常識知らずな自分
王族に相談する相談女ってありえないと思ったので
「マリウス殿下……」
しくしくと涙を浮かべながら知らない女子生徒が声を掛けてくる。知らない女子生徒だよねと後ろに控えている側近に視線を向けると側近はすぐに、
「メイディア男爵の令嬢。ユリアンヌ嬢ですね」
とそっと教えてくれる。
そんな知らない令嬢がいきなり声を掛けてくるのを不気味に思ってしまうが、かなり近づいてくるのを側近がそっと前に立って防いでくれたからよかった。
「マリウス殿下……聞いてください……貴方の婚約者のホリーさまのことで……」
「ホリーの? 何のことかな」
側近を挟んだまま尋ねるとユリアンヌ嬢とやらはちらりと側近に向かって意味深に視線を向ける。
「あの……殿下……」
「何?」
意味深な視線を向けるが、意味が理解できなかったのでそのままでいると、困ったように何か言おうとしているが結局何も言わないで察しろという雰囲気を出すので困ったように首を傾げる。
「あの……内密な話なので……」
「内密の話?」
「あ…あの……だから……二人に……」
おずおずと告げてくるが、なんで二人になる必要があるのだろうか。
「エリオットは私の側近だから常に傍にいる。それに君とは初対面だろう。知らない人と二人だけになる意味が理解できない」
護衛が困るだろうし、エリオットは私の信頼できる存在。彼を外して内密な話などありえない。
「エリオットがいると話せない話なのか」
「いえ……あの、ホリーさまがあたしに酷いことを……」
と、教科書を捨てられたとか、階段から突き飛ばされたとか。
「それはいつ? 日にちは? 時間は?」
「えっと……」
ユリアンヌ嬢の告げた日付を聞いて、その日は確か……と思い返しつつ、念のためにエリオットの方を見て、
「エリオットその日は」
「ホリーさまは10時に王城で王太子妃教育。午後から学園ですね」
「そうっ!! その時間で……」
勢い込んで告げてくるが、
「午後ホリーと合流していたけど、ホリーと別行動していなかったよね」
「はい。殿下は馬車が見えると同時に迎えに行き、そのままエスコートをなさっていました」
エリオットに確認して自分の記憶が間違っていないと頷く。
「それでいつ、ホリーが君に何かをすることが出来るのだろうか? 後、なんで君相手にホリーが? わざわざ?」
理解できないと首を傾げてしまう。
「だって、マリウス殿下はあたしを……」
ユリアンヌ嬢がぶつぶつと何かを言い掛けて……。
「おかしいわよ。だって、普通は相談を持ち掛けたら人払いするものでしょう。なんで側近だか何だか知らないけどずっといるのよ。というか抱き付こうとしたのも邪魔したし……」
爪を噛むという淑女としてなっていない行動をするユリアンヌ嬢を見て、ひとりの世界にいるのだからもう用はすんだのだろうとその場を後にする。
「ちょっとっ!! 何で去ろうとするのよ」
「なんで? 君相手にこれ以上時間を使う気が無いからだけど」
「なっ⁉」
「エリオット。父上が民に謁見する時間は?」
「5分から10分。それらすべて相手が長い行列に並んで必死に要望をしています」
王に直接言わないといけない内容も王がわざわざ聞かないでもいい内容もじっと聞いて解決策を考える。
彼女はその5分を過ぎているし、要領を得ない話ばかりだ。第一、側近を外せという時点でありえない。
「次はもっと整理して話をするように」
父上だったらもっといい言葉かけをするだろうがそれくらいしか浮かばなかった。
それにしても……。
「彼女は何がしたかったんだろうか?」
何一つ意味が分からなかった。
そのままエリオットを連れてホリーの待っている東屋に向かう。
「マリウスさま。どうかなさったのですか?」
侍女と共に待っていたホリーは私が変な顔をしていたのを察して尋ねてくるので先ほどの彼女の話をしてみると、
「ああ。最近はやりの小説ですね。――確か身分違いの恋とか」
博識なホリーがすぐに答えてくれるので、
「ああ。――では、あのご令嬢は小説の主役になり切って自分の演技を見てもらいたかったのだな」
では、きちんと演技の良い点と悪い点を伝えておけばよかったとつい言葉を漏らすと、ホリーとエリオット。そして、ホリーの侍女が微笑ましいものを見ているような雰囲気を放っている。
「ホリー。エリオット」
「――マリウスさまはこのままでいてください」
尋ねようと思ったけど、そんな風に言われてしまった。
よく分からないが、何か常識はずれなことをしてしまったような気がした。
天然でハニトラを撃退している。