気合と根性
修を近距離で炎と冷気の魔法攻撃を放ったエイミー。
炎と冷気の爆発が目の前で発生し、エイミーは軽く吹き飛ぶ。
ゴロゴロと床の上を転がったエイミーは、顔を上げた。
「やった…の?」
「それはフラグだよ、エイミー」
「!」
二本の槍を握り締め、平然と立っていた巨人族の少女。
傷一つない彼女を見て、エイミーは目を大きく見開く。
「な…んで」
「いや~……今の一撃はヒヤッとしたよ。昔の僕だったら気絶してたかもね。でも……今は違う」
修は片足を上げ、床を強く踏んだ。
すると床から大きな黒い石の手が現れ、エイミーの身体を掴む。
拘束されたエイミーはなんとか抜け出そうとするが、黒い石の手はそれを許さない。
「先輩が眷属を増やしたくない理由がよく分かったよ。魔王の魔力は異常だ。昔の僕ならプロの魔法少女と戦ったら一瞬で負ける。だけど今の僕なら、プロの魔法少女が百人いても余裕で倒す自信がある。まさに化物……きっと激しい戦いに巻き込まれるね」
「……」
「先輩はこの力を持てば人が不幸になると分かってる。だからエイミー……先輩の眷属になるのは諦めて。先輩は僕が支えるから」
真剣な表情で説得する修。
彼女は本気でエイミーを案じていた。
「……心配してくれているのはわかるよ、修。だけどね」
「余計なお世話だよ」
瞳を真っ黒に染めて、修を睨むエイミー。
彼女の闇の如き黒い瞳を見て、修は一瞬だけ息を呑む。
「好きな人の隣にいるためなら化物にだってなるよ。蓮兄さんは自分が支える?寝言は寝て言ってよ。蓮兄さんを支えるのは私だよ。私だけなんだよ。それを譲るつもりは……ない!」
次の瞬間、エイミーの周りにいくつもの魔法陣が出現。
魔法陣から炎の剣や水の槍、風の矢などが放たれ、エイミーの身体を拘束する黒い石の手を破壊した。
だが同時にいくつかの魔法攻撃がエイミーに直撃する。
「なっ!拘束を解くために自分ごと!?」
まさかのエイミーの行動に、修は目を大きく見開く。
ボロボロになりながらも、しっかりと立つエイミー。
彼女は瞳を黒く光らせる。
「かかって来なよ、修。全力で叩き潰して、蓮兄さんの隣に相応しいのは私だって教えてあげる」
エイミーの言葉を聞いた修は、額にビキビキと青筋を浮かべる。
全身の血が沸騰するような怒りを覚えた修は、瞳を真っ黒に染めた。
「オッケー、わかった。なら僕は全力でエイミーを叩き潰してあげるよ!」
修は二本の槍から怒涛の連続刺突を放った。
人の目では捉えることができない連撃。
迫りくる連撃を前にして、エイミーは……落ち着いていた。
「甘いよ、修」
エイミーは両手の手の平に魔法陣を形成。
魔法陣を宿した手の平で、怒涛の連続刺突を全て受け流す。
「なっ!?」
遠距離で魔法攻撃で戦うエイミーが、まさかの近接戦闘。
そのことに修は驚愕する。
(蓮兄さんの言った通りだ!)
攻撃を受け流しながら、エイミーは思い出す。
愛する兄である蓮が言っていたことを。
<><><><>
「え?魔法少女の力を高める方法?」
エイミーが呪いのせいで入院していた頃。
見舞いに来た蓮に、彼女は強くなる方法を聞いていた。
「うん。蓮兄さんが魔法少女になった時、すごかったからその理由はなんだろうって気になって」
「まぁ……色々とあるが、魔法少女の能力を高める一番の方法は―――」
「気合と根性だな」
まさかの予想外の言葉に、エイミーは目を丸くする。
「え?気合と根性?てっきり特別な訓練とか奥義とか言うのかと思っていた」
「もちろんそれもある。だが一番重要なのは……心だ」
蓮は右手の人差し指で自分の胸を軽く叩く。
「人間がなんで車だとか、飛行機だとか生み出せたのか分かるか?知能があったから?それとも才能?違う。これを作りたいやこれが欲しいという強い想いがあったからだ」
「想い……」
「想い……もしくは欲望がなければ人は何も成せない。一番になりたい、有名になりたい、幸せになりたい。そんな想いが人を強くする。特に魔法少女はな」
真剣な表情で蓮は言葉を続ける。
「魔法少女の体内にある魔力は強い想いで活性化する。速い攻撃が遅く見えたり、身体能力が向上したりなど色々だ。そして気合と根性は一時的に魔法少女の能力を超強化する」
蓮は微笑みを浮かべて、エイミーの頭を撫でる。
「いいか、エイミー。もし呪いが解けて元気になって、魔法少女の力でなにかを成したい時は難しく考えず、まず気合と根性を出せ。そうすれば―――」
「お前は無敵だ」
<><><><>
(私がしたいこと……そんなの決まっている)
修の連続刺突を全て受け流したエイミーは、強い想いを宿した瞳を強く光らせる。
(蓮兄サンヲ管理シタイ。チャント監視シテ、私ダケシカ見ラレナイヨウニスル!)
エイミーは気合と根性で、魔法少女の力を超強化。
彼女の周りにいくつもの魔法陣が出現し、重なる。
「行くよ、修。今の私は……無敵だよ」
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