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金貨5万枚で売られた聖女は、隣国の公爵様に愛されています

作者: 百鬼清風
掲載日:2026/10/03

 今日は、婚礼の日取りを相談できるかもしれない。

 王宮の庭へ急ぎながら、私はドレスの袖を直した。婚約者のアモーリ殿下と二人でお茶を飲むのは久しぶりだ。神殿での用も早めに終わらせてきた。

 話したいことがたくさんある。先日、街道の結界を張り直したことも、聞いていただきたかった。


「ベルティーユ、お前との婚約は解消する」


 向かいに座るなり言われて、伸ばしかけた手を止めた。

 殿下は紅茶に口をつけている。私はカップに触れることもできず、その顔を見つめた。


「どうして、ですか。私たち、もうすぐ……」

「侯爵令嬢と結婚する。あの人といるほうが楽しいんだ」

「では、私は?」

「お前は何でも完璧にこなすよ。聖女としても申し分ない。ただ、可愛げがない。妃には、あの人を迎えたい」


 初めから何でもできたわけではない。できないことを、少しずつ覚えてきたのだ。

 疲れていても勉強を続けられたのは、殿下に会ったら褒めていただけると思ったから。聖女の役目を果たしたときには、私を誇らしく思ってほしかった。


「殿下に喜んでいただきたくて、私……」

「もう決めたことだ」


 そんな言い方をしなくてもいいではないか。

 あなたのためでもあったのに。私だけが、二人で幸せになれるつもりでいたの?

