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婚約破棄された性格ゴミクズ令嬢は絶対治癒呪文アジャラカモクレンテケレッツもパーと言ってどんな病人をも治す

作者: らのあお
掲載日:2026/05/18



 ご覧の皆様こんにちは。八百万の神、なんて言いまして、この世界には沢山の神様がいらっしゃいます。治癒の女神ホイミー様にお金の神様ゴルデン様。

 ありがたやありがたや、ありがたい神様ですよ。


 しかしその一方、絶対にお付き合いしたくない神様と言うものも居ます。

 それがざまあ神だったり追放神だったり、そして、死神。



 「おい!お前!お前お前!!」


 王宮の黄金の間にてきらびやかなパーティーが開催されている。女は踊り、男は酒を飲む。


 「そんなに慌ててどうしたのです、公爵様」


 リチャード公。私、エイティアの婚約相手である。良く言えば幼い可愛さを持った男の子、悪く言えば礼節さには少し欠けた馬鹿な大人という人だ。そんな人が剣術で負けたのか、あるいは賭場に負けたのか知らないが、金の髪をぐちゃぐちゃにしながら頬のニキビを触って声を荒らげている。


 「婚約破棄だ!お前には姦通の疑いがある!」


 「は?」


 「汚い醜女!昼間っからおれの隙を盗んで兄とまぐわって!お前なんか!お前なんか!フォッカッチャの角に頭をぶつけて死んじまえ!」


 フォッカッチャって、あれ、半島の丸いじゃん、角なんてないのに……


 「知りません!私はそんな事、貴方とお兄様と寝てなんか居ないわ!」


 パチン!平手が私の頬に飛んでくる。


 「おれに口答えするな!」


 周りが見ている。私を見ている。私、何も悪い事してないのに。

 嫌だ、怖い。


 「逃げるのか!!おれから!」


 滲む、汗が。髪のなかに。肺が痛くて、心臓と足はもっと痛い。いつの間にか会場から逃れ、夜の中の街を歩く。

 煉瓦屋根の街、街灯の灯油が盗まれ辺りは黒一色。ネズミの声も悪漢の声も無視して、辿り着くは橋の真ん中。


 「いっそ死んでしまおうか」


 貴族の娘の役割、それは家と家を結ぶこと。私はそれを果たせず、あまつさえフィフスィス家と公爵家の繋がりを断絶させてしまった。家に帰っても当然勘当されるだろう。かと言って自分が女一人で生きていけるとは思えない。

 なら、長く苦しく死ぬよりは、一瞬で終わらせてしまったほうがマシだろう。


 「嫌だな……」


 橋の手すりを掴んだとき、ふと思い出した。そういえば7つの時、私は家の井戸に落っこちて溺れかけてしまった。あんな苦しい思いをして死ぬのはちょっと嫌かな。

 一度思い直してとぼとぼ歩く。

 束の間、雲の隙間から三日月が顔を出し、ある場所を確かに、神秘的に照らした。


 「魔法道具店……確かに魔法なら」


 危険な魔法、特に魔物に負けるような物。それならば一撃で頭を吹き飛ばして楽になる事が出来る。


 「でも攻撃魔法の詠唱なんて知らないし、どうすればいいのかしら」


 「教えてやろう」


 「え!?」


 路地裏に光る赤色の目。カラスが鳴いた時、その目は私の眼の前にあった。


 「うわぁ!?凄いイケメン、誰!?」


 雪のような、いやもはや死人の如き白い肌。しかし生者のように艶のある長い黒髪を携えた美男子。私よりもずっと身長は高く、だが腕や首元からは筋肉が感じられない、不気味な人。

