蜥蜴水メイ
「え?嘘だろ!?ここでヒロインが死ぬのかよ!?」
部屋でゆっくりとライトノベルを読んでいた蓮。
そんな彼の耳に悲鳴が聞こえた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!お兄ちゃん助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
妹である姫神りりさの悲鳴を聞こえた蓮は、慌てて部屋から飛び出す。
「どうした妹よ!?」
悲鳴が聞こえたところに向かった蓮は、目を大きく見開く。
彼の目には、鎖に巻き付かれたりりさの姿が映っていた。
りりさはずるずると一人の少女に引っ張られている。
その少女は水色の髪と瞳を持ち、太長い尻尾を生やしていた。
「あ、蓮先輩。おはようッス」
抑揚のない声であいさつをする蜥蜴族の少女—――蜥蜴水メイ。
「お、おはよう。じゃなくて!メイちゃん、なんでりりさを鎖で縛って引きづっているの?」
蓮が問い掛けると、メイは瞳を怪しく光らせてりりさを見下ろした。
「りりさが貸していたウチのゲームを失くしたみたいなんスよ。だから罰として一週間、寝ずに一緒にゲームをしてもらうんス」
「だから弁償するって言ってるじゃん!もう何度も謝ってるじゃん!」
「ウチが大切に育てたキャラクターのデータは戻ってこないッス。だから寝ずにゲームしてもらうッス。親友」
「お兄ちゃん助けてえぇぇぇ~!このままじゃあゲーム地獄でアタシ、死んじゃうよ!」
瞳を潤ませるりりさを見て、蓮はしょうがないな~とため息を吐く。
「メイちゃん。ゲームは俺が付き合うから許してやってくれないか」
「……まぁいいッスよ」
りりさを解放したメイは蓮に顔を近づける。
「じゃあ~たっぷり遊んでもらうッス。蓮先輩♡」
蜥蜴水メイの家にやってきた蓮は、メイと共にテレビ画面を見つめながらリモコンを操作していた。
薄暗い部屋でカチカチというリモコンの音だけが響く。
「蓮先輩!アイテムを!早く!」
「分かってる!」
苦しい顔でリモコンを操作する蓮。
テレビに映っている巨大モンスターに苦戦していた。
そして操作していたキャラクターがモンスターにやられ、ゲームオーバー。
メイは頭を抱え、大声で叫ぶ。
「チクショウゥゥゥゥゥゥゥゥ!また負けったスウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
まるで勝ったと思ったら逆転されて負けた世界大会のスポーツ選手のような絶叫。
そんな彼女に蓮は少し引く。
「なんなんスか!このクソゲー!!最高に面白い神ゲーだってネットで言われているから買ったのに!!ぜんぜんクリアができないッス!」
「そう……だな」
「全クリするまでやるッスよ!蓮先輩!」
「了解」
真剣な表情でリモコンを操作するメイに、蓮は呆れる。
「それにしてもメイちゃんって魔獣と戦う時以上にマジだよね。ゲームやる時は」
「なんスか。急に?」
「いや、小さい頃からゲームが好きだよなって。よくゲームでムキになるよな」
「当然じゃないッスか!!」
メイは蓮に顔を近づけ、熱く語り始める。
「ゲームは人類が生み出した発明の中で最高のもの!だから世界中の人はやるんス!」
「いや……でも疲れない?ゲーム」
「疲れてもやる!めんどくさくてもやる!それがゲームなんス!」
「ゲームのことになると人が変わるから怖いんだよな、メイちゃんは。というかゲームって遊びだろう?そんなマジにならなくても」
「なにを言ってんスか!」
メイは蓮の瞳を見つめながら、覇気を宿した声を出す。
「遊びだからマジになれるんス!好きだからマジになれるんス!例え無駄な時間だとしても!」
その言葉を聞いて、蓮は目を見開いた。
遊びだから本気になれる。
好きだから本気になれる。
ゲームだからだとか関係ない。
本気になれるものだから本気になれる。
だから全力でやるのだ。
「今の言葉、カッコよかったぜ。メイちゃん」
「フフ~ン!さぁ、続きをやるッスよ!」
「はいはい」
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「メイちゃんはゲームが好きだった。誰よりも好きなものを本気でやっていた。まぁ……最高のゲームを作りたいっていう夢は叶えられなかったけどな」
寂しそうな顔をする蓮を見て、修は悲しそうに顔を歪めた。
「先輩は……『焔』のみんなのことが好きだったんですね」
「ああ。好きだった。土下座して『俺のハーレムの一員になってください!』ってお願いするぐらいは」
「すっごいお願いですね。で?どうなったんですか?」
「あっさり断られたよ。『自分だけを見てくれるんだったら、考えてあげなくもない』って言われた」
苦笑しながら、蓮は頬をポリポリと掻いた。
「結局、先輩はハーレムどころか恋人もできなかったんですね」
「いや……ハーレムはできなかったけど、恋人はいたぞ」
「……はぁ?」
次の瞬間、部屋の温度が一気に下がったのを蓮は感じた。
修だけでなく、エイミーや百合の瞳が黒く染まる。
三人は閻魔すら逃げ出すぐらいの威圧が宿った低い声で問う。
「「「詳しく」」」
大量の汗を流し、蓮はゴクリと唾を呑み込む。
「落ち着いて、三人とも。みんなが思っているようなものじゃないよ」
蓮の記憶を全て見たエイナは三人を落ち着かせた。
「エイナ……でも先輩に恋人がいたって聞いたら」
「修の気持ちはよくわかるよ。でもそうじゃないの。蓮兄には恋人はいたけど……愛し合っていたわけじゃないの」
少し泣きそうな顔でエイナは言葉を続ける。
「これは私達にも関係があるから言うけど、蓮兄は―――」
「女性を愛するってことができないの」
その言葉を聞いて、三人は言葉を失った。
「それは……どういう」
「それはあとで話す。まずは俺の元恋人だった人の事を話そう」
そう言って蓮は語った。
自分を愛してくれた女性のことを。