 唇を噛んだ。腹が立つのに、席を立てない。近頃そっけなかったのも、婚礼が近づけば変わると思っていた。もう少し話せば、今日の言葉だって取り消してくれるかもしれない。

 まだ好きだった。この人と結婚したかった。


「それと、ロシュヴェルへ行ってもらう」

「隣国へ?」

「聖女を欲しがっていてね。永住を条件に金貨五万枚、それに物資だ。私が話をまとめた。父上も伯爵も同意している」

「私を、売ったのですか」

「両国のためになる話だ。そんな顔をするな。この国は現在、とても平和だ。もう、お前の力は必要ない。正直に言うが、堅苦しいお前を今まで我慢していたんだ」


 涙で殿下の顔がぼやけた。

 婚約破棄だけではない。私を知らない国へ渡す相談まで、この人は終えていた。私がお会いできる日を数えている間に。

 殿下は金貨で国の為に何が出来るか話し始めたが、私はもう聞いていられなかった。


「それに、この国には、もう一人新しい聖女がいる。オディールだけで十分だ」

「今の守りを、あの子だけでは保てません。外の瘴気も濃くなっています。どうか神殿の意見も聞いてください」


 殿下は、白いバラの咲く庭を指した。


「見てみろ。街もこんなに平穏だ。心配しすぎだ」

「二人の結界で、守っているからです。未熟な彼女の力だけでは……」

「くどい! 出立の支度をしておくように」


 殿下が席を立つ。呼び止めようとした声は、喉につかえて出なかった。


 出立は三日後だった。

 神殿の前で待つ馬車へ、後輩のオディールが駆け寄ってきた。聖女の白い袖をまくったまま、御者に少し待ってと頼む。


「私、反対したのよ。あなたがいなくても大丈夫だなんて、一言も言っていないのに」

「分かっているわ。あなたがそんなこと言うわけないもの」


 彼女は髪に挿していた銀の飾りを外した。青いガラスの花がついている。私が以前、きれいだと言ったものだ。


「持っていって」

「でも、あなたの大事な――」

「だからよ。どうでもいいものをあげて、見送れると思う?」


 髪飾りを受け取り、彼女を抱きしめた。


「手紙を書くから、返事をして。何かあれば知らせてね」

「書くわ。ベルティーユも、嫌なことがあったら知らせて。向こうでは大切にしてもらえるよう祈っているわ」


 知らない国へ行くのは怖い。いまは馬車に乗るのさえ嫌だった。

 オディールと、別れたくはなかった。


「いつか会えますように」

「ええ、そう神様に祈りましょう」


 頷くと涙がこぼれた。離れる前に、もう一度ぎゅっと抱きしめた。


◇


 国境のミュレーヌ城が見えたとき、私は髪飾りを鞄へしまった。

 国を出て四日。車窓の畑には誰もおらず、道端の家では窓を板で塞いでいる。ここが私を買ったロシュヴェル王国なのだ。

 こんな寂しい国が、あれだけの額を支払った。どれだけ働けば、金貨五万枚に見合うのだろう。

 馬車が城門の前で止まる。いきなり、頭上で鐘が鳴り響いた。


「聖女様、ご到着!」


 門の兵士が叫ぶと、大きな扉が内側へ開く。道の両脇に並んだ沢山の騎士たちが、揃って頭を下げた。

 その間を、一人の男性が進んでくる。濃紺の上着に剣帯を締めた、背の高い方だった。


「この城の主、ガエタンです。ロシュヴェル国王の従弟として、公爵位を預かっています。ベルティーユ様、遠いところを、よくお越しくださいました」


 差し出された手を借りて馬車を降りると、公爵様は私へ深く礼をした。

 こちらも慌てて膝を折る。挨拶の言葉を道中色々と考えていたのに、頭が真っ白になってしまった。

 私は、なんとか簡単に挨拶する。


「お迎えを、ありがとうございます」


「国を代表して、お礼を申し上げます。聖女様が来てくださることを、皆、首を長くして待っていました」


 門の向こうの城下町を見た。窓を閉めていた家々から色とりどりの布が垂れ、窓辺の人々がこちらへ手を振っている。騎士たちの後ろから花びらを投げる子もいた。

 皆、この瞬間まで隠れていたらしい。素敵なサプライズだ。


「聖女様!」


 母親に手を引かれた小さな男の子が、騎士の脇から身を乗り出した。


「もう、夜に魔物が来ても怖くない?」


 答えようとして、城壁の向こうを見る。瘴気の濃さも、結界をどこに設置するべきかも、まだ調べていない。

 すぐに大丈夫とは言えなかった。


「あなたが安心して眠れるようにしたいの。少し、待っていてくれる?」


 男の子は母親を見上げてから、こくりと頷いた。その母親が、何度も礼を言う。

 私はまだ、この国のために何も祈っていないのに。


「私が来るのを、待っていてくださったのですか」


 城へ向かいながら公爵様に尋ねた。


「セヴランザは、長く魔物に襲われていないと聞いています。あなたのお名前は、国境を守る者なら誰でも知っていますよ」


 捨てられた私を、こんなに待っていた人たちがいた。

 嬉しくて、窓から声を掛けてくださる方へ何度もお礼を返した。

 公爵様に向き直ると、気になっていたことが口をついた。


「私が参りましたのは、金銭との交換と聞いておりましたが、ここまで歓迎されるとは」

「我々が金銭を渡し、セヴランザからお越しいただきました。そのことは言い訳しませんが、皆、期待しております」


 公爵様は、正直に言われた。


「まずは休んでください。陛下からも、住まいと身の安全を保障し、聖女として扱いに失礼のないようにと仰せつかっています。旅の間に困ったことはありませんでしたか」


 旅のことを聞かれると思わず、私は靴の中で足の指を動かした。座り続けて足がむくみ、歩くと少し痛い。


「足が少し痛くて。こんなに長く馬車に乗ったのは初めてなんです」

「では、ゆっくり行きましょう」


 公爵様と、手すりにつかまりながら城の階段を上った。


 部屋には湯の支度があり、着替えには豪華な淡い黄色のドレスが用意されていた。袖の刺繍を指でなぞっていると、迎えに来た侍女に気づく。


「お食事は、お部屋になさいますか」

「皆様と同じ場所で結構です。これ以上のお手間は――」


 扉の外にいた公爵様が、こちらを覗いた。


「食堂では、椅子に座るのがつらくありませんか。道中、お疲れでしょう」


 すぐ靴を脱いでしまいたい。そう正直にお願いすると、公爵様は、侍女に料理を部屋に運ぶよう頼んでくださった。

 結局、部屋へ鶏肉のシチューと焼きたてのパンを運んでもらうことになった。公爵様も扉のところで、料理の香りに少し顔をほころばせる。


「私だけ、こんなふうに休んでよいのでしょうか」

「うちに迎えた客を、疲れたまま座らせておくほうが落ち着きません。足りなければ呼んでください。厨房にはまだあります」


 明日の仕事を言いつけられることもなく、扉が閉まった。

 鶏肉はナイフを入れるだけでほぐれる。温かなクリームソースをパンにつけ、二口目は一口目より大きくちぎった。


◇


 ミュレーヌ城で一日休み、王都まで二日かけて向かった。

 馬車の窓越しでも、瘴気の臭いがする。街へ入ると昼過ぎなのに薄暗く、軒先には明かりがともっていた。空の低いところを漂う黒い霧が、屋根に触れそうだ。

 神殿前の噴水では、石の獅子が濁った水を吐いている。


「ここまで、押し込まれてしまったのです」


 迎えに出た年配のシスターが、街のほうへ顔を向けた。白いローブの裾は泥で汚れ、右手には杖を握っている。


「騎士たちも魔物と戦ってくれていますが、夜ごとに瘴気が濃くなって……」


 私は噴水へ近づいて、指を水に浸した。底の方ほど瘴気が濃い。今まで積もり続けていたのだろう。


「この広場をお借りしてもよろしいでしょうか」

「広場を?」


 彼女は私の顔をじっと見た。それから杖を握り直し、神殿の扉を開けていた人たちへ声を掛ける。

 濃紺のコートを羽織った公爵様も、騎士を広場の入口へ向かわせた。


「人を下げる。ほかに必要なものは?」

「祈っている間、そばにいていただけますか。人が近づくと、術が失敗しかねませんので」

「ここにいる」


 短い返事に頷き、私の後ろに立つ。

 両腕を大きく広げた。母国で結界を張り直すときと同じように、遠くの地面まで意識を伸ばす。

 街の外へ伸びる道に沿って、遠くの村まで。

 祈り始めると、靴の下から光が広がった。


 噴水の縁を越え、石畳の隙間を白く照らす。光が黒い霧に触れると、霧が後退していく。

 空へ伸びた光が、頭上を覆う瘴気を押し上げる。

 厚く黒い瘴気の雲が消えていく。


(眩しい……)