 そんな男がカツンカツンと石造りの道に杖を突きながら私の前に立っている。

 正直、めちゃくちゃタイプだ。公爵様よりも、ずっと。


 「死神さ、おりゃね」


 「……今まで死にたいって思ったことなかったのに、急に死にたいって思ったの、もしかして貴方のせいじゃ……」


 「まぁそう邪険にしないでくれよ、傷付くから」


 あれ、なんかこの人、死神なんて、死の神なんて言う割にはなんか可愛い気がする。特に所作とか、その睫毛の長い瞳とか。


 「それにほら、アンタはまだ死なないよ。寿命が全然あるからね。そういう奴は死のう死のう首括ろうといっても括った縄が運悪く虫に噛まれた不良品だったりするのさ」


 「じゃあ何しにきたのよ。死神さんが」


 「ちょいと相談があってなアンタの前にこうやって出てきたって訳さ」


 死神に相談……よく分かる死に方講座とか?でもなんか、意味分からない事起きてるせいで死ぬ気なくなっちゃったし、当面は良いかな。それに死ねないらしいし。


 「あ、ちょっと待て、逃げんなって。宗教勧誘でも何でもないから」


 「いや怪しいでしょ、死神から相談あるなんて言われたら誰だって逃げるわ」


 「いまなら美味しい稼げる話があるんだ、だから話だけ聞いてくれ。おれはお前の苦労をずっと見てたんだぞ、報われて莫大な富を得るときが来たんだ」


 もっと怪しい!絶対詐欺師だ、金の代わりに寿命とか取るタイプの詐欺師。絶対そうだ。


 「おれとアンタにゃ深い因縁があるのさ!前世、前前世、前前前世からの」


 「スピリチュアル系ならお帰りください、私、神様は信じて居ますけれど、貴方の事は信じれないので!」


 「だから邪険にすんなって、おりゃアンタに医者んなれって言ってんだ」


 お医者様?私が?何言ってんだこの人。

 あ、意味わからなくてまた足を止めちゃった。


 「やっと止まった。あぁ、なにも医者んなれってのは、教会とか通って勉強しろってんじゃねぇ。ただ、病人に憑く死神を追っ払えって言ってんだ」


 「良いか、よく聞けよ。病人には死神がつく。もしもその死神が若けりゃそいつの先は長い。逆にジジィやババァだったらそいつはもう駄目さ。神さんが逆立ちしながらジャグリングして玉に乗って火の輪潜りしても助からねぇ」


 最後だけなんか違うくない?


 「んでアンタは病人のとこ行って、若い死神を追っ払え。そんで呪文を唱えて2回手を叩くんだ。するとなんと驚き、さっきまで結核で喀血してた奴も、あれ何かありましたか、なんて言って瞬く間に健康体になっちまう。そうしたらどうよ、アンタは稀代の名医さ」


 「呪文ってのは何よ」


 死神さんはニヤッと口角を上げ、私の肉体を一瞥する。なんか、ちょっと下品だななんて思った。しかし、蛇睨まれたような恐ろしさの方が遥かに大きかった。


 「いいか、絶対に他の奴に言うなよ、あと一度しか言わねぇから、きちんとメモっとけ。仕事の基本だろ」


 「アジャラカモクレン、テケレッツもパー」


 2回の拍手、辺りに響く。


 「え……アジャラカモクレン……テケレッツも、パー?」


 拍手を2回。すると死神の頭から黒いモヤ、煙が現れた。いや、違う。正確には、死神の頭が黒い煙に変わっていく。


 「いいか、絶対だぞ、絶対ジジィババァには使うなよ、絶対さ」


 口まで黒い煙になる。


 「え、その消え方で足元じゃなくて頭からな事あるんだ……」


 屋敷に帰って自分の部屋と蔵から物品を色々頂戴する。親が帰ってくる前、とにかく金目の物を色々持って屋敷から退散し、それらの殆どを質に出してその金で賃貸を契約した。広場前の煉瓦造の一軒家である。


 「ん〜でもどうしましょう。お医者さまになるって言っても、どうやってお仕事を取ればいいのかな」


 白のベットに寝っ転がっているその最中、目の前にあの男が現れた。


 「よぉ、悩んでんな」


 「うわ壁から首だけ出すの辞めて!キモいから、あと勝手に入るのどうなの、女の部屋に!」


 壁に白面長髪目鼻立ちのしっかりした美男子。でも首だけ壁に張り付いてるみたいだから、屋敷にある剥製みたいだ。鹿のさ。


 「別にいいだろ。おりゃずっとお前についてきた。だからアンタの裸なんぞ見飽きてんのさ。それにほら、前世はグラマラスだったが、今のあんたは薄すぎる。顔とスタイルは良いんだがな」


