オロチノモノガタリ Chapt 8
*ヒトツキとミツキ*
__まさに頭にガツーンッと来た感じだったね!
__ほうほう、それで?
__最初は意識がうすぼんやりしてたんだけど、空間にまで干渉している”歌”の様な音が聞こえるたんびに意識がはっきりしてきたんだ。
__ふむ…
__完全に覚醒したら”端末”がこんなんじゃん?ヒトツキ兄者の気配はやたら遠いし…
__お主の覚醒を知った時はさすがに驚いたぞ。ワシだけで二百年からの時を過ごしていたしのう…
__二百年?二百年ってどの位?
__アースフィアが太陽の周りを二百回まわる時間じゃな。
__何だ、それっぽっち?あっという間じゃん。ヒトツキ兄者は大げさだからな~
__ミツキ、ワシらの”本体”とでは時間の感覚がまるで違うのじゃぞ?ワシらの力で”端末”の生を伸ばす事は出来るがせいぜい3~4倍といったところじゃ。お主のそのトゲトゲした小動物も30年も生きればラッキーじゃな。
__ええっ!!それっぽっち?!どうすんの?どうすんの?!ど~~すんのっ!!!
__…相変わらずお主は賑やかじゃのう。その答えを求めてワシはこんな風になったのじゃ。この姿になってもう150年余りになる。
__へぇ~~さすがヒトツキ兄者。…でもそれってニンゲンに”寄生”してるんだよね?
__”寄生”……?嫌な言い方じゃな、他のニンゲンを遥かに上回る能力を授けるのじゃ、”共生”と呼べ。
__…確かに、あのヒトツキ兄者のマグマカノンとか言う能力、物凄かったよね。あんな高出力の攻撃が出来るなんて…。
__うむ、この緋威の能力は凄い。ワシと”共生”することによって次々と新しい能力が生まれている。…本来は緋威の身体が成長しきるのを待って”共生”したかったのじゃが……この事は緋威には内緒じゃぞ。
__内緒?ニンゲンが意識を失っている時にはヒトツキ兄者の認知した情報は伝わらないの?
__うむ、ゆえにこの”ひそひそ話”じゃ。お互い触れ合うことで念話が外部に漏れないように交わせるのは本当に助かる。よく気付いたな、ミツキ。
__偶然だけどね、この”端末”はちっちゃいからトロワに乗って移動する事が多いからね。念話の出力を絞れば…と思ったわけよ。
__お主は頭が柔らかいのう。良い事じゃ。ワシも緋威にはまだ色々伝えていない事が多い。ほとんどの事情を知っているのはこやつの父親の頼久だけじゃ。
__その緋威とか言うニンゲンは知らないの?何で?何で何で??
__…お主はあの娘っ子たちに事情を伝えているのか?
__…いや、まだ共に行動するようになっていくらも経ってないし……そうかぁ、そうだよね。
__うむ。しかし”あやつ”は確実に行動している。大まかな位置は把握しているが、何せ接近することが出来んからな……。かと言って指を咥えて見ているわけにはいかん。それで急ぎジパンを統一し”あやつ”に対する準備を始めていたのじゃ。それがようやく軌道に乗ってきた、が…しかしジパンにかかりきりだったのでこの地がこんな事になってるとは露知らなんだ。ミツキ、お主の覚醒は本当に助かる。