 目を細めた私の頬に、陽が当たる。


「空だ」


 広場の入口で、誰かが言った。

 光は止めずに街の外へ送り続ける。瘴気を払った土地を結界で覆い、村々まで広げていく。

 祈りを終えたとき、噴水の底に沈んだ銅貨が見えた。水面の揺れに合わせて、きらきらしている。


 閉まっていた店の主人が外へ飛び出し、光を見て、私に帽子を振る。

 神殿にいた人たちも広場へ出てきた。空を仰いだまま、隣の人の袖を引っ張る人がいる。噴水へ駆け寄った子供が水をすくうと、澄んだ水を見て驚いていた。


「聖女様、ありがとうございます!」


 その声に返事をしようとしたのに、別の声が重なる。

 公爵様は歓声の中をこちらへ進み、片膝をついた。


「ロシュヴェルを守ってくださり、感謝します」


 周囲の騎士もそれに倣う。急いで頭を下げ返すと、先ほどの年配の女性が杖を噴水の縁に立て掛け、両手で私の手を包んだ。


「もう、街を明け渡さずに済みますね」

「はい。皆様が守っていらした場所も、全て結界を張り直しました」

「よかった。本当に……よかった」


 彼女は私から手を離し、神殿へ声を掛ける。扉の陰で見ていた若いシスターたちが、泣きながら出てくる。


 神殿の階段を上ろうとすると、公爵様が立ち上がり、私へ手を差し出した。そこへ手を重ねた途端、彼は驚く。


「手が冷たいな。少し、休もう」

「少々、力を使いすぎたようです」


 私は階段の端に腰を下ろした。手を離した公爵様がコートを脱ぎ、肩へ掛けてくださる。お礼を言うと、隣へ腰を下ろした。


「さっきの浄化は、魔物にも効くのか?」

「弱ります。完全には倒せませんが」

「ならば、騎士たちでもなんとかなるな、私も戦える」


 コートの前を合わせながら頷いた。次に祈るときも、この方がそばにいてくださるなら心強い。


◇


 王都の神殿に住まいを頂いて、三週間が過ぎた。

 庭のベンチでガエタン様を見つけて、私はつい足を速めた。今日は聞いていただきたいことがある。

 名前で呼んでほしいと言われたのは、ここに住み始めた日。私も様をつけずに呼んでほしいとお願いした。二人のときには、随分気安く話してくださる。


「お待たせしました。あの、噴水のところの男の子を覚えていらっしゃいますか」

「水をすくっていた子か?」

「はい。今日、外で遊んでいたんです。私を見つけると、走ってきてくれて」


 ガエタン様の隣に座り、あの子にもらった花の冠を見せた。私の頭には少し小さかったけれど、部屋に飾ると約束してきたのだ。


「私がお姉さんなのを忘れて、小さく作ってしまったそうなんです。お母様に伺ったんですけど、あの子、前は夜になると怖がって、お母様にくっついて離れなかったそうですよ。今では外遊びに夢中で、なかなか帰ってこないんですって」

「今度は連れ戻すのに苦労しているわけか」

「ええ。何度呼べば帰ってくるのかって、ぼやいていらっしゃいました」


 ガエタン様が声を上げて笑ったので、私もつられて笑ってしまった。

 あの子が外を駆け回って遊べるのも、夜にぐっすり眠れるのも、私の祈りが役に立っているからなのだ。お母様からその話を聞けたのが、何より嬉しい。急いでここへ来て、本当によかった。


「城下でも、久しぶりに夜市を開けそうだ。陛下にご報告したら、早く日取りを決めろと急かされてな」

「この王都で開かれるんですか? 私も行ってみたいです」

「では、一緒に行こう。昔のままなら案内できるんだが……店が変わっていたら、君と一緒に迷うかもしれない」

「まあ、公爵様でも道に迷うんですか?」

「騎士団を率いているときなら問題だが、夜市でくらいは大目に見てくれ」


 思い切って、行ってみたいと言ってよかった。ガエタン様と二人で夜市を歩けるなんて。

 ……二人で、と思っていいのよね?

