だとか、ナイスバディなんて、周囲からもてはやされているのがいけないのかもしれない。

 美貌と胸を、女性としてのタシナミと交換してもらえばいいんだ。

 そうすれば、ちょっとの冗談で人を殴るようなアクマみたいなマネはしなくなるだろう。

 確かに、胸がデカくても、良い女性は良い女性だけど、あの二人は例外だ。

 僕の回りはそんな例外が多すぎる。

 

 面と向かって言ってみろといわれれば、怖くて出来ないけど……でも、本当のことだ。

 

 うん。

 だから僕は不幸なんだ。

 時々、その例外だけが僕の回りで騎士をやっている気がしてならない。

 例外なんて一人しか思いつかない。

 そう、祷子さん。

 祷子さんは騎士だけど、胸が大きくて美人で、清楚さと慈愛にあふれる、世界で一番の素晴らしい女性だ。

 あの二人みたいなガサツで乱暴者じゃない。

 祷子さんに似ている女性といえば、紫音さん……まだ成長中か。将来が楽しみだけど……あ、いた。

 目の前の女性。

 

 上条うらら先輩。

 

 美人で胸が大きくて、優しくて、それに料理が上手。

 彼女なら、間違っても人に手を挙げるようなことはしないはずだ。

 うん。

 ほら、やっぱり、あの二人はモンダイなんだ。

 ……え?

 ……あれ?

 ……えっと、

 今、僕、なんて言った?

 

 目の前の女性?

 そう、言ったよね?

 

「……」

 水瀬は、目を凝らして目の前にいる女性を見た。

 白い寝間着姿から見える青白い肌。

 生徒会風紀委員二人を虜にして止まない慈愛に満ちあふれた姿は、そこにはない。

 ただ、壊れた人形のような虚ろな瞳がじっと水瀬を見つめるだけ。

 

 間違いない。

 

「上条……先輩?」

 

 その呼びかけに、うららは短く答えた。

「にゃあ」

「先輩……じゃ、ない」

 水瀬はそう判断した。

 上辺は上条先輩。

 だが、中身は

「言ったよね?今度こそ三味線にするって」

「にゃぁ?」

「上条先輩でネコのコスプレしてくれればよかったんだよ。中身がネコじゃ面白くないじゃん」

 

 次の瞬間

 

「!!」

 ブンッ

 うららの横薙ぎの一撃が水瀬を襲った。

 水瀬は防御魔法を展開するのと同時に、その一撃を後方に飛び避ける。

 剣の間合いは外したものの、防御魔法が攻撃の余波で切り裂かれた。

 うららの手に握られているのが真剣であることは、音でわかる。

 しかも―――。

「どこでこんなものを!?」

 水瀬の魔法騎士としての眼は見抜いていた。

 

 うららの剣、それはいわゆる“魔剣”であることを。

 

 

「水瀬君!?」

「水瀬!?」

 ルシフェルとイーリスが保健室に飛び込んでくる。

「ダメ!避けて!」水瀬の口から鋭い警告が放たれる。

「えっ?」

「何?」

 

 二人は、水瀬の警告の意味を、自分達の体で味わうことになった。

「きゃっ!」

「ぐっ!」

 魔剣から放たれた一撃は、二人の防御魔法を破壊し、衝撃として二人に襲いかかった。

「ルシフェ!イーリスさん!」

 水瀬は叫びつつ、霊刃を抜いた。

「だ、大丈夫……」

「な、何とかな」

 二人から弱々しい返事が返る。

 とはいえ、水瀬も二人にかまっていられる状況ではない。

 魔剣の破壊力はいうまでもない。

 その破壊力を上乗せしているのは、

「上手い!」

 水瀬が感心するほど巧みなうららの剣技だ。

 上段か振り下ろしたと見せかけて絶妙な位置で突き技を繰り出し、それが避けられるとみるや、刃を急所に近づけ、切断を試みる。

 こちらからの攻撃も紙一重の位置で避け、逆襲を試みる。

 

 隙を見いださなければ、確実に死ぬ。

 