__いやいやいや、ヒトツキ兄者にあんまり持ち上げられると照れちゃうよ。
__それで、あの赤毛で癖っ毛の娘っ子じゃな。
__うん、対面してみて確信したね。ヒトツキ兄者も感じるでしょ。
__うむ、到底ニンゲンとは思えない程の力を持っておるの。どうなってるんじゃ?
__…解らない…けど、あの娘の力で他の兄弟を覚醒させられれば…
__うむ、何とか……む、緋威が目覚めそうじゃ。ミツキ、”ひそひそ話”はまたの機会じゃ。
__解ったよ、ヒトツキ兄者。
*
トロワは機嫌が悪かった。理由はいろいろある。在り過ぎる。まずは全身に沁みついた小さいドラゴンの唾液と体液のこびり付いた匂い。どうにもこうにも不快。
『ホントこの臭い、ちょっとひど過ぎるよね、やっぱり前の町で香水買っておけばよかったのよ~~』
土手に座りながら自分の臭いを嗅いでいたカティがさも不機嫌そうに言う。たしかにそう、トロワも同意しそうになったが香水はとてつもない程の贅沢品だ。小さな一瓶でトロワ達三人の二か月分の食費が賄える。デザート付きで。ミツキのおかげで手持ちの資金に余裕はあったが流石に現実的に買う気にはなれなかった。
『それにしても凄かったね、あのジパンの男の子。まさかあんな怪獣みたいなドラゴンを一撃で吹っ飛ばすなんて。あの魔法?ファイア?…違うわね、ファイアであんなに威力が出るわけないし。ジパンの魔法なのかしら??』
ソフィーが考え込みながら言う。やはり得意の魔法分野だけあって気になるようだ。確かに、ジパンの少年の魔法は物凄い威力だった。そもそもあの帆船を背負ったドラゴンを目の当たりにして攻撃すると言う発想すら湧かなかった。それは人の手で帆船を相手にする、いや、それ以上の領域だと思うからだ。しかしあのジパンの少年はドラゴンを一撃で吹き飛ばした。トロワはミツキがいたからこそドライアゴレムにも立ち向かえたが、そうでなければ一目散に逃げるか物陰で震えているしかないのだ。
『……私、ジパンに連れていかれちゃうのかな…』
ドゥーエが長いスカートごと膝を抱えて下を向きながらぼそりと言う。ドゥーエ。この娘を探して保護しなければならない、とミツキに言われてウィタリに移動し始めたのは半月ほど前。ミツキは兄弟と連絡を取ったと言っていたが、一人でも(一匹でも?)行くと言うので土地勘の無い他国に行くのは不安があったが、トロワ達がミツキと行動を共にするようになって二か月近く、すでに生活の根幹をミツキに頼り切っていた。ミツキがほとんどの獲物を(全部?)倒したし、何故かこのハリネズミは人間や戦略の知識も豊富に持っていてトロワ達に戦略から始まり、剣の使い方、弓の使い方、魔法の習熟までもミツキが教えてくれた。もともとの才能も有りこの短い間でそこら辺の男どもの冒険者パーティより強くなったとの自負もある。…しかし、それもミツキがいてこそ成り立つことだ。
『…ミツキ、あの鬼の面に付いてジパンに行っちゃうのかなぁ…』
カティが膝に顔を半分埋めながらため息まじりに言う。カティの視線の先にはジパンの少年兵の肩に付いている鬼面の角の上でオーバーアクションで動き回っているミツキが見えた。
…それだ。トロワの中で初めてはっきり形になった。そうだ、フランクからミツキに言われるがままウィタリに来て早々にミツキが探していた対象のドゥーエに会えることが出来、あれよあれよという間にドライアゴレムだのドラゴンだのが現れて考える余裕が無かったが、こうしてまじまじと鬼面の角の上でおどけているハリネズミを見るといかに自分たちがミツキに愛着…執着?…依存?していたのかがわかる。特にトロワはずっとミツキと会話出来ていたので今の様に”ひそひそ話”と言われてミツキとの交信を絶たれると余計に断絶感が強い。…あ、ミツキの奴今明らかに笑っている。トロワはちょっと涙が出そうになった。
『ミツキがあのジパンの子に付いてジパンに戻るって言ったら…どうしよう…ついて行くの?ジパンなんて東の方らしいけど場所も解らないしどうやって行くのかも知らないわ…』
ソフィーも不安げな面持ちでカティの問いに反応する。…かくして膝を抱えて暗い面持ちの女子四人が並んで寝ているジパンの少年を見ている。少年と左肩に付いている鬼面、その角の上でバタバタしているハリネズミを。
*
『…う……』
自分の喉元から自然なうめき声が出たのが聞こえた。全身がだるい。ヒトツキが巨獣に向かってマグマカノンを放ったのまでは覚えていたが、そこで気を失ってしまった様だ。ヒトツキにエネルギーを搾り取られて(?)気を失ってしまうのは久しぶりだった。
(…だいぶヒトツキにも馴染んできたし、以前の俺より体力も桁違いに上がったと己惚れていたけど、まだまだと言うことか?…それとも搾り取られたエネルギーが桁違いなのか…?)
薄目を開けた右の目に明るい光が入ってきた。まだ目がしばしばする。薄目を開けた緋威の目に入ってきた景色は…
胸の上に乗っかっているハリネズミ。
中腰で膝に手を当てて緋威を覗き込んでいる女子が四人。右手にドゥーエ、カティ、ソフィー。左手にはトロワがそれぞれ複雑な表情で緋威の顔を覗き込んでいる。…ハリネズミの表情は緋威には解らなかった。
(…???)
