瑠璃色のドラゴン
この世界はドラゴンの庭ほどしかない。
はるかな山々、広大な草原、巨大な街。
そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。
世界は、ドラゴンの庭なのだ。
これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。
「愛しています。私と生涯を共にしてください」
大陸の西の山に住む瑠璃色のドラゴン。
人より長い時を生きているけれど、ドラゴンとしてはまだ若い、美しいドラゴン。
退屈な毎日のなか、偶然手に入れた人間の本に興味を抱き、人の言葉を覚えました。
近くの村や街から書物を持ってきて、暗い洞窟に差し込む光の中で彼には小さすぎる本のページを鋭い爪で器用にめくって熱心に、読みふけました。
運命の人
ドラゴンの住む山にやってきた少女を一目見て、瑠璃色のドラゴンは確信しました。
美しい少女の、さらに美しい、瑠璃色の瞳に瑠璃色のドラゴンはすっかり魅了されてしまいました。
その日から、瑠璃色のドラゴンは少女に愛を伝えます。
毎日、毎日、伝えます。
それはまさに、本にあった愛の物語。
彼は今や、その主人公。
本に書いてあった甘い言葉。
そのすべてを少女に捧げます。
必死に、一生懸命に。
この気持ちがいつか伝わると信じて。
少女は、ドラゴンを恐れているようでした。
ドラゴンを見る少女の目はとても怯えていて、小さな肩は震えています。
無理もありません。
人にとってドラゴンは、神ともいえる存在なのだから。
瑠璃色のドラゴンはそれを理解していました。
でもあきらめずに接していれば、いつか心を開いてくれる。
そう、信じていました。
瑠璃色のドラゴンは心から少女を愛していたのです。
この想いはきっと通じる。
そう、信じていました。
信じて、信じて、少女につくし、愛をささやきました。
でも、少女の心を得ることはできません。
それどころか、どこか軽蔑したような目で見てくるのです。
その目が、嫌でした。
その目が、不快でした。
腹が、立ちました。
こんなに尽くしているのに、なぜそんな目を向けるの?
少女の目は虚ろです。でもその奥にあるのは嫌悪と、軽蔑。
瑠璃色のドラゴンは、その目に耐えられなくなりました。
絶望と、そして、それは怒りに変わりました。
鋭い牙が乱雑に並び、生臭い息を吐く真っ赤な口が少女を飲み込む瞬間、少女はその背の向こうに積み上げられた骸のひとつに手を伸ばし、まだ赤茶色の髪の残るしゃれこうべの髪をするりとなでて、微笑みました。
「やっと、あなたのもとへ―――」
瑠璃色のドラゴンが焦がれた少女の微笑みは大きな口に隠されて、瑠璃色のドラゴンが見ることはできませんでした。
瑠璃色のドラゴンは、少女を本当に愛していたのでしょうか。
ドラゴンは、人を愛することができるのでしょうか。
その答えはまだ、見つかっていない。