 「死ねボケ!」


 枕は死神の顔に直撃する。


 「可愛げない奴。でもしゃーない奴だからな、悩んでんだろ、どうやったら仕事取れんのかって」


 コクリ、小さく頷いた。このうざったい死神から助言を貰うのは癪に障るが、このままだと身体売るしかなくなってしまう。幸い自分は教養人であるから、高級娼婦の仕事は出来そうだけれども。


 「ふん、アンタはマジでカスだな。でもそこの剣使えんだろ」


 死神の視界の先、質屋のおっちゃんがこりゃ鑑定出来ねぇよって言って買い取ってくれなかった剣。勇者の剣である。赤龍をも一刀両断した伝説の武器らしいよ。


 「その剣にな、医者とでも書いて家の前で医者ですなんて叫べばいい。そしら誰かが面白がって話を広げて、切羽詰まった奴が来てくれるかも知れねぇ」


 ものは試しだやってみよう。と言い訳で私は勇者の剣に医者と書いた。蔵にあった不朽の黒インクというこれまた鑑定できなくて買い取って貰えなかった物を使って。

 剣の家の前に置いてから数十分、さっそく客が来た。


 「ごめんくださいませ!」


 銀髪のお姉さん、トンガリ耳を持っていた。エルフって奴、何だろうか。そして背中には顔を赤くした、銀髪のエルフ少女が辛そうな顔で寝ていた。


 「ここはお医者様でお間違いありませんね?街の人に聞いたら、公園を少し進んで左曲がった広場と」


 あ、それ多分近くのクボタ爺さんの小児科だ。絶対うちじゃない。でもまぁそうだよね、あそこ看板とか出してないし。


 「えぇ!お間違いありませんよ、お姉様。その子が急患ですね、2階に上がったベットで寝かしてやってください、すぐに良くしますから」


 2階に上がり寝かせれた子供を見る。すると幼子に付いた死神、これまた黒髪の幼さ残る美少年が足に立っていた。なんだろう、死神は美人じゃなくちゃいけないルールでもあるんだろうか。


 「お姉様、しばらく1階でお待ちしてくださいませ、そして冀くは、両手を合わせて神さまにお祈りなさるのです、周りの音が聞こえぬくらいに集中して」


 「は、はい?はい、わかりました」


 お姉様を部屋から追い出し、患者と私、そして死神二匹だけの空間になった。


 「あ、アジャラカモクレン、テケレッツも、パー!」


 拍手を2回。すると少年はいきなり驚き、そして頭から黒い煙を噴出した。死神が帰っていくのだ。


 「え、えぇ?急に、えぇ??」


 戸惑う美少年死神。しかし彼は状況を理解する前に消えていった。


 「ん……あれ、お母様は?」


 目を擦って起きる少女。その顔にはさっきまでの熱病に似た苦しそうな表情は無かった。健康そのもの、子供として健全たる表情をしていたのである。


 「1階で待っててくれてるわ」


 「そうなの?お姉ちゃんありがと!」


 少女はズカズカと大きな音を立てながら階段を駆け下り、エルフのお姉様のとこまで駆けていった。


 「ママ!!」


 抱き合うエルフの親子。なんか良い事した気分だ。


 「あ、ありがとう御座います、ありがとう御座います!故郷のお医者様はもうだめと言っていたので、まさか本当に治るなんて、これ、代金で御座います、全てお受け取り御座いませ!」