 聖女として招いた私に、王都を案内してくださるだけかもしれない。この方は誰にでも親切だから、私が勝手に勘違いしていたら恥ずかしい。

 結局、確かめる勇気は出なかった。次に庭で祈る日をお伝えして、その日はお別れした。


 翌日も、ガエタン様は庭に来てくださった。もう祈りを終えていた私は、ベンチの上で少し横にずれて、隣へお誘いした。


「夜市は来月に決まったそうだ。待ち遠しいな」

「はい。とても楽しみです」

「それで、明日も会えないか。……いや、夜市の知らせがあるからではなくてだな」


 慌てたように付け足すものだから、つい笑ってしまった。


「私もちょうど、お誘いしたかったんです。一緒に杏のタルトを食べませんか?」

「私の好物を覚えていてくれたのか」


 もちろん覚えている。馬車の中で、城の料理人が焼く杏のタルトがお好きだと伺ったのだ。

 実は、もう神殿の厨房にお願いしてある。お誘いできなかったら、私が全部食べるところだった。


「明日は、早く用を済ませてくる」

「無理はなさらないでくださいね。いらしてくださるなら、待っていますから」


 庭を出るところで、ガエタン様が振り返った。私は今度こそ、ためらわずに手を振った。


 その週の終わり、王城で開かれる小さな舞踏会に招かれた。

 淡い黄色のドレスを着て会場に入ったものの、さっきからガエタン様の姿ばかり探してしまう。

 もう、どなたかと踊っていらっしゃるのかしら。

 それなら次の曲をお願いすればいい。そう思っても、気になって仕方がなかった。


「ベルティーユ。一曲、踊っていただけるかな」


 振り向くと、ガエタン様が手を差し出していた。

 よかった。私を見つけてくださった。

 すぐにでもその手を取りたいのに、嬉しくて顔が緩んでしまいそうで、うまく返事ができない。


「……喜んで」


 ようやくそう答え、差し出された手に右手を重ねた。腰に手を添えられ、私も彼の肩に左手を置く。

 ダンスは得意なはずなのに、今日は足を踏まずにいられるかしら。

 曲が始まっても、しばらくはガエタン様の顔を見られなかった。いつもよりずっと近い。目を上げれば見つめ合うことになると思うと、肩の辺りから視線を動かせない。


「綺麗だ。今日は、あなたと踊るのを楽しみにしていた」

「私も、ガエタン様と踊りたかったんです」


 答えた途端、頬が熱くなった。

 お褒めいただいたときの返し方なら、何度も習ったのに。どうしてこういうときに限って、思ったことがそのまま口から出てしまうのだろう。

 繋いだ手を、ガエタン様が少し強く握った。


「では、次の曲もいいだろうか」

「まだ、この曲も終わっていませんよ」

「終わってからでは、誰かに先を越されそうだ」


 私だって、もう一曲ご一緒したいと思っていた。

 嬉しさを隠しきれずに笑うと、ガエタン様も微笑みを返してくださった。

 私と踊るのを楽しみにしていてくださったのだ。その言葉を、もう一度心の中で繰り返しす。


 二曲続けて踊った後、二人で窓際へ移った。開いた窓から風が入り、火照った頬を冷ましてくれる。


「夜市では何を見たい? 何か欲しいものはあるか」

「そんな、買っていただこうと思っているわけでは……」

「ああ、すまない。あなたの好きなものを知りたかったんだ。いつも俺ばかり、杏のタルトをご馳走になっているから」

「私も好きなんですよ。それに、ガエタン様がおいしそうに召し上がってくださると、また一緒に食べたくなるんです」


 ……また、余計なことまで言ってしまったかしら。

 ガエタン様は何もおっしゃらず、私を見つめていた。


「ガエタン様?」

「ベルティーユ。俺と結婚してほしい」


 驚いて、窓枠に添えていた手を引っ込める。

 いま、結婚とおっしゃった?

 顔を見上げても、ガエタン様の表情は真剣なままだった。


「私と、ですか」

「ああ。あなたを愛している。一緒に暮らしたい」


 嬉しい。けれど、すぐには声が出ない。

 ガエタン様は私の返事を待ちながら、言葉を続ける。


「聖女としてのあなたを尊敬している。この国を守ってくれていることにも感謝している。だが、そのために結婚してほしいと言っているんじゃない。明日また会おうと約束して別れるたびに、帰りたくないと思っていた。もっと一緒にいられたら、と」


