無敵
「行くよ、修。今の私は……無敵だよ」
周囲にいくつもの魔法陣を展開し、拳を構えるエイミー。
彼女の拳に、何重にも重なった魔法陣が宿る。
(雰囲気が変わった)
エイミーから放たれる強い魔力と黒い感情。
それを感じ取った修は目を細めながら、警戒する。
(なるほど……先輩を独占したいという感情で、強くなったのか。だけど……)
修は瞳を真っ黒に染めて、二本の槍を構える。
(僕の方が先輩を独占したという気持ちは大きいよ?)
蓮を自分だけのものにしたい。
自分だけしか見られないようにしたい。
そんな強く、黒い感情が修の胸の中から無限に湧き出す。
「無敵なら倒してみなよ、この僕を!」
修は二本の槍を振るった。
するとなにもないところから女性の形をした黒い石の人形が現れる。
その数、百体。
「行け」
主の命令に従い、黒い石の人形たちは一斉に動き出す。
一体一体が超高速に動き、エイミーに襲い掛かる。
「言ったよね……今の私は無敵だって」
何重にも重なった魔法陣を宿した拳。
その拳を力強く振るい、黒い石の人形たちを次々と破壊する。
同時に、何重にも重なった魔法陣から虹色に輝く剣や槍などを放ち、人形たちを殲滅していく。
「嘘!?魔法攻撃の威力が上がってる?」
目を大きく見開く修は、エイミーを分析する。
(恐らく魔法陣を重ねることで威力の高い魔法攻撃を放っているんだ。しかも何重にも重ねた魔法陣を拳に宿らせて戦って……普通はありえない)
魔法少女にはそれぞれ適した戦い方がある。
己の肉体を強化し、剣や槍で戦う魔法少女は近接型。
魔法攻撃で敵を倒したり、銃や弓で戦う魔法少女は遠距離型。
味方を回復させたり、強化させたりする魔法少女は支援型。
そして呪いで相手を殺したり、転移することができる魔法少女は特殊型。
(エイミーは魔法系の遠距離型。なのに魔法攻撃をしながら、魔法陣を宿した拳で戦ってる。銃を撃ちながら、銃で殴っているようなもんだよ。集中力や魔力が馬鹿みたいに必要だ。そう長くは戦えない)
全ての黒い石人形を破壊したエイミー。
彼女は黒い瞳を怪しく輝かせていた。
エイミーから放たれる威圧を、修は肌でピリピリと感じる。
(確かに今のエイミーはヤバイ。プロの魔法少女以上の力を感じる。だけど!)
修は一瞬でエイミーに距離を詰め、二本の槍を振るう。
(今の僕は魔王の眷属。負けるわけにはいかない!)
力強く振るわれた二本の槍がエイミーに直撃しようとした。
しかし、何重にも重なった魔法陣を宿した拳が二本の槍を弾く。
そしてエイミーは、己の拳を修の腹に叩き込む。
大きな打撃音が鳴り響き、修は一歩だけ後ろに下がる。
痛みはない。
だがわずかに修の鎧に皹が走った。
「くっ!」
「どうしたの、修?蓮兄さんの魔王の魔力を手に入れてその程度?私だったら―――」
「
エイミーはニッコリと微笑みを浮かべ、告げる。
「もっとうまく使えるよ?」
エイミーの挑発的な言葉を聞いて、修の中でなにかが切れる音が聞こえた。
「潰す!」
修は二本の槍から連続刺突を放つ。
迫りくる連撃を、エイミーは拳で対応する。
槍と拳が激しく、そして何度もぶつかり合った。
二人の攻撃がぶつかる度に、床や壁に大きな亀裂が走る。
「くっ!うぅ……!」
槍の連撃を魔法陣を宿した拳で対応していたエイミーが、苦しそうに顔を歪める。
彼女は少しずつ後ろに下がっていく。
「アハハ!僕の勝ちだ!」
修が勝利の笑みを浮かべた。
その時、修の二本の槍をエイミーは両手で掴んで止める。
「なに!?」
驚愕の表情を浮かべる修に、エイミーは笑いながら言う。
「違うよ、私の……私達の勝ちだよ」
次の瞬間、修とエイミーの周りにいくつもの魔法陣が出現。
魔法陣から無数の光の鎖が飛び出し、修とエイミーの身体に巻き付いた。
「エイミー、まさか!自分ごと!?」
「そうだよ。こうでもしないと修を拘束できないと思ったから!」
「くっ!だけどこんな拘束!」
「そうだね。こんな拘束、修なら数秒で壊せる。だけどね、修?私は数秒だけあなたの動きを止められればいいの」
エイミーがそう言った時、修が影に覆われる。
まさかと思った修は上に視線を向け、目を大きく見開く。
「ようやく私の出番ね」
修の視線の先にいたのは、暴風を纏った白い矢を弓に装填して構える白髪の魔法少女—――白雪百合だった。
「終わりよ」
百合は暴風を纏う白い矢を放った。
矢は修に直撃し、激しい竜巻が発生する。
竜巻が収まった時には、修はボロボロになっていた。
鎧は皹だらけ。
それぞれ両手に持っていた槍を、床に落としてしまう。
「ま……だだ!」
大ダメージを受けたはずの修は、歯を食いしばって立っていた。
そんな彼女の瞳に、頭から血を流しながら拳を構えるエイミーの姿が映った。
「いいえ、これで終わりだよ、修!」
エイミーは何重にも重ねた魔法陣を宿らせた拳を、修の顔面に叩き込んだ。
修は勢いよく吹き飛び、壁に激突。
「くっ…あ…クソ……」
悔しそうに顔を歪めながら、修は意識を失った。
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