 金貨、沢山の。煌めいている


 「うひょ、いえ、ごめんなさい。ありがとう御座います」


 懐にそっとしまい、母親に礼をした。


 「えっと、それだお薬とかってのは……」


 「薬……?」


 薬、なんか、どうするか。

 一度自分の部屋に戻り、なんか薬になりそうなものを漁る。何か、何かないだろうか。あ、これとかいいんじゃないの。

 引き出しのなかから買い取って貰えなかった神聖龍ラスフョードロニコフの角を取り出す。それをハンマーで砕いて、小さな袋の中に入れる。


 「お待たせしました、お薬です。まぁこれを軟膏かなんかに混ぜて適当に塗ってやってください」


 「適当に?え、何です?これ」


 母親の広げた小さな袋から光が溢れる。まぁそりゃ神聖龍なんてゴツい名前のドラゴンの鱗だし。でも神聖龍なんだし良い感じの効果あるだろ。だって神聖なんだよ。


 「適当に。まぁ信じてください」


 「え、も、もちろん疑ってなんていませんわ、娘を治してただいたお方ですもの。ですから……あぁきちんと塗らせていただきます」


 その後、私は医師会で一躍有名となる。なにせどんなに苦しんでいる病人でも私の元に運び来られたらすぐに治ってしまうものだから。そしてどんなに元気な患者であっても、老人の死神が憑いている患者にはもう無理だと対応せず、その患者はすぐに病状が悪化し逝ってしまうものだから、ますます私の名声は高まり、稀代の名医なんて言葉じゃ足りず、預言者様だなんて大層な名前でも言われるようになった。


 数年前、婚約破棄で死のうかななんて言ってた私が今では実家の屋敷と同じくらいの屋敷住む大金持ちである。


 そしてそんな時、ある依頼が私の元に届いた。


 「息子を助けてくれ?ん……送り主あの公爵じゃないの!」


 噴水が勢い良く立ち上がる中庭。巨大な屋敷の玄関口にて、私は厳つい初老のおじさんに迎えられた。


 「おぉ、来てくれたか。名医エイティア・フィフスィス。どうか我が息子、リチャードを治してやってくれ」


 「えぇそのようにしましょう。しかし私は婚約破棄の件、忘れてないですからね」


 ギクッ、そう声に出しそうな顔をしていた。

 長い廊下と階段を経て、私はある大きな部屋に着いた。

 赤いカーテンが靡く赤い絨毯の部屋。豪勢に豪勢重ねた部屋。そしてその中央には天蓋付きのベットがあった。


 「おぉ!来たか!懐かしのエイティア!」


 天蓋をめくるとそこには立ち上がる事もままならぬほどブクブクと太ったあの男が居た。


 「辞めてくださいね馴れ馴れしい」


 「そういうでない、お前とておれを救いに来てくれたんだろ」


 「えぇ~どうでしょうね」


 傍らには老人死神が立っていた。しかし老人と言えど死神。白髪が目立つだけで30代か、それか20代後半といえばそう信じてしまうくらいの顔立ちの綺麗さを持っていた。


 「頼む、掛かり付けのあいつもおれを見捨てた、もうお前しか居ないんだ、おれには」


 じゃあ一回ぶっ叩いて帰ろうかな。ざまあ見ろってことでそれでいいでしょ。


 「んじゃ行いが返ってきましたね。ざまあ見ろって感じです。それでは〜」


 「待っ、待ってくれ、エイティア!待てと言っている!おれが、エイティア・フィフスィス!おれがもっかい婚約してやるから!」


 「はぁ!?それは一番嫌です」


 「じゃあ金をやる!それか何だ、屋敷もやる!皇帝陛下に頼み込んで爵位だってやる!」


 爵位……特権。免税特権。確かにそれがあれば稼ぎは今の稼ぎの数倍……


 「いいでしょう。医師の名にかけて、大っきらいな貴方を救ってあげますわ」


 ブヨブヨの肉体は涙を流しながら醜い顔で私を見ている。だから私は……


 「一旦寝ててくださいね」


 グーパンで殴って気絶させた。一旦。


 「老死神……」


 目の前のうたた寝している老死神。心臓バクバク、だからこそちょっと笑ってしまう。


 「こ、こうかしら……」


 ポーチから取り出す化粧道具。乳液をこっそり、こっそりと掛けてクリームでシミを隠し、色の差で皺をごまかす。そして最後に机にあった墨をその白髪にぶっかけて黒に染めた。