 庭でお見送りするたびに、私も寂しかった。

 話し足りないことがいくつもあった。話すことがなくなっても、隣にいてくださるだけでよかった。


「私も……もっと一緒にいたいと思っていました。毎日、ガエタン様がいらっしゃるのを待っていたんです」

「では、結婚してくれるか」

「はい。私も、ガエタン様を愛しています」


 私が手を差し出すと、ガエタン様はそっと取って、指の付け根に口づけた。


「ガエタン様……」


 名前を呼ぶだけで精いっぱいだった。

 恥ずかしい。でも、手を離したくない。もう少しだけ、こうしていてほしい。

 その夜、オディールに書いた手紙は何枚にもなった。結婚が決まったと伝えるだけのつもりが、あの方のお話も、私の気持ちも、次から次へと書きたくなってしまったのだ。


◇


 オディールから返事が届いたのは、一週間後だった。

 結婚を祝う言葉に続いて、小さな字が便箋いっぱいに並んでいた。


『あなたが残してくれた結界が弱まっているの。神殿の皆で張り直しているけれど、どうしても前ほど広くは守れなくて。騎士たちが村を回って、皆を避難させてくれているわ』


 読み進めるうちに、手紙を持つ指に力が入った。

 王都の外に、魔物の大群が現れたという。騎士たちが人々を逃がしているものの、瘴気が濃く、避難する道まで塞がれかけていた。

 オディールも、国境へ向かう人々に付き添うつもりだと書いている。


『先に国境へ向かう騎士に、この手紙をお願いするわ。私は残っている人たちと一緒に戦場に行く。黙って隠れていたら、あなたに怒られてしまうものね』


 私は手紙の冒頭に目を戻した。

 結婚を喜んでくれる一文が、滲んで見える。

 こんな大変なときに、私のお祝いまで書いてくれたのだ。自分も早く逃げたかっただろうに、最後まで人々を守ろうとしている。

 オディール一人に、無理をさせたくなかった。


 同じ日、王太子の印が押された書面も届いた。


『ただちに帰還し、王都の結界を修復せよ。その功績を認め、婚約破棄を撤回する。待遇も以前のとおりとする』


 最後まで読み、ほかに何か書かれていないかと裏返した。

 けれど、人々の避難先も、オディールたちの安否も、どこにも書かれていなかった。

 婚約を戻してやると言えば、私が喜んで帰るとお考えなのだろうか。


 二通の手紙を持って王城へ向かうと、ガエタン様は騎士団の出発準備を進めていた。私は馬車を降り、旅装の彼に駆け寄った。


「国境へいらっしゃるんですか?」

「ああ。避難してくる人たちを受け入れるよう、陛下からご命令があった。先発隊は今朝、発っている」

「私も連れていってください」


 ガエタン様は、私の手にある二通の手紙に目を留めた。


「帰ってこいと言ってきたのか」

「はい。でも、殿下と結婚するために戻るつもりはありません。仲間の聖女と、逃げてくる人たちを助けたいんです」


 書面を渡すと、ガエタン様は読み終えても、しばらく顔を上げなかった。


「……以前の待遇に戻す、か」

「何もかも殿下に決められていた頃には、もう戻りたくありません」


 ようやく目が合った。


「分かった。では、国境で力を貸してほしい。向こうの村にも騎士を向かわせているが、瘴気に阻まれれば救助もできない」


 ガエタン様は書面を返し、従者に私の馬車を用意するよう命じた。

 王都の結界は今朝も確かめてきた。私が留守にしても、すぐに弱まることはない。

 一度神殿へ戻って事情を話すと、年配のシスターは私を引き止めず、旅行鞄を侍女に託してくださった。


「こちらは私たちにお任せください。お友達を迎えにいってあげて」


 支度を整えて王城へ戻る頃には、騎士たちが荷車に物資を積み込んでいた。馬車にも、厚い毛布が何枚も用意されている。

 あれがあれば、疲れた人たちを暖かくして休ませてあげられる。

 私はガエタン様を見上げた。


「参りましょう」


 オディールが心配でたまらない。けれど、もう手紙を待つしかなかった私ではない。

 今度は私から、会いにいけるのだ。


◇


 ミュレーヌ城に着いたのは、二日後の昼だった。

 城門へ続く道には、避難してきた人々が列をなしていた。男たちが荷車を押し、その脇をロシュヴェルの騎士が駆けていく。列の後ろで動けなくなっていた人を背負うと、また城門へ引き返してきた。