「加勢する!」

 イーリスが横から入るが

「だめ!イーリスさん!」思わず水瀬が叫ぶ。

「ぐはっ!!」

 イーリスの一撃を避けたどころか、イーリスの腕を掴むなり、イーリス自身の勢いを利用して、イーリスのバランスを崩し、脊椎を蹴り上げて窓から放り出した。

「水瀬君、避けて!」

「!」

 鋭い友の警告に、とっさに水瀬は壁際まで飛んだ。

 そこをルシフェルの“速射”の魔法が襲う。

 一発が戦車の“正面装甲”どころか戦車“そのもの”を貫通する魔法の弾丸が無数というべき数で。

 普通なら、うららは原型すら留めぬ挽肉になって当然の攻撃。

 しかし―――

「なっ!」

 ルシフェルは、その光景に驚愕した。

 それは、攻撃を受けながらも平然と立ちつくす敵の姿。

 うららの反撃。

 二発目を受けるほどルシフェルも愚かではない。

 ルシフェルの背後で保健室と廊下の壁が同時に砕けた。

 とっさに避け、水瀬の横まで跳ぶ。

「水瀬君、あんな手練れがいたの!?」

「あれは先輩の力じゃない」

 水瀬は答えた。

「魔剣は魔法攻撃を無力化させる。先輩の剣技は―――!!」

 うらら一撃を跳んで避ける。

「猫の力だよ」

「どこの世界に剣が得意な猫がいるもんですか!」

 ルシフェルが叫ぶ。

「種類は何?トラネコ?ミケネコ?教えて。絶対側によせないから」

「猫が殺した剣術使いの技術。“吸収”の産物だよ」

「あの九尾の狐と同じってこと?」

「そう。どこでこんなに殺したかはわかるけどね」

「まさか」

「そう。闇で殺したのと―――後は」

 水瀬は牽制の魔法攻撃を放ちながらうららとの間合いを計る。

「その猫、魔界に手を貸していたの!?」

「多分、あの戦争の犠牲者達の技術を自分のモノとしているに違いない」

「さすが化け猫」

 そのルシフェルのつぶやきには、軽蔑と嫌悪と憎悪が入り交じっていた。

「ルシフェ、鏡はある?」

「ええ」

 答えながらルシフェルは小さな手鏡ほどの鏡をポケットから取り出した。

「僕が囮になるから、やって!」

「殺しちゃ、ダメなんだね」

「やったら二度と博雅君と会えなくなるよ!?」

「そんなことしたら友情終わるから!」

「僕じゃなくて、先輩の二人の恋人がそうする!社会的に殺されるよ!?」

「―――詳しくは、後で教えてね」

 水瀬めがけて襲いかかるうらら。

 ルシフェルの手から鏡が独りでに浮かび上がるなり、そのうららの四方に散った。

 次の瞬間、

「そこっ!」

 キンッ

 金属を叩いたような音が室内に響き渡った。

「―――お見事」

 自分めがけて剣を振り下ろそうとしたまま凍り付いたうららを見つめる水瀬の頬を冷や汗が流れた。

 

 鏡魔法(きょうまほう)

 鏡を使った空間魔法の総称。

 鏡の使い方で様々なレパートリーがあるものの、使い手が限られるため、伝説の魔術の一つとして知られる。

 

「空間を封印しているから動かないけど、どうするの?石化させる?」

「ううん。そのまま封印を解いていいよ」

 水瀬は、残念そうにそう言った。

「え?」

「対霊障防御の呪符で事足りるもん」

「……逃げたの?」

「空間が封印されるぎりぎりの瞬間で先輩の体を捨てた」

 ルシフェルは返事のかわりに空間封印を解除した。

 途端、うららの体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちてくる。

「……よっと」

 ぺた。

 水瀬がうららの体に呪符を貼り付ける。

「これで終わり。猫が憑依出来る対象は消えたから、後は猫を探せばいいね」

「うん……ところで水瀬君?」

「何?」

「なんで、先輩の胸に顔を埋めているの?」

「役得♪」

 

 グシャッ

 

 保健室に、そんな音が響き渡ったという。

 

「ルシフェ!ヒドイよ!鏡魔法で僕を封印した挙げ句に爆殺しようとするなんて!」

「絶対今のセクハラ行為!樟葉さんと殿下に報告して綾乃ちゃんに言いつけるからね!」

「だからやめてってばぁ!」

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