姫神蓮の家族
日本のとある山の奥に、村があった。
その村には誰でも立ち入る事は出来ず、出入りできるのは村の人のみ。
村の名は『霞』。
魔法少女とその家族で作られた村である。
そんな村の中心にある大きな豪邸―――姫神邸。
そこには代々から人々を守るために生きてきた巫女や聖女の家系―――姫神家が住んでいる。
和風を感じさせる豪邸で、女性の声が響き渡った。
「このバカ息子が!!」
声の主は長い黒髪を伸ばした美女。
胸や尻がそこそこ大きく、美しい黒い瞳の持ち主。
左腕がなくなっていること以外、完璧な女性。
そんな彼女は少年—――姫神蓮の頭に拳を強く叩き込んだ。
殴られた蓮は大きなたんこぶを作り、蹲る。
「いってぇ!なんで殴るの?酷くないですか!?」
「お前が悪いからだ、このバカ息子。また一人で魔獣の大群と戦ったそうだな」
「しょうがないでしょ、母さん!逃げ遅れた人を守るためにはそうするしかなかったんだし!それに『焔』のみんなは別のところで魔獣と戦っていたんだから、俺だけでなんとかしなくちゃいけなかったんだから」
「だからって死ぬかもしれないことをするな!」
蓮の母―――姫神桜は額にビキビキと青筋を浮かべ、怒鳴り声を上げる。
「それにあまり目立つ行動はダメだ。お前は人を助けるためなら無茶をする時がある。そのせいで今のお前は魔法少女協会や他の組織に目をつけられているんだぞ」
桜は親指をテレビに向ける。
テレビには今日のニュース番組が映っていた。
『速報です。幻の魔法少女—――《機神》が現れ、モンスターフェスティバルを一人で解決しました。魔法少女協会を含めた多くの組織が《機神》を血眼で探しているとのこと―――』
ニュースを見て、蓮は顔を逸らす。
「いいか、蓮。何度も言うが、姫神家は代々巫女や聖女の家系だ。姫神家は陰ながら化物を倒し、人々を守らなければならない。それは魔法少女になっても変わらない」
「そうは言っても、母さん。俺のご先祖様である姫神璃々だって魔法少女として大活躍して、目立っていたじゃないか」
「あの人は別だ。世界が滅びそうになったんだから」
「なら人々を守るために行動して、目立った俺もしょうがない」
桜は力強く蓮の頭を殴る。
また蓮の頭に新しいたんこぶができた。
「まだわからないのか!姫神家の人間の力は強大だ。それゆえに多くの者が私達を利用しようと、探している。だからこんな山奥に姫神家とその従者たちで作った村で静かに暮らしているんだぞ!」
「分かってるよ。何度も聞いた。だけど誰かを見捨てることはできない!」
「もっと自分を大切にしろと言っているんだ。お前は男だというのに、〈マジックアイテム〉に選ばれ、強力な魔法少女として活躍している。恐らく魔法少女としての適性が異常に高い。これがどういう意味かわかるな?」
「えっと……女の子にモテモテ?」
桜はまた蓮の頭を殴った。
「戦闘兵器として利用されるかもしれないと言っているんだ!」
「……」
「わかったらこれ以上、目立つ行動は」
「悪いけどやめないよ、母さん」
蓮はまっすぐな瞳で、母の目を見つめる。
彼の瞳には誰が何と言われようとやめないという強い意思が宿っていた。
「俺は……なにがなんでも全ての魔獣を滅ぼし、この世界に平和をもたらす。そのためなら無理だろうと無茶だろうとする。そして俺は誰も見捨てない」
「お前は……」
「大丈夫だよ。そう簡単に死なないよ。なんせ怪獣ババアの息子だから―――」
桜は右手で蓮の顔にアイアンクローを喰らわせる。
彼女の瞳が怪しく光る。
「誰が怪獣ババアだ」
「ギャアアアアアアアアアアア!死ぬ死ぬ死ぬ!マジで痛いって!」
メキメキメキと音が鳴り響き、蓮は悲鳴を上げる。
そんな時、一人の男性が桜の肩に手を置く。