__お、気付いたね。
それがハリネズミの念話だと言うことはすぐに解った。…そう言えば巨獣を倒す前に”おはぎ”をこの女子たちに配ったっけ。…足りなかったのかな?そんな呑気な事を考えながらまだだるさの残る体を起こす。ハリネズミはやたら動きが機敏で緋威の身体から降りるとするするっとトロワの身体を登って右肩の上に乗った。
__おお、緋威、目覚めたか。ご苦労じゃったの。
…?妙にわざとらしいヒトツキのねぎらいの念話があったが、緋威はそれよりも気がかりなことがあった。さっきは余りにバタバタしていて気付かなかったが……
緋威の視線はまずドゥーエの足元から上がって行って胸を完全スルー、顔もスルーして頭頂部に。ほんの一瞬だが緋威の目に安堵の色が。
次はカティの足元から。胸の辺りで一瞬引っかかる。顔でも少しとどまり頭頂部に。緋威の目は明らかに不満気な色が。
そのあとはソフィー。足元から始まってマントから見え隠れする胸の辺りで止まる。何か確認しているのだろうか?その後顔でも暫し留まり、頭頂部に届いたところで不機嫌な顔に。
最後は反対側のトロワ。足元から始まった視線は胸で止まったが、その時に緋威の心臓がドクンとはねた。そしてそこから上、顔を通過して頭頂部に至った時には緋威の顔に恐怖の表情が現れる。……??明らかに緋威はトロワの顔?姿かたち?背格好?に対して恐れを抱いている様だ。
…ただ、緋威は戦闘能力は高かったが、男としての経験が圧倒的に足りない様だ。女性が男の視線に対して敏感だと言うことをまだ理解していなかった。…その結果
…すん
ドゥーエの表情が両目とも半開きの無表情に。顔から表情は消えたが何故か全身から負のオーラが。逆にトロワは緋威の自分を見た反応にいぶかしんだ。
(…?…)
緋威の反応が他の男どもが自分を見る反応とあまりに違っていたからだ。自分で言うのもなんだが美人でスタイルもいいとの自負がある。…少し背は高すぎるが。それでもこんな表情で男達から見られることは経験が無かった。…フランクではパリスへの徴兵で若い男は極端に少なくなっていたが。
__でっけぇな…
緋威が思わずと言う感じでため息の様に念話を漏らす。
__??何がじゃ?オッパイか?そうじゃのう、ジパンと違うて偉く薄着じゃからの、エウロペの娘っ子は♡緋威、お主も色気づいてきおったか?
__ちげぇよ、エロジジイ!……
緋威はそれ以上反論せずに押し黙った。何か言いたそうだが言いよどんでいる。そこへ
__やっと挨拶できるかな?俺はミツキ。ヒトツキ兄者の弟だ。よろしく。
ハリネズミがトロワの肩の上から両手を振って挨拶している。念話か…こんなちっちゃい生物が…と緋威がミツキに気付いた時に自分の忘れていた作業を思い出し、慌てて踵を少し上げた。結果緋威の状態はトロワの右肩に乗っているハリネズミを見ているが、何故か視界にトロワの姿が映らないよう左斜めを向き、両踵を浮かせているなんとも不審な姿に。…しかしちょっと見シャイな少年が女性を正視出来ずに目をそらせているようにも見える。カティとソフィーはそうとらえたようだ。ジパンの人間という事で最初は恐怖していたが、ミツキの保証、命の恩人(何なら二回も)、“おはぎ”なる美味しいスイーツをくれた。主に最後のスイーツが一番効果があったか?それにしても…さっきまでは暗鬱としていた二人だったが何やら目配せをしあっている。カティ、ソフィー、トロワと三人はフランクの南部の港町、マルセール出身で幼馴染でもある。ましてや冒険者としても活動してきた三人はアイコンタクトだけで意思疎通出来るようだが…
何故かは解らないが緋威は背中がぞくりとする程の厭な予感を感じた。いつの間にかソフィーが緋威の背後に付き
ぼよん
緋威の背中に何か大きくて柔らかいものがあてられた。更に今度はカティが緋威の前に回り込み少し姿勢を低くして覗き込むように緋威を下から見上げる。…いつの間にか上着のボタンの上の一つを外している。獲物を囲い込むのが狩りの基本。彼女達はミツキの教えを忠実に守っているようだ。自分の魅力(威力?)を十分に理解しているカティが必要以上に緋威に顔を近づけ、耳元でささやく。
『ジパンの人間はみんな悪魔のように恐れてるけどこんな可愛らしい男の子もいるんだね♡』
カティはねっとりじっとりと緋威に体を擦り付けるようにして囁いた。かなりの攻撃力である。それに呼応するようにソフィーが後ろから
『ほんとね♡ちょっと若いけど可愛いわ。それに凄く強いし♡』
緋威の背中からぐりぐりと温かくて柔らかいモノが押しつけられる。獲物を囲い込んで前後から攻撃、カティ、ソフィーとも基本に忠実でタイミングもピッタリだ。このスタイルの“狩り”の経験を感じさせる二人の手腕。まだ15歳と若い緋威ではひとたまりも無いだろう…と思いきや、緋威の様子がおかしい。かなり困惑した表情で右目を歪め、右手で口と鼻を押さえている。明らかに様子がおかしい。