 馬車を降りた私は、道を覆う淡い結界に気づいた。

 その中に、オディールがいた。片手を前にかざし、もう片方の腕で、杖をついたお年寄りを支えている。


「足元に気をつけてね。大丈夫、お城はすぐそこよ」


 前を歩く子供に声をかけていた。いつもの声より、ずっとかすれている。

 駆け寄ろうとしたとき、護衛を従えた騎馬が私の前を塞いだ。

 アモーリ殿下だった。

 服にも靴にも泥がこびりついていたが、私を見ると、ほっとしたように顔を緩める。


「ベルティーユ! やはり来てくれたのだな。すぐに王都へ戻るぞ」

「先に皆様を城へ避難させます。そこをお通しください」

「この混乱を収めれば、婚約破棄は取り消してやると言っただろう。まずは私と――」


 最後まで聞かずに、殿下の馬の脇をすり抜けた。

 こうしている間にも、オディールの結界は端から崩れかけている。迫ってくる瘴気を、もう抑えきれないのだ。


「オディール!」


 振り向いた彼女が、泣きそうな顔になった。

 けれど、すぐに近くの騎士を呼び、支えていたお年寄りを預ける。


「来てくれたのね」

「遅くなってごめん。私も結界を張るわ」


 隣に立って両手をかざし、消えかけていた結界に力を注いだ。白い光が道の両側を走り、押し寄せていた瘴気を押し返す。

 オディールは大きく息をついた。それでも、祈りをやめようとはしなかった。


「後ろから、大きな魔物が来るの。王都の外の結界も、そいつに破られたわ。矢を射かけても、周りの黒い霧に弾かれてしまって……」


 道の向こうから、魔物の咆哮が響いた。

 荷車よりも大きな獣が、黒い瘴気をまとって坂を下りてくる。霧の下では何本もの脚がうごめき、地面を踏みしめるたびに土が跳ねた。その後ろには、大型犬ほどの魔物が群れている。