「まぁまぁ落ち着いて、桜さん。もう蓮のことは許してやって」
優しい声でそう言ったのは茶色の髪を伸ばした男性。
身体は細く、痩せている。
「アキラ……しかしだな」
「お願いだから許してやって。ね?」
「……わかった」
ため息を吐いた桜は蓮の顔から手を離す。
アイアンクローから解放された蓮は、父親である姫神アキラに心から感謝する。
「ありがとう、父さん。あんたは天使だよ」
「ハハハ。でも、桜さんが言っていることは間違ってないよ。蓮は強力な魔法少女だから狙われているのは確か。だから気を付けて」
「は~い」
蓮が軽く返事をしたその時、彼らがいる部屋に一人の少女が入ってきた。
短い黒髪に黒い目。
太ってもなければ痩せてもいないからだ。
とても可愛らしい顔立ちをしており、明るい笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃ~ん。もう『焔』のみんなが集合してるよ?」
「おう、わかった。今、行く」
蓮は妹—――姫神りりさと共に、別の部屋に向かう。
移動中、りりさは蓮の顔を覗き込む。
「またお母さんに怒られてたの?」
「ああ。だが俺の正義はこれぐらいでは折れない。ただ……殴られるのは痛いな」
「アハハハハハ。ならアタシが癒してあげる」
りりさは蓮の頭をよしよしと優しく撫でた。
妹に撫でられた蓮は心が温かくなるのを感じる。
「ううぅ……やっぱりお前は最高の妹だよ。結婚してくれ!」
「アハハハハ。妹に求婚するってどうかと思うよ?」
「しょうがないだろう!?お前のことが大好きなんだから!」
「アタシもお兄ちゃんのこと大好きだよ。まぁ私に好きな人ができなかったら内緒で付き合ってあげる♡」
「よっしゃあ~!」
蓮は嬉しそうな笑顔を浮かべて、ガッツポーズを取った。
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「母はとても厳しかったが、家族想いの人だった。無茶な戦い方をする俺とよくケンカをした。父は誰よりも優しくて、料理がおいしかった」
昔のことを思い出しながら、蓮は微笑む。
まるで懐かしむように。
「そして妹は……俺の自慢だった。とても元気で明るくて、そしてとても優しかった。まるで太陽みたいな子だった。そんな妹のことが大好きだった」
「……りりさちゃんって言うんだね、その子」
蓮の話を聞いていたエイミーは、痛みを感じる胸に手を当てる。
彼の実妹であるりりさに、エイミーは嫉妬していた。
好きな人が誰よりも愛していた人に、エイミーは憎いと感じる。
「記憶を見たからわかるけど、蓮兄はりりさって子のことを大切にしていたんだよね」
「ああ、その通りだエイナ。りりさのことが好きになった男は全員、脅したりして近づいてこないようにさせた」
「うん、記憶を見たから知っているけど蓮兄ってめちゃくちゃシスコンだったよね。実妹にしつこく近付く男にタバスコとわさびとか突っ込んでいたよね」
「りりさに近付く男は容赦なく潰すと決めていたからな、妹として愛してしたしな。もちろん……エイナとエイミーのことも愛してるぞ」
微笑みを浮かべて言う蓮。
エイナはドキッと胸を高鳴らせ、エイミーは顔を赤く染める。
「蓮兄……子供は何人ぐらい欲しいかな?」
「いきなりなに言ってんだエイナ」
「だってだって!今の台詞で興奮しないほうがおかしいよ!だよね、エイミー?」
エイナの問いに、エイミーは何も答えず顔を逸らす。
否定せず、なにも答えない。
それはつまり肯定ということ。
「それより先輩。『焔』のことが聞きたいです、僕」
「私も気になるわ。蓮さんの仲間のこと」
修と百合は蓮に話の続きを促した。
「わかった話そう。次は俺が所属していた『焔』のことを」




