第4話 救助
悲鳴が聞こえた方へ駆けつけた2人は、その光景に思わず立ち止まってしまった。2人の視線の先には、大量のモンスター達が小さな村を襲撃していたのだ。
「キャー!」
「た、助けてくれー!」
村人たちは突然のモンスター達の襲撃に混乱し、蜘蛛の子のように散っている。そして家から煙が上り始めた。
「そこの2人!」
突然バーブノウンとフィーダに声をかけられ、2人は我に返る。目の前には体中火傷をした男が立っていた。
「頼む! 俺の家の中にまだ妻と子どもがいるんだ。助けたくても助けられないんだ! お願いだ、助けてくれ!」
バーブノウンの前で男は泣き崩れた。それを見たバーブノウンはしゃがむと、
「わかりました。今からあなたの、いや、全員救いますよ!」
「ほ、本当か!?」
「えぇ! フィーダもそれでいいでしょ?」
フィーダはコクリと頷いた。
「行こうフィーダ!」
「うん!」
バーブノウンは立ち上がると、男に安全なところへ逃げてと伝え、燃え盛る村へと向かっていった。
◇◇◇
村の中心へ向かうと、そこには松明を持った大量のモンスターが家を荒らしていた。
「これって――――もしかしてハイゴブリン!?」
「うん、そうみたい」
ハイゴブリンとは、普通のゴブリンと違い、高い知能を持っているモンスター。非常にレアモンスターであるが、厄介な存在である。
早く取り残された村人たちを救助しなければならない。しかし、そこら中にはハイゴブリンがいる。
「困ったな、どうすれば……」
「バーブ」
「なに?」
「もうひとつ教えてあげる」
「――――?」
フィーダは手を前に出すと、掌に魔力が集まり始める。
『ラハド・アルジャヒム』
そう唱えると、集まった魔力は白く輝き始め、そのままハイゴブリンへ向けて放たれた。すると、ハイゴブリンはその魔法が当たった瞬間に激しく燃え始めた。そしてあっという間に灰と化してしまった。
「え、なにその魔法……」
またものすごい威力の魔法を見せつけられたバーブノウンは、また言葉を失ってしまった。
「バーブ、早くしないと」
「あ、うん。そうだね!」
普通ならその反応を楽しむフィーダだが、今はそんなことをしている場合ではない。今は人を助けることとハイゴブリンを処理することが優先だ。
「僕もやってみるよ!」
「ファイヤーボールよりもっと魔力を込めればできるから」
「うん!」
バーブノウンは手を前に出すと、掌に自分の魔力を集中させる。
(もっと、もっと火力を強く!)
さらに魔力を集中させると赤く燃え上がっていた炎が白の炎えと変わった。
『ラハド・アルジャヒム』!
詠唱とともに、掌に集めた白い炎はハイゴブリンへと放たれ、それが当たったハイゴブリンはあっという間に灰と化した。
「す、すごい……。できたよフィーダ! ――――あれ、フィーダ?」
周りを見渡してもフィーダの姿がない。
(ま、まさかハイゴブリン達に……)
「バーブ」
「うわぁ! びっくりした」
突然自分の隣に現れたフィーダに、バーブノウンは驚きのあまり尻もちをついた。
「わたしは中にいる人を助けるから、バーブはハイゴブリンたちをなんとかして」
「ぼ、僕だけで!?」
「バーブならできる。もしできないなら」
「できないなら?」
「バーブを跡形もないくらいにグチャグチャボコボコにするから」
「――――」
恐ろしい言葉にバーブノウンはサァッと顔が青くなるまあ冗談だけどという言葉を残すと、フィーダはシュンという音とともに一瞬でいなくなってしまった。
そしてフィーダがいなくなり、1人になったバーブノウンはというと……。
「ガ、ガンバロウ……」
ハイゴブリンを全滅させるまで、体をビクビクさせながら魔法を放ち続けたのだった。
◇◇◇
バーブノウンとフィーダは約1時間かけて、無事村人を救い出せることに成功したものの、家は全て焼け焦げてしまった。
「すいません、皆さんの大事な家を守れなくて」
バーブノウンは村人全員に向かって頭を下げ、謝罪した。家は家族にとって大事な財産。それを守れなかった自分は責められるかもしれないと思ったからだ。
「そなたのお名前は?」
そこに現れたのは老人だった。
「バーブノウンと申します」
「バーブノウンというのか。はじめまして、ワシはこの村の村長、ヤイイリスという」
「そ、村長ですか……。すいません僕のせいで――――」
「何を謝っているのじゃ?」
「え?」
予想のしていなかった反応に、バーブノウンは思わず聞き返した。ヤイイリス村長は杖をつきながらバーブノウンへとゆっくり歩み寄る。
「バーブノウンっと言ったかの?」
「はい」
「バーブノウンくん。君はここにいる人達を全員救ってくれた。そしてモンスター達を倒してくれたのじゃ。家よりも人の命のほうが大事じゃ」
「そうだよ!」
バーブノウンは頭を上げ、声が聞こえた方を見ると、そこにはさきほどバーブノウンに助けを求めた男とその妻、子どもがいた。
「村長の言うとおりだ。俺は家なんかよりも家族のほうが大事だ。家なんていつでも作れるんだからな」
男は笑い声を上げると、他の村人たちもそれにつられて笑い出した。
「バーブノウンくん、それと……」
「フィーダ。よろしくね」
「フィーダちゃんか。2人とも本当にありがとう」
アイイリス村長は2人に向かって頭を下げた。それにつられるように、他の村人たちも一斉に頭を下げた。
「「――――」」
この光景に、2人は胸が一杯になった。特にバーブノウンは、今までロレンスのパーティーでの思いもあり、涙をこらえていた。
「おふたりさんには、何かお礼になるものがあればいいのじゃが、村はこんな状態じゃ……」
「じゃあしばらくこの村に住んでもいい?」
「フィーダ!?」
「だって今のところ行く先ないでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「ここで村の護衛とかやりつつ、魔法の練習ができるから良いんじゃない?」
フィーダの意見にバーブノウンは顎に手を当てた。確かにフィーダの言う通り、人を守る、魔法の練習ができる、次の目的地が定まっていない、つまりこの村に留まることがメリットでしかなかった。
少し考えた挙げ句、バーブノウンの出した答えは、
「村長、しばらくここに住まわせてもらってもいいですか?」
その言葉に村長を含めた村人全員は、喜びの表情を浮かべた。
「もちろんじゃ! ようこそムスターヒ村へ! とは言っても一面焼け野原じゃがの。ふぉっふぉっふぉ」
「あはは……。僕たちも手伝います。これからよろしくお願いします、村長」
村長とバーブノウンはお互い握手を交わした。
村人たちは盛大な拍手で、バーブノウンとフィーダを迎え入れた。
「良かったねバーブ」
フィーダはバーブノウンの隣に歩み寄り、顔を覗き込んだ。
「うん、フィーダがいなかったら、こうなることは絶対になかったよ。だから―――ありがとうフィーダ。君に会えて良かった」
「――――うん」
バーブノウンに言われ、少し恥ずかしくなったフィーダはバーブノウンに見られないように俯いた。そして、少しだけ動悸が早まっていることにフィーダは気づいていたのであった。