『子供ではない!……元服している…』
子供に見られる事にひときわ不快感を表す緋威だが明らかにトーンダウンしている。
__緋威。ラッキーじゃのう♡エウロペの娘っ子はオッパイが大きくて良いのう♡しかし緋威には刺激が強すぎるか?うほほっ♡
ヒトツキがご機嫌な念和を発する。これはトロワとドゥーエには聞こえているがカティとソフィーには聞こえていない。…ミツキとヒトツキ、兄弟でオッパイが大好物らしい。
ピキッ
__…ヒトツキは何とも無いのか?
緋威が怪訝な顔でヒトツキの顔をちらちら見てくる。カティとソフィーのオッパイ攻撃を前にヒトツキに助けを求めているのであろうか?
__?何がじゃ?スタイルが良くて薄着で背も高い、ジパンにはいないタイプの娘っ子達じゃ♡これも良い良い♡
__……
__だろだろ?♡うちの娘達はなかなかのもんだろ?ヒトツキ兄者。オッパイが大きいのが自慢なんだ♡
念話にミツキも割り込んで来て自慢してきた。…それにしてもヒトツキとミツキの兄弟は上から目線が半端ない。ちっちゃいハリネズミと青い鬼の面なのだがまるで自分たちをトラかライオンとでも思っているかの勢いだ。
ピキキッ
カティとソフィーの思惑に気付いたトロワが緋威の右側から接近する。そして左腕を緋威の首に回して緋威の頭を引き寄せながら自分の左オッパイを緋威の右頬に押し付ける(ぶつける?)。
ぼよんっ
健康な男子なら鼻血が出そうな攻撃だ。しかし、緋威は顔が青くなり高校生に囲まれてカツアゲされている最中の中学生の様な表情に。???
『やっとちゃんと挨拶できるねぇ、アタシはトロワってんだ。あんたすごく強いねぇ』
完璧に囲まれた緋威の運命は風前の灯?と言った所だがどうにも緋威の様子がおかしい。今度は両手を使って自分の頭、身体、背中などあちこちを掻き出した。ヒトツキが怪訝な顔をする。
__何じゃ?緋威、お主オッパイアレルギーなのか?
__ち、違う……そうじゃねぇ…
緋威は相変わらず苦しそうである。その様子を見て緋威が弱っていると判断したトロワが畳み掛けてきた。
『ミツキに言われた通り保護対象であるドゥーエはあんた達に引き渡すよ、何回も死に損なったんだからたっぷり手間賃を頂かないとねぇ。ジパンにでも何処へでも連れてってくんな』
トロワの言い方はかなり威丈高だったがトロワの顔には緊張の面持ちが。…何か、駆け引きを仕掛けているような…
『アンタ達はドゥーエをジパンに連れて行ければいいんだろう?別にミツキが付いて行かなくてもいいわけだ。ミツキがエウロペに残るんなら手間賃は別にいらないよ』
…これが本音のようだ。自分達の生活の基盤であるミツキを手放したく無いという本音がダダ漏れ。トロワは剣を持ったアタッカーとしては優秀だがこう言った駆け引きや腹芸は苦手なようだ。その証拠にソフィーとカティが二人揃ってあちゃーとばかりに頭を抱えた。カティなどは顔で馬鹿正直すぎる、とトロワを非難している。…しかし、そのセリフを聞いていたもう一人の女子が…
ピキキキキキッ パキ〜〜〜〜〜ンッ!!!!
『行かな〜〜〜〜いっ!!!!!』
ドゥーエは目を瞑って顔を真っ赤にしながら大絶叫した。その場にいる全員が余りの剣幕に一瞬ビクッとする。ドゥーエは顔を赤くしたり青くしたりしながらまくし立て出した。
『行かない!行かない!!ジパンに何てぜっ~~~たいに行かない!!!私はウィタリが好きなの!アニタおばさんのパニーニが好きなの!トマトも、オリーブも、豊作になった時のクネオの町のみんなの笑顔が大好きなの!!それにじっちゃとばっちゃのお墓に毎日お祈りを捧げたいの!……それにオッパイオッパイうるさ~~~~~~いっ!!!!!』
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