 城壁から矢が放たれる。けれど、どれも大きな魔獣を覆う霧に弾かれ、道端へ落ちてしまった。


「荷車を脇へ寄せろ! 人を先に通せ!」


 ガエタン様の号令で、騎士たちが動き出した。

 結界の中では、子供を抱いた母親が立ち止まっていた。荷物を置いていくのをためらっているのか、荷車と城門を見比べている。

 その先には横倒しになった荷車があり、後ろから来る人々が立ち往生しかけていた。


「荷物は騎士の方が運んでくださいます。お子さんと先にお城へ!」


 母親に呼びかけ、結界を道の端まで広げた。騎士の一人が倒れた荷車を持ち上げ、その脇へ別の騎士が人々を誘導する。

 まだ城までは距離がある。この道を通る人たちを、一人も瘴気に触れさせてはいけない。

 城門まで結界を伸ばすと、私は迫る魔獣に向き直った。


「オディール、皆をお城の中へお願い。歩けない人がいたら教えて」

「分かった。あなたはどうするの?」

「ここで瘴気を払うわ」


 オディールは頷き、近くにいた幼い子の手を取った。母親を呼んで泣く子をなだめながら、人々の列に加わっていく。

 私は避難の邪魔にならないよう道の左端へ寄った。

 ガエタン様は馬を降りて部下に手綱を渡し、剣を抜いた。左腕には盾を構えている。


「ベルティーユ、あの瘴気を払えるか」

「はい。ただ、あれほど濃いと少し時間がかかります」

「分かった。俺たちが引きつける。その間も、避難する人たちを頼む」


 私が頷くと、ガエタン様は騎士たちの前へ進み出た。

 あっという間に遠ざかってしまう。さっきまで隣にいたのに、もう魔獣の目の前だ。

 待って、と呼び止めたくなる。

 あの方が食い止めなければ、逃げ遅れた人たちが襲われる。分かっていても、怖い。


 小さな魔物が飛びかかり、騎士の盾に激突した。

 私は魔物に向けて浄化の光を放った。まとっていた瘴気が消え、魔物は悲鳴を上げて道の外へ転がった。後ろから続いていた群れも、光を恐れて逃げ始める。

 けれど、あの大きな魔獣だけは止まらなかった。さらに濃い瘴気の霧をまとい、騎士たちに襲いかかる。

 ガエタン様が左へ走った。獣の鼻先を斬りつけるが、剣は瘴気に弾かれてしまう。彼を追って振り下ろされた爪を、盾が受け流した。


 耳をつんざくような金属音に、びくっとした。

 早く。早く、あの霧を消さなければ。

 息を吸い、魔獣の胸元に光を集中させる。こちらに向きかけた魔獣へ、ガエタン様が横から盾を叩きつけた。

 避難する人々の結界は、まだ保てている。ガエタン様のところにも、ちゃんと光は届いている。

 大丈夫。慌てて祈りを途切れさせては駄目だ。


「もう少しです! そのままお願いします!」


 黒い霧が薄れ、灰色の皮膚が見えた。

 その場所へさらに力を注ぐ。胸元から首にかけて、瘴気が裂けるように消えていく。

 魔獣が吠え、前脚を高く振り上げた。


「今です!」


 ガエタン様が盾を掲げて踏み込んだ。

 振り下ろされる爪をかわして懐へ飛び込み、首の付け根に剣を突き立てる。

 魔獣がのけぞった。前脚が宙をかき、巨体が横へ傾く。

 ガエタン様が剣を引き抜いて飛び退いた直後、魔獣が地面に倒れ込んだ。

 もうもうと土煙が上がり、彼の姿が見えなくなる。


「ガエタン様!」


 返事がなかった。

 駆け出しかけた足を止め、祈りを続ける。まだ結界を解くわけにはいかない。

 お願い。どこにいらっしゃるの。

 土煙の向こうで、見覚えのある盾が上がった。


「無事だ! 心配ない!」


 ガエタン様が立っていた。

 駆け寄る騎士に片手を上げて応えながら、剣は構えたまま、逃げていく魔物に目を向けている。

 よかった。本当に、よかった。

 詰めていた息を吐き、残った瘴気を払った。周囲が晴れてから浄化の光を収める。

 道を覆う結界は、最後の一人が城に入るまで残しておこう。


「これほど広い結界を……」


 声のしたほうを見ると、馬から降りたアモーリ殿下がいた。

 光の壁に手を伸ばし、その向こうに倒れた魔獣を見ている。


「王都にも、これを張っていたのか」

「はい。街の外まで守れるようにしていました」


 殿下は、城門まで続く光の壁を見渡した。

 何かおっしゃろうとしたところへ、騎士が駆けてきて頭を下げた。


「聖女様、全員、城内に入りました。お二人が守ってくださったおかげです」


 城門の下で、オディールが大きく手を振っていた。お年寄りを座らせていた兵士たちも、こちらに頭を下げている。

 私はようやく結界を解いた。

 殿下は黙ったまま、戻ってくるガエタン様を見ていた。


「ベルティーユ、怪我はないか」

「私は大丈夫です。それより、ガエタン様こそ。あの爪を受けたとき、腕が……」

「少し痺れたが、折れてはいない。あとで医者に診てもらう」


 そう言って左手を開いてみせるので、私はその手を両手で包んだ。

 治癒の光を送り込む。


「お呼びしたら、すぐに返事をしてください。何かあったのかと……」

「すまない。土埃を吸い込んで、声が出なかったんだ」


 ガエタン様が小さく咳き込んだ。

 顔を見ても、声を聞いても、まだ手を離せなかった。握った手が握り返されて、やっと少し安心する。

 城門までは、二人で並んで歩いた。


◇


 中庭に入るなり、オディールが抱きついてきた。


「さっきは、ゆっくり顔も見られなかったから」


 私も彼女の背に腕を回した。

 白かったはずのローブは泥で汚れ、肘の辺りはかぎ裂きになっている。ここまで、どれほど大変だっただろう。


「無事でよかった。本当に……」

「騎士たちが守ってくれたの。途中からは、ロシュヴェルの騎士も迎えに来てくれたわ」


 体を離すと、オディールは疲れた顔で笑った。それから、私の後ろへ目を向ける。


「公爵様のお怪我は?」

「いま、お医者様に診ていただいているわ。腕の痺れも引いてきたそうよ」

「よかった。……それにしても、あなたのあんな声、初めて聞いたわ。公爵様を呼んでいたとき」


 顔が熱くなる。

 何と答えればいいか分からず、とにかく休んで、と彼女を空いているベンチへ座らせた。

 脇のテーブルにあった水差しからカップに水を注ぎ、手渡す。オディールはそれ以上からかわず、素直に飲んでくれた。

 私も腰を下ろそうとしたところへ、アモーリ殿下がやってきた。


「ベルティーユ。帰国について話をするぞ」


 ちょうど、ガエタン様も城内から戻っていらした。

 けれど、彼が来るのを待つ必要はなかった。私は殿下に向き直った。


「私は戻りません」

「先ほどの力があれば、国を救えるだろう。何が不満なのだ。侯爵令嬢との縁談は取り消す。お前を妃に迎えると言っている」


 オディールがカップを置き、立ち上がろうとした。

 私は彼女に「座っていて」と声をかけ、もう一度殿下を見た。


「故国の方々を助けたくて参りました。殿下と結婚するためではありません」

「今度こそ大切にする。望むなら、すぐに式を挙げてもいい」


 あの庭園で、その言葉を聞けていたら。

 結婚を早めたいと言っていただけたら、あの頃の私は、きっと泣くほど喜んだだろう。

 ずっと待っていた自分を思うと、今でも悲しい。

 けれど、もう殿下と結婚したいとは思わなかった。


「私はロシュヴェルで暮らします。この国の聖女として皆様を守り、ガエタン様と結婚します」

「私はセヴランザの王太子だぞ。お前の祖国の――」

「その殿下が、私を他国へお売りになったのではありませんか」


 殿下は言葉を詰まらせた。それでも、私に向かって一歩踏み出す。

 ガエタン様が隣に立った。


「彼女の返事はお聞きになったはずです。この国で、彼女の意に反する結婚を強いることはできません」


 殿下は私とガエタン様を交互に見る。

 私はガエタン様の手を取り、オディールの待つベンチへ戻った。


 私とオディールは、祖国の結界を張り直す作業を続けた。

 壊された村々が元どおりになるわけではない。それでも、あの魔獣が倒されて群れが散ったおかげで、安全を確かめた場所から結界を張り直し、徐々に人々を帰せるようになった。


