第3話 バーブノウンの能力
銀竜。
この世界で最も希少な種族、且つ最強とも言われている。
数があまりにも少ないため、伝説上の種なのではないかとも言われ、様々な本で題材にされることも多い。
バーブノウンが今まで想像していた銀竜とは、銀色に光り輝く固い鱗に覆われ、咆哮し、口から火を吹いている生物だと思っていた。
しかし……。
「―――?」
目の前にいるのは人間と変わらない姿の少女だった。
想像とかけ離れていたことに、バーブノウンは本当に銀竜なのかとフィーダをジロジロと見渡す。
「バーブ、あまり女の子をジロジロ見すぎない方がいいよ」
「えっ、あ、ごめんね! って今僕のことなんて言った?」
「バーブって言ったよ。名前長いからこの方が呼びやすい」
その名前で呼ばれたのはバーブノウンが勇者パーティーに入る前、つまり生まれ故郷にいた時以来だった。
バーブノウンの心に温かいものが入り込んでいく。
「どうしたの? 早く行こう?」
「わかった」
バーブノウンはフィーダの所へ行き、2人は歩み出した。
◇◇◇
「バーブって何時も体調悪いの?」
「まぁそうだね。小さい頃からよく頭が痛くなって、高熱出る感じ。咳き込むことも多かったよ」
「ふぅーん……」
フィーダはもう気づいている。
バーブノウンに襲いかかる謎の病の正体、それは、
「バーブの魔力だね」
「は?」
フィーダの突拍子のない言葉に、バーブノウンは目を見開く。
「今も少し体調わるいでしょ?」
「そうだね、さっきよりはいいけど……」
「じゃあさ……」
フィーダはバーブノウンに向かって手を差し伸べる。
「わたしの手に触れてみて」
「う、うん」
バーブノウンは恐る恐るフィーダの手を触れる。
フィーダは目を瞑り、小声で何かを唱える。
すると、体の中で何かに引き付けられるような感覚に陥った。
「な、なんだこれ!」
「ふむふむ……。やっぱり予想通り」
フィーダは確信すると、バーブノウンから手を離した。
「フィーダ、今のは……」
「わたしがさっき言ったのを覚えてるよね」
「うん、僕の魔力に何かあるんだよね?」
「バーブはとってもとーっても魔力の量が多いの」
「ま、魔力が多い!? 僕が!?」
「うん、わたしみたいな銀竜に匹敵するくらい」
「なっ……」
信じられない言葉にバーブノウンは目をひん剥いて、口を大きく開けている。
ツッコミどころ満載な顔をしているが、フィーダは笑うこともツッコミも入れない。
「バーブの魔法スキルって何持ってる?」
「えっと……初級魔法は一通り出来るよ?」
「うーん……それじゃあダメだね」
「じゃあどうすればいいのかな……」
初級魔法がダメなら、その上の中級魔法あるいはそれ以上しかない。
ちなみに、この世界は初級魔法から超級魔法まである。
ただし、超級魔法は伝承しかなく本当にあるかは分からない。
大昔には超級魔法を扱う者がいたそうだが、信憑性に欠ける。
(中級魔法は良いとして、流石に上級魔法はなしでしょ)
「中級……それ以上いけるかも」
「―――はい?」
自分の考えを覆すような答えに思わずバーブノウンは聞き返した。
「じゃあさ、これやってみて」
「―――?」
フィーダは広く開けた草原に手をかざすと、
『エクスプロージョン』
ドゴォォォン!
「―――!?」
フィーダの詠唱とともに、細い光が見えた瞬間、草原から巨大な爆発が起こった。
そしてそれを受けた草原にはクレーターが出来ていた。
『エクスプロージョン』、それは上級に入る高等魔法だ。
「ふぅ……じゃあこれやって」
「えぇ!?」
突然フィーダに振られるバーブノウン。
驚くのも無理はない、上級魔法を見せられてすぐにこれをやれと言われたのだから。
初級魔法しか覚えていないバーブノウンにとっては無茶振りだ。
「―――」
不安になりながらも、バーブノウンはフィーダが魔法を放った草原を向く。
そして恐る恐る手を伸ばした。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、バーブなら行ける」
(ものすごい期待の眼差し!)
プレッシャーに押し潰れそうになるバーブノウンは意を決した。
「『エクスプロージョン』!」
ドゴォォォン!
「「―――!」」
バーブノウンの詠唱とともに巨大な爆発が起こる。
バーブノウンは驚きに目を見開き、言葉も出ない状態だった。
「おー、やっぱり凄いねー」
フィーダはバーブノウンを褒めて拍手を送っているが、送られている本人は未だ頭の整理が出来ていない。
「やっぱりバーブは魔法の才能があるね」
「こ、これ本当に起こったんだよね?」
「ほっぺ抓ったあげる」
「痛たたた! 抓らなくていいから!」
あまりの痛さに少々涙が出てしまったバーブノウンだが、とても嬉しかった。
まさか自分が上級魔法を扱えるなんて思わなかったからだ。
「ありがとうフィーダ」
「―――!」
「なんか……自信を持てるようになった気がするよ」
「ん……なら良かった」
フィーダはバーブノウンの表情が変わったことに気が付いた。
バーブノウンが言っていた通り、迷いがなく自信がみなぎったような……そんな表情だった。
「よし! じゃあ行こう」
「うん」
2人は再び歩き始めた、と思った瞬間、森のどこかから悲鳴が聞こえた。
「だ、誰かいるのかな?」
「行こうよバーブ」
「でも……」
「大丈夫、さっきので自身ついたんでしょ?」
フィーダの言葉はバーブノウンにとって、とても頼もしかった。
銀竜だからというのもあるが、自分を信じるきっかけを作ってくれたというのが大きかった。
バーブノウンはふっと笑うと、
「そうだね。行こうフィーダ!」
そして2人は悲鳴が聞こえた方へ駆けていった。