高みの見物は、天界から。
なんでもあり。
「見てください、神様。私の元婚約者がまた浮気してますよ〜」
「それ、見てて楽しいか…?」
「無様だなぁと思いながら眺めてたら、生前の溜飲も下がるというものです」
「そうか、貴様が楽しいなら特に問題ないが」
とある令嬢は、雲の上から自分が生きていた世界を眺めていた。
来る日も来る日も、飽きずに見ていた。
自分の生きていた場所は、なんて狭かったのだろうと毎日思った。
あれだけの悲しみも、怒りも、今やなぜ感じていたのかわからないほどだった。
それくらいの時間、長いことここから眺めていた。
「あの人、真実の愛とやらと結婚できたのに、なんでまた浮気してるんでしょうね?暇なのかしら」
「自分で自分の慰めができないから、他で満たされるしかないんだろう」
「下半身が満足知らずなだけじゃないですか?」
「女から求められる自分じゃないと許せないんだろうな」
「もういい歳なんだからやめればいいのに」
神様は自分の仕事、主に下界を観察することを、その令嬢と一緒にしていた。
生前と違って、いつでも話し相手になってくれる人がいるというのも、元令嬢は気に入っていた。
神なので、人ではないが。
「あっ、あそこの家、また水増し帳簿をつけてる!懲りないわね〜」
「バレないと調子に乗るからな」
「あそこのお宅は、また夫婦喧嘩ですね」
「あれが生き甲斐なのだろう」
「子どもたち、怯えてますけどね」
「使用人も苦労するな」
「これだけ全部見られると、人間の生活が馬鹿らしくなっていいですねぇ」
「それ、いいのか?」
神様の声は平坦なので、元令嬢はおかしくて笑ってしまう。
こうやって、声を出して笑うことさえ許されなかった生前は、なんて退屈だったのだろうと思う。
「これだけ上から見渡せる目なんて、私が王なら欲しいですねえ」
「それができたら、人ではない」
「本当に。見えているものが違いすぎて、生きるのが大変だったのがよくわかります」
うんうん頷きながら、自分がいた頃よりもすっかり大きくなった年の離れた弟を見た。
もうすでに、生前の自分よりも年上になった弟を見るのは、いまだに不思議な気持ちがしてくる。
「あの子は、ここから見ても真面目ですねぇ。うちの子とは思えないくらい、いい子に育ちました」
「あやつこそ、危なっかしく見える」
「ふふふっ、姉の死の復讐なんて計画しているなんて、本当にいい子ですよ」
「今はまだ計画するだけ、か」
「ええ、だからいい子なのです。聡い子に育ちました。そんなことしたって、何にもならないとわかっているから、あの子は何もしないのです。ただ、自分のやるべきことに毎日取り組んでいる。自慢の弟です」
「弟の話をしている時だけ、貴様はいい顔をするな」
そう言われて、元令嬢は神様の方を向いた。
そんなわかりきっていることを改めて言われるのは、不思議な感覚だった。
「あの子だけが、生前で唯一心を許せた子ですからね」
その言葉に、悲壮感などない。
ここでの暮らしに時間が経ちすぎて、そんなものはいつの間にか消えてしまっていた。
生きていた時間より、ここにいる時間の方が長すぎたのだ。
「あの子も、早く吹っ切れるといいですね。…まあ、生きている間は難しいかもしれませんが」
そう言って、もう一度世界に視線を戻した時、また新たな展開を迎えていた。
「あっ、元婚約者が真実の愛の女に、浮気がバレましたよ。あははっ、殴られてる。あの女はここから見る分には豪胆でいいですよねぇ〜。いけいけ、顔をボコボコにしてやりなさい。そしたら、浮気も少しは控えるでしょっ」
「自業自得だな」
「これだから観戦はやめられないですよねえ」
元令嬢はケタケタ笑いながら、今日も生きていた場所を見る。
生きていた頃よりも、ここから見る世界はずっと楽しかったのだった。
了
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223日目。




