涙を流す妹3
「だからもうちょっとだけ待っててくれ」
蓮が優しい声でそう言った。
その時、エイナは苦しそうな声で叫び出す。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
瞳を強く光らせたエイナは地面を強く蹴り、蓮に突撃。
弾丸の如き速さで蓮に接近し、エイナは拳を振るう。
ガントレットに覆われた拳を、蓮は大太刀で防ぐ。
ガキイィィィィィィィィィィィィン!!
大きな金属音が鳴り響いた。
重い衝撃が蓮の両腕に襲い掛かり、彼は後ろに吹き飛ぶ。
「くっ!」
蓮は背中から炎を噴射し、体勢を整える。
(やっぱり……魔神化してパワーアップしてやがる)
魔神化。
あらゆる能力を大幅に強化する代わりに、理性を失い、全てを壊すまで止まらない暴走状態。
だが魔法少女がそんな暴走状態には絶対にならない。
そう、普通なら。
(クソ……潰したはずなのにまだ生きていたとはな)
妹を魔神化させた奴らに対し、蓮は忌々しく思った。
今すぐにでも奴らをこの手で殺したという殺意が、彼の胸の奥から湧き上がる。
だが蓮は怒りと殺意を鎮めた。
(落ち着け、俺。今、やらなくちゃあいけないのは……エイナを救うことだ)
蓮はフゥ―と深く息を吐いた後、魔神化したエイナを見つめる。
エイナは身体から禍々しい黒いオーラを放っており、悲痛な叫びを上げていた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
叫び続けるエイナの瞳から流れる涙を、蓮は見逃さなかった。
「エイナ……今、助ける」
炎の如き赤い瞳を光らせて、蓮は静かな声で囁く。
「浄化せよ、白い炎」
次の瞬間、蓮が纏っていた甲冑と髪と瞳が白く染まった。
そして大太刀は白く燃え上がる。
白い炎を纏う大太刀を目にしたエイナは、唸り声を上げながら後退る。
だがすぐに彼女は目つきを鋭くし、蓮に襲い掛かった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
エイナはガントレットに覆われた拳で怒涛の連打を放つ。
当たれば致命傷は確実の連撃。
それを蓮は舞うように大太刀を振るい、受け流す。
全ての攻撃を受け流した彼は、
「はぁ!」
白い炎を纏った大太刀でエイナを斬る。
「アア……」
白炎の斬撃を受けたエイナは目を瞑り、意識を失った。
彼女の身体を覆っていた漆黒の鎧は消え、裸となる。
倒れそうになったエイナを蓮は優しく抱き締めた。
エイナの顔からは苦しみが消えており、安らかに眠っている。
「よかった……本当に」
ホッと安堵する蓮は、微笑みを浮かべた。
その時、パチパチという拍手の音が響く。
「流石は《魔炎》ね。まさかこんな早く魔神化を解くなんて」
蓮にとって聞き覚えのある少女の声。
エイナをゆっくりと地面の上に寝かせた蓮は、声の主を睨んだ。
彼の目は刃の如く鋭くなっていた。
「やっぱりお前だったか。委員長」
蓮の視線の先にいたのは、片眼鏡を掛けた茶髪茶眼の少女—――水篠マリだった。
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