きらきらなせかい
よく晴れたある日のことです。
ひとりぼっちで空を飛んでいた小鳥は、きれいな花がたくさん咲いているお庭を見つけました。
そのお庭はとてもすてきだったので、小鳥はもっとよく見てみたいと思い、ここで少し休むことにしました。
小鳥はお庭の真ん中に、だれかいることに気づきます。
こんなにきれいなお庭ですから、ほかにも休んでいる仲間がいるのかもしれません。
だれがいるのか気になった小鳥はお庭の真ん中に行ってみることにしました。
そこにいたのは、女の子と男の子でした。二人の背中には、まっしろな大きな羽根がはえています。
かみの毛の色も雪をかぶったようにまっしろです。
二人は、きれいな白い花畑の中で退屈そうに寄りそっていました。
小鳥はこっそりと二人に近づきましたが、女の子のほうに気づかれてしまいます。
「ふふ、こんにちは。めずらしいお客さんだね」
「……おまえ、どこから入ってきたんだ? ここはおれたちの庭だぞ」
男の子は、こわい目でじっと小鳥を見つめました。
その目は、黄金の色をしています。
となりの女の子の目は、白銀色でした。二人の目はきらきらしていて、まるで宝石みたいです。
小鳥は、勇気を出して二人にあいさつをしました。
「はじめまして。勝手に入ってごめんなさい。とてもきれいなお庭だったから、近くで見てみたかったんだ」
「そうだったんだね。謝らなくても大丈夫。たくさん見ていいよ」
「わぁ、ほんとに? ありがとう!」
喜ぶ小鳥を見ると、女の子は銀色の目を細めて、やさしくほほ笑みました。
ですが、男の子のほうは怒った顔をしていました。
「ふん。姉さんが許したからって、調子に乗るなよ」
「そんな……調子になんて乗ってないよ。ところで、きみたちはここでなにをしているの?」
小鳥が二人にたずねると、女の子は少し悲しそうな顔になってしまいます。
「ひなたぼっこ、かな」
「そうなんだ。今日はあたたかいもんね。でも、もっと楽しいことをしたらいいのに」
「……わたしたちはね、ここから出られないの。だから、外の世界のことはなにも知らないんだ」
「それじゃあ、きみたちは青くて広い海も、てっぺんが白い大きな山も見たことないの?」
小鳥がもういちど二人にたずねると、男の子はくやしそうな顔をしました。
「ああ、そうだよ。おれたちは、すごい人の“宝物”だから、傷がつかないようにずっとここに閉じこめられているんだ」
それを聞いた小鳥は、なぜだか胸がチクリと痛くなりました。
二人には、空を飛べる大きな羽根も、立って歩ける足もあります。
それなのに、どうしてずっとここにいるのか、小鳥はもういちどだけ、たずねようとしました。
ですが、二人の足にとても重そうな鉄の球がつながれているのを見て、たずねるのをやめました。
小鳥は自由に飛ぶことができます。行きたい場所に行って、見たいものを見る。それが当たり前でした。
けれど、目の前の二人は、こんなに大きな羽根を持っているのに、空を飛ぶことさえ許されていないのです。
「ねえ、小鳥さん。外の世界には“きらきら”したものがたくさんあるって、本当?」
「きらきら? それって、お金とか、宝石のこと?」
「ううん、ちがうの。もちろん、お金や宝石もきらきらしてるんだけど……
わたしたちはね、朝日をあびてガラスみたいにかがやく波打ち際とか、雨でぬれた石だたみに映る街角とか、宝石を散りばめたみたいな夜の遊園地とか……いろんなものを、本でしか見たことがないの。だから、いつか本物の“きらきら”をこの目で見てみたいんだ」
そう話す女の子の目は、どんな“きらきら”よりもかがやいて見えました。
その目を見て、小鳥はじっとしていられない気持ちになります。
「そうなんだね。それなら……二人が見たことのない“きらきら”を、ぼくが持ってくるよ!」
女の子が一生かなわない夢物語のように話した、ありふれた景色を少しでも見せてあげたいと思ったのでした。
それからというもの、小鳥は毎日、その小さな羽根でいろいろな場所を飛び回りました。
女の子のために、“きらきら”を探すことにしたのです。
一日目。小鳥は静かな森で、小さな星みたいに光る“朝つゆ”をビンに入れました。それはやさしい風がふくときらきらゆれて、まるで星がまたたいているみたいに見えました。
お庭へ持っていくと、女の子は目を丸くして喜びました。
「わあ、冷たくてきれい……! これが朝の色なんだね」
男の子も横からのぞきこんで「……悪くないな」とつぶやきました。
二日目。小鳥は波打ち際で、太陽の光を青色にはね返す“シーグラス”を拾いました。それは遠い海からやってきたガラスの宝物です。
小鳥が「これは海の宝石なんだ」と渡すと、女の子はそれを光にかざして、うっとりとながめました。
「海の色を集めた結晶みたい。光に透かすと小鳥さんの羽根の色みたいになるね」
女の子がそう言って笑うと、小鳥は急に顔が熱くなって、思わずそっぽを向いてしまいました。
三日目、小鳥は“金色のコイン”を手に入れました。それは月の光を集めて、街の雑踏でそっと光る満月みたいでした。
小鳥が「これは大人の遊び場のきらきらだ」と得意げに見せると、男の子が鼻で笑いました。
「なんだよ、ただの金ピカじゃないか。めずらしくもない」