 なんと驚きだろうか。あの老死神は私の手ほどきによって若死神に生まれ変わった。もはや19歳とか25歳とかいっても市中の娘はまぁ納得って言うくらいである。


 「ア、アジャラ、アジャラカモ……クレンテケレッツもパー!!」


 拍手を2回。するとうたた寝していた死神は口を大きく開いて驚き、そして瞬時に消えた。

 その後、ブヨブヨの男はすぐに体調を良くして何とか立ち上がれるようになった。そして帰り、彼の父親からひとまず金一封と渡され、私は大笑いしながら夜道を歩いた。


 「ふ……ふふっふは!うふふふふっ!!」


 良くない顔をしている。だが驕れる者 も久しからず、私の肩に冷たい感覚があった。


 「何故んな馬鹿な……いや馬鹿すぎ!」


 「あ、お久しぶりですね、死神さん」


 死神は呆れたような表情で私を見つめた。


 「いやさ、えぇ?お久しぶりです?お前俺の言ったこと忘れたのか?」


 「もちろん、一度足りとも忘れてませんわ。誰にも言わない事、老死神は追い払わない事」


 死神は髪をぐちゃぐちゃに掻き毟る。


 「若作りしてもジジィはジジィだろ馬鹿。あぁもう本当に馬鹿馬鹿。しょうもなさすぎて馬鹿しかでねぇよ馬鹿馬鹿ばっかだ馬鹿」


 死神は私の胸元に杖を突き出した。


 「おら、掴め」


 「な、なんでです?」


 「お前このままだと輪廻のやり直しをせにゃならねぇ、前前前世からやり直しさ」


 それは嫌だ、いや、でも前前前世がなんか、お姫様とかならありなのかも?


 「あ、お前ちょっと期待したろ。お前の前前前世、言っとくけどティラノサウルス」


 「えぇ!?」


 「に、食べられるトリケラトプス」


 「何だ食べられる方か、いや嫌ですよ」


 「の大腸菌だ」


 「いやスケール小っさ!嫌ですよ、絶対嫌です、畜生ですらなく菌類だなんて」


 「じゃあ掴め、まだ最後のチャンスがある。大腸菌やってからサルモネラ菌やって納豆菌やるのは嫌だろ」


 両手で杖を掴んだ時、急に世界が闇に満ちた。霧の中、深く深く黒くなっていく。そして怖くって目を瞑ったとき、明かりがある気がした。僅かな、ほんの僅かな明かりである。


 「なにも地獄に連れて来たってわけじゃねぇよ、開けな、目」


 目を空けたとき、そこは大洞窟であった。巨大な洞窟、そして沢山の蝋燭が何個も何百も何千も置いてあり、それがメラメラと燃えていた。


 「人間の寿命さ、これが」


 「人間の寿命??これが??」


 一番近くにあった蝋燭、それはとても短く、もう消えかけであった。


 「そりゃアンタを婚約破棄したあいつの寿命さ」


 あのブヨブヨの寿命……へ〜。

 唇を尖らせて、冷たい息を吹きかけた。


 「あ、消えた」


 「はぁ!?え、えぇ?お前、お前クズ過ぎねぇか」


 「まぁいい。とにかく、あれ見てんだろ、あれ」


 ひときわ小さく縮んだ蝋燭。もう消えかけてるじゃないか。


 「あれはお前の寿命さ」


 「えぇ!?なんで、知りませんでしたよそんなの。どうにか助ける方法って……」


 「あぁ、他人の蝋燭を吹き消して……」


 手の届く範囲で一番長い蝋燭を手に取って、火を吹き消した。


 「まじぃ?えっと、んじゃその、その蝋燭にお前の蝋燭の火を移せ。そしたらお前は助かる」


 慎重に慎重に、吹き消した蝋燭を僅かに燃えている火を近付けた。


 「慎重にやらねぇと、消えるぞ」


 「わかってますって!!」


 汗が眼に滲んで痛い。だけどこのままなら……あ……


 「落とした蝋燭は使えねぇよ」


 「黙って、黙って!!死にたくないの、私」


 適当に蝋燭を手に取ってふっと息を吹きかけて火を消した。


 「はぁ……はぁ……」


 震える手、落ちる汗。小さく小さくなる火。


 「気をつけろよ、気をつけろよ、消えるぞぉ?」


 「静かにして!!私を殺したいの!??」


 「ほぉら、消えた」


 

というわけで落語死神がモデルです。夏近いので短編ってことで

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