ハナ2
「私を……弟子にしてください!!」
突然、土下座して弟子入りをお願いしてきた黒髪の和風美少女。
蓮は困惑のあまり、頬を引き攣った。
「……ちょっと待って。美少女に土下座されて、しかも弟子入り?ちょっと、えぇ~?」
蓮は目頭を指で揉む。
「あの……俺、弟子なんて取るつもりはないんだけど」
「そこをなんとか!」
「いや、だから……とりあえず頭を上げて」
「お願いします!」
「土下座されても困るんだけど」
「どうか……どうか!」
「……」
なにを言っても無駄だと分かった蓮は深いため息を吐き、頭をガリガリと掻いた。
「とりあえず……ウチに来ます?」
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「というわけでこの和風美少女を連れてきたというわけだよ。母さん」
「というわけだよではないわ!このバカ息子!」
和風美少女を自分の家に連れて帰った蓮は、母親である姫神桜に頭を殴られた。
大きなたんこぶができた蓮は頭を両手で押さえて、蹲る。
「そんな理由で『霞』に連れてきて、どうするんだ!!」
「いや、でも美少女に土下座されて、そのまま放置するわけにはいかないでしょ!?
「村の人間以外の奴に、この村に立ち入りを許してどうすると言っているんだ!バカだ、バカだと思っていたがここまでバカだとは思わなかったぞ。母親として泣きたくなる」
その言葉を聞いて、蓮は額に青筋を浮かべる。
「バカバカ言いやがって……母さんには言われたくねぇよ!!」
「なんだと!?」
「知ってんだからな!当時まだ十四歳だった父さんに一目ぼれした母さんが無理矢理に誘拐して、しかも既成事実を作って、強引に夫にしたのを!」
「な、なぜそれを!?」
「まだ生きていた時のおばあちゃんから聞いたよ!なに説教してんだよ!人の事を言える立場か!?俺よりたちが悪いじゃねぇか!」
「う…そ……それは!」
「俺よりバカな上に犯罪を犯した人に言われてくねぇよ!この変態年下大好き怪獣ババアが!!」
「年下が好きでなにが悪い!バカ息子!!」
ギャーギャーと騒ぎながら、親子喧嘩をする蓮と桜。
そんな彼らを見て呆然としている和風美少女の前に、りりさがお茶を置く。
「お茶です。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「驚きましたか?」
「はい……まさか《機神》が男だったとは。しかも姫神璃々の子孫だったとは」
ある程度の話を聞いた和風少女は、今でも驚きを隠せなかった。
それから数分後、喧嘩を終えた蓮と桜は汗だらけになりながらゼーゼーと肩で息をする。
「もういい。よくないがまぁ……とりあえず話をしよう」
桜は和風少女に視線を向ける。
少女はビクッと肩を震わせた。
「初めまして。私は……姫神桜と言います。姫神璃々の子孫であり、今の姫神家の当主を務めさせていただいてます」
「なに敬語を使ってんだよ、気持ち悪い。母さんはそんなタイプじゃないだろう?もっと怪獣みたいな圧で話すじゃないか」
桜は力強く蓮の頭を殴った。
ゴチン!という大きな音が鳴り響き、蓮は床に倒れる。
新しいたんこぶができた兄の頭を、りりさは優しく撫でた。
「そこにいるバカは私の息子で、そのとなりにいるのは私の娘であり、次期当主でもあります」
「え?息子……さんが次期当主じゃないんですか?」
「はい。そこのバカでアホな息子は魔法少女にはなれますが、男です。姫神家の当主は女が務めると決まっています」
「そう……なんですか」
「次はこちらから質問させていただきます。あなたはもしや……」
「ハナ……です」
桜がなにかを言うよりも速く、和風少女—――ハナはそう答えた。
まるで桜の言葉を遮るように。
彼女の名前を聞いた桜は目を細める。
「……ではハナさん。なぜウチのバカ息子の弟子になりたいんですか?」
「それは……強くなりたいからです!」
ハッキリと言うハナに、桜は「なぜ?」と問う。
ハナは拳を強く握り締め、悔しそうな顔で視線を下に向ける。
「私……弱いんです。魔法少女としての才能がまったくないんです」
「才能がまったくない?そんなはずは……だってあなたは―――」
「そんなことあるんです。私……魔法少女になっても身体能力が強化できないんです」
「!」
「肉体を頑丈にはできるんですけど……身体能力を強化することが何故かできないんです」
「〈マジックアイテム〉に問題が?」
「いえ、それはなかったです。ただ……私の〈マジックアイテム〉は最下位のやつですかね。努力でなんとかしようとしたのですが……ぜんぜんだめです」
「……」
「私……そこそこ大きな魔法少女の家の娘なんですが……娘の中で最弱なんです。両親や姉たちは『気にしなくていい』とか『無理に魔法少女にならなくていい』とか言ってくれるんですが……やっぱり強い魔法少女になりたくて、家を出て武者修行の旅を始めたのです」
「なるほど」
「ですが……魔獣一匹すら倒せなくて……そんな時に英雄である《機神》に出会ったんです」
ハナはキラキラと輝かせた瞳で蓮を見つめた。
彼女の瞳に宿っていたのは尊敬と憧れ。
「現在、世界中で最も活躍している魔法少女—――《機神》。実力は最高クラス。巨大な隕石を破壊したり、王級の魔獣百体を一人で倒したなどの伝説を作り続けている。魔法少女の英雄。そしてその伝説は全て本当だということもわかっています」
「……確かにウチのバカ息子はそういった伝説を作りました。今でもそう」
「そんな英雄の弟子になれば強くなれると思ったのです。だからどうか……私を……弟子にしてください!」
深く頭を下げるハナ。
そんな彼女を見て、桜はゆっくりと口を開く。
「いいでしょう。あなたを蓮の弟子になることを認めます」
母の言葉を聞いて、蓮は思わず「はぁ!?」と声を上げた。
(なんで母さんが許可するんだよ!?あの母さんが!?)
蓮は驚きを隠せなかった。
姫神桜は自分にも他人にも厳しい人である。
今の夫である姫神アキラを誘拐したこと以外は、なにも問題行動を犯していない。
掟をよく守り、常に村のことを考えてきた。
そんな彼女が部外者であるハナを蓮の弟子になることを許可したのだ。
「蓮。ハナさんを強くしろ。隊長級の魔獣を倒せるぐらいには」
「それは……いいんだけど、母さんが教えたほうがいいんじゃない?母さんのほうが教えるのはうまいし」
「私はこれからアキラとイチャイチャ……ごほん。少し用事があるんだ」
「おい、発情怪獣ババア。今、イチャイチャしたいって聞こえたぞ?」
「それと……くれぐれも『姫神の剣』は教えるな?あくまで多少、強くするだけだ」
「……わかってるよ」
そう返事をした蓮はハナに視線を向ける。
「えっと……よろしくお願いします。ハナさん」
「はい。よろしくお願いします。蓮くん」
二人は笑顔を浮かべながら、握手をした。