 故国から正式な知らせが届いたのは、国境へ向けて出発した日から六週間ほど経った頃だった。

 アモーリ殿下は王太子の地位を失い、国政に関わることも禁じられた。

 私を他国へ移すよう主導したうえ、その後も結界についての警告を退け続けた責任を問われたのだ。

 国王陛下も判断の誤りを認め、改めてロシュヴェルに救援を要請している。

 私を売って得た富も、もはや殿下の自由にはならない。


 書面を脇へ置き、私はオディールへの手紙を書き始めた。

 次は婚礼の招待客として、彼女を迎えたい。

 式の日取りが決まったことを、誰よりも先に知らせるつもりだった。


◇


 婚礼の朝、部屋に入ってきたオディールが、ぱっと顔を輝かせた。


「綺麗! ねえ、少し回ってみて。後ろも見たいわ」


 私は鏡の前で、ゆっくりと一回りした。白いドレスの裾がふわりと広がり、縫いつけられたレースが床を滑った。

 あの戦いから数か月。何度も手紙を交わしてきたけれど、こうして顔を合わせるのは久しぶりだった。


「長旅で疲れたでしょう。ちゃんと休めた?」

「ええ。お城に着いた途端、荷物を全部持っていただいて、何から何までお世話になってしまったわ。お客様として迎えてもらうのって、こんなにそわそわするものなのね」


 笑いながら近づいてきたオディールが、私の髪に目を留めた。


「あ、それ……」

「今日、つけてもいいかしら」

「もちろん。あなたにあげたものだもの」


 鏡に映る青いガラスの花を、二人で眺めた。

 白いベールに隠れないよう、侍女に頼んで挿してもらったのだ。


「よく似合っているわ」


 オディールはそう言って、しばらく私を見つめていた。

 私は彼女の両手を取る。


「お祝いに来てくれて、ありがとう」


 この髪飾りをもらった日には、うまく伝えられなかったことも、今日は話せる気がした。

 けれど、扉のそばで侍女が時間を知らせてくれる。続きは、式の後だ。


 礼拝堂では、ガエタン様が待っていてくださった。

 差し出された腕に手を添え、一緒に祭壇へ進む。

 前を向かなければいけないのに、何度も隣を見たくなった。本当に今日、この方のお嫁さんになるのだ。


 誓いの言葉に答える声は、少し震えてしまった。

 指輪をはめてもらい、ようやく息をつくと、ガエタン様もほっとしたように微笑む。

 ああ、この方も緊張していらしたのだ。


 式と祝いの席が終わり、控えの部屋で二人きりになる。

 ソファに腰を下ろすと、急にお腹が空いていることに気づいた。


「今日はずっと嬉しかったのに、緊張して、ほとんど何も食べられませんでした」

「俺もだ。朝から紅茶ばかり飲んでいた」

「……今頃、お腹が空いてきてしまって」


 顔を見合わせ、二人で笑った。

 給仕の方が勧めてくださった鶏肉のサンドイッチを、どうして断ってしまったのだろう。さっきまでは、本当に一口も入りそうになかったのに。

 ガエタン様は扉を開け、廊下の侍従にサンドイッチと紅茶を二人分頼んでくださった。

 戻ってくると私の隣に座り、指輪をはめた手に、ご自分の手を重ねる。


「ゆっくり食べよう。今日は、神殿へ帰る時間を気にしなくていい」

「はい。明日の朝も、ご一緒できますね」


 私の夫。

 心の中で呼んでみるだけで、頬が緩んでしまう。

 これからは、一緒に食事をするために約束を取りつけなくてもいい。お見送りの後で、もう少しそばにいたかったと思うこともない。

 肩を寄せると、ガエタン様が抱き寄せてくださった。

 顔を上げ、口づけを受ける。唇が離れた後も、その胸元に寄り添っていた。


 窓の外から、大きな声が聞こえてきた。


「あちらよ! 窓のところ!」


 通りを埋める人々が、こちらを見上げている。

 花束を掲げる女性の隣で、子供が両手を振っている。「お幸せに!」という声が、婚礼の鐘に負けないほど大きく響く。

 今日は、瘴気を祓ったわけでも、魔物を退けたわけでもない。

 私たちの結婚を、こんなに喜んでくださっているのだ。


「ガエタン様。一緒にご挨拶しませんか」


 二人で立ち上がり、手を繋いで窓辺へ向かう。

 人々に手を振ると、ひときわ大きな歓声が上がった。私も嬉しくなって、何度も振り返した。

 隣には、夫になったばかりのガエタン様がいる。

 明日の朝も、その次の朝も、この方と一緒に迎えられる。そう思うと、自然に笑顔になった。



完。

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「婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません」

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「 潰れた定食屋のオッサン、ダンジョンで定食屋を再開したら料理にバフが付いていた。激重S級ダンジョン配信者アイドルが毎日入り浸るし、たまに休むと勝手に客が曇って困る」

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― 新着の感想 ―
偉そうに息子を処分してるけど、一番ヤバいのは聖女放出を承認した国王でしょ。
娘を売った伯爵も小さくなってこの先生きていきそう。
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