「もう、そんなこと言わないの。小鳥さんが一生懸命、探してくれたんだもん。大事な宝物だよ」
小鳥が運んでくる“きらきら”のおかげで、お庭は少しずつにぎやかになっていきました。
女の子の笑顔が増えると、男の子も楽しそうにします。
小鳥にとっても、この不思議な時間がとても大切なものになっていました。
ですが、そんな楽しい時間は長くは続きませんでした。
ある夜のこと。小鳥は“きらきら”を見つけるのがいつもよりおそくなってしまい、急いでお庭に向かいます。
小鳥がいつもの白い花畑にたどり着くと、そこには知らない人がいました。
それは女の子と男の子をこのお庭に閉じ込めている張本人の男でした。
男は、閉じている扇で手のひらをたたきながら、ニヤニヤと笑っています。
「最近、おれさまの大事な宝石箱にガラクタを持ちこむやつがいて困ってるんだ」
男は、小鳥が集めた朝つゆのビンやシーグラスを、つまらなそうに足で転がしました。
女の子は青ざめた顔で縮こまって、男の子はそんな女の子を守るようにしています。
「おまえに言っているんだぞ。この子たちに似合わないガラクタを持ってくるのはやめろ、この悪い鳥が」
「……ガラクタじゃない。それは、ぼくがあの子たちに見せたかった“きらきら”だ!」
……こわい。小鳥はこわくて体がふるえそうになります。
ですが、女の子が“きらきら”を見て笑った顔を思い出して勇気を振りしぼります。
それでも、小鳥がこわがっていることなんてお見通しだと言うように、男は意地悪な目を細めて、楽しそうに笑いました。
「ハハッ! 健気なことだねぇ。でも、残念だったな。本物の“きらきら”は、そんなゴミの中にはないんだよ」
男は小鳥を追いはらおうと、手に持っていた扇を大きく振り上げます。
そして一歩ふみ出した、その時です。
地面に転がっていた朝つゆのビンとシーグラスに、雲のすき間から射しこんだ月の光が当たりました。
ガラスと水に反射した光が、男の目にまっすぐにつきささります。
「うっ、まぶしい!」
男は思わず目を閉じ、ひるみました。
“きらきら”は宝石箱の中だけにあるんじゃない。
そう証明するように、光が小鳥たちの味方をしてくれたのです。
「小鳥! 扇だ! そいつが持ってる扇に、おれたちの足かせのカギをかくしているはずだ!」
男の子が、小鳥に向かって必死にさけびます。
小鳥は考えるよりも先に飛び出すと、目がくらんで手からすべり落ちそうになっていた扇を、男からうばい取りました。
「あっ、こら! 返せ!」
男が体勢を立て直すよりも早く、小鳥は女の子と男の子の足元へ急降下します。
男の子は「よくやった」とニヤリと笑って、小鳥から扇を受け取ると、乱暴に広げてこわしました。
扇の柄がくだけて、中から転がり落ちたカギを女の子がすかさず拾い上げます。
カチリ、カチリと音が鳴ると、重たい鉄の球が外れて、二人の足は自由になりました。
「二人とも、行こう! 飛ぶんだ! 羽根がないこの人は空には追って来られない!」
「逃がすか! おまえたちは一生、おれさまの宝物なんだよ!」
おそろしい手が女の子に届きそうになった瞬間、男の子が姉の手を強く引きました。
「行くぞ、姉さん! こんなやつにつかまってたまるか!」
男の子が地面を強く蹴りました。すると、背中の大きな白い羽根がバサリと広がり、風をつかみます。
女の子もつられるように羽根を広げました。
二人の体が、ふわりと空へ浮かびます。
男の手は空を切り、ぶざまに地面へとしりもちをつきました。
小鳥と、男の子と、女の子。一羽と二人は風に乗って、ぐんぐんと空高く舞い上がっていきます。
「ま、待て! おれさまの宝物が……!」
地上でわめく男の声は、もう風の音にかき消されて聞こえません。
男は空に手が届かないことを知って、ただ歯ぎしりをしながら暗い庭に一人取り残されました。
小鳥は二人を先導して、お庭の壁をこえ、森を抜け、雲の上まで飛び続けます。
やがて、目の前に広がるのは、女の子が夢見ていた景色でした。
太陽の光をあびて、数えきれない宝石をばらまいたようにきらめく青い海。雨上がりの街にかかる、七色の虹。遠くの山々の頂には、白い雪が銀色に輝いています。
「……すごいな」
男の子が息をのみました。
満面の笑みをうかべる女の子からあふれ出した涙は、風が連れ去ります。
「ねえ、見て! 世界は、こんなに“きらきら”してたんだね!」
外の世界を映す二人の目は、どんな宝石よりも、かがやいていました。
朝つゆも、ガラスも、コインも、たしかにきれいです。
でも、小鳥は思いました。
自由な空を飛んで笑っている二人の笑顔こそが、世界で一番の“きらきら”なのだと。
「ありがとう、小鳥さん。あなたが連れ出してくれなかったら、こんなにもきれいな世界を、わたしたちはずっと知らないままだった」
「……ふん。さっきの勇気だけは見直してやるよ」
男の子は照れくさそうにそっぽを向きましたが、その手はしっかりと女の子の手をにぎっています。
その日から一羽と二人は、世界中の“きらきら”を見つける旅に出ました。
もう、だれにも閉じこめられることはありません。自由な空の下で、ずっといっしょです。
おしまい




