開店
この作品はノンフィクションです。
ある家電量販店でアルバイトをしていたときの話だ。
当時私は高校一年生、初めてのアルバイトでオープニングスタッフとして勤務していた。
オープニングスタッフの仕事は無論開店準備から始まるが、社員もパートもバタバタと忙しなくあちこちを歩き回っていたころで、管轄は曖昧な上に初のバイトだったこともあってどこに行けばいいのかと途方に暮れていた。
ある日はラミネート加工されたポップの切断をしたり、またある日は商品にセキュリティシールを張り付けたり、そんな内容だった。
その辺に歩いている人に話しかけて、仕事を貰う、そんな日々だった。
開店前で忙しかったので誰に話しかけても仕事はもらえた。
知らないうちに東日本側の社長に話しかけて仕事を貰っていたことなんかもあり、そのことを知ったときは大層驚いた記憶がある。
初々しいアルバイトが微笑ましかったのか皆とても優しかった。
開店直前、ある程度落ち着いたのか管理職の人から私はおもちゃコーナーに配属の折を伝えられた。
バタバタと忙しく動き回る社員に隙を見て話しかけると、暫くはバックヤードで商品の加工をしてほしいと言うことだった。
加工とは言っても低粘着テープを巻いてセキュリティシール、値札シールを貼るだけだが。
それから私は際限なく次々と増えるダンボールを一つずつ慣れない手つきで消化していった。
…社員さんがどんどん加工していく横で。
その社員さんは千葉にある店舗から派遣されたらしく、愚痴を垂れ流していた。
「ホテル暮らしでめちゃくちゃ暇なんだよね。経費で落ちるとはいえ帰りたいよねー。妻と息子を残して何でこんなところまで来てんだろ。」
「店舗からの出張もあるんですね。支部からだけだと思っていました。」
「あるんだよね。面倒なことに。」
互いの会話は消え、加工する音だけがそう広くないバックヤードに響き渡る。社員さんのその手は止まることなく一切の澱みもないままに加工を行っていた。
私は覚束ない手でどうすれば効率的に綺麗に巻けるかを思案していた。
手に持って巻くよりも机に押し付けるように巻くほうがいいな…低粘着テープはピンと張るように巻いた方が早く綺麗に巻けるな…など試行し、即座に取り入れる。
効率性と整然さを追求し、徐々に速度を増していく。
僅かな静寂に耐えきれなくなるように、社員の人が「最近なんかやってることないの?」と話を振ってくる。
一般的な世間話を続けられるような趣味は生憎持ち合わせていない。
プログラミング、心理学、現代文学、言語学、さてどれを選べば良いだろうか。
消去法で考えればプログラミングはまだマシな方だろう。
私は社員さんが理系大を出ていることに賭けて、プログラミングを選択した。
「…最近はプログラミングを勉強しています。」
「あーそうなんだ。俺もちょっとだけど大学の時にやったよ。」
「そうなんですね!因みに言語は何を学ばれたんですか?」
以降は専門的な会話が続いたため割愛させて頂く。
その日は特段珍しいことはなく、そのまま終わり、私もこのまま忙しくも平和なバイトが続くと思っていた。