涙を流す妹1
魔法少女。
それは小さな女の子が憧れる正義のヒーロー。
悪い怪物を倒し、可愛らしい妖精と友達になり、人を救う。
それが昔のフィクションの魔法少女。
小さな女の子が目をキラキラと輝かせながら見ていた魔法少女だ。
だが、現実は……本物の魔法少女は違う。
現実の魔法少女は血を流し、命を懸けながら化物と戦う。
時には魔法少女同士で殺し合うこともある。
大切な人が目の前で死ぬこともある。
希望がないなんてのは当たり前。
抗いようがない絶望が襲い掛かることもある。
現実はフィクションよりも残酷なのだ。
だけど……そんな辛い現実に抗う魔法少女達も存在する。
その一人は……男でありながら魔法少女になれる少年だった。
名は、魔森蓮という。
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「では……よろしくお願いします」
「はい。了解しました」
魔神教団の魔法少女達を、蓮は学園長の部下達に引き渡した。
学園長の部下達は、手慣れた様子で死体や四肢を失った魔神教団の少女を車に運んでいく。
(流石は英雄の一人……優秀な部下を何人も持っているな)
蓮は前髪で隠れていた黒い両目で、学園長の部下である魔法少女達を観察していた。
(実力は俺より下だが、そこらへんの魔法少女よりも鍛えられている)
学園長に連絡して、後片付けに呼んだ魔法少女達。
そんな彼女達は一人一人が、相当な実力者たちだと蓮はすぐに気づいた。
(だけど一番凄いのは、そんな彼女達を率いる学園長の統率力だな)
改めて、学園長の凄さを知った蓮。
そんな彼の服の裾を、魔森エイミーは指で掴む。
「蓮兄さん……」
眉を八の字にして、蓮を見つめるエイミー。
蓮は妹の頭を優しく撫でる。
「帰るか」
「うん」
蓮はエイミーと共に、学生寮に向かって歩いた。
太陽は沈んでおり、空は暗い。
街灯に照らされた道を歩く二人は、顔を合わせようとしなかった。
ただ並んで……静かに歩いていた。
「……エイミー」
沈黙を破ったのは蓮だった。
彼はどこか気まずそうな顔を浮かべている。
「なに?」
エイミーは兄の顔を見ない。
見ないようにしていた。
「聞かないのか?」
「なにを?」
「『なんで人を殺せるの?』とか『なんで人の腕と脚を斬り飛ばしたの?』とか」
「……」
「アレを見たから気付いてるんだろう?俺に人殺しの経験があるって」
エイミーは足を止めて、俯く。
彼女は胸が苦しくなるのを感じながら、口を動かす。
「知ってたよ……蓮兄さんが人を殺してたの」
「……いつから気付いていた?」
「私が入院を始めた時くらいかな。お見舞いに来る蓮兄さんから血の臭いがしていたから」
「……シャワーで洗い流したつもりだったんだがな」
「私は吸血鬼とエルフのハーフだよ?血の臭いなんてすぐにわかっちゃう」
「そうか」
「でも……でもね。蓮兄さんが好きで人殺しをしていたわけじゃないって分かってた。だから気付かないふりをしていたの」
「……」
「たぶんエイナも気付いてるよ?だって私の入院費とエイナの学費を稼ぐのって……大変でしょ?社会人でもないのに、明らかに普通じゃないもの」
「……エイミー……俺は……」
「でも詳しくは聞かないよ。蓮兄さんが話してくれるまで……待つよ」
エイミーは微笑みを浮かべながら、蓮の頬に触れる。
「待つよ。例え何年……何十年でも」
「……まったく、お前はいい女だ。お前が嫁に行く時、たぶん泣くな…俺は」
「ふふふ……その時は慰めてあげる」
「そうなったら頼むよ」
蓮はゆっくりと目を閉じ、軽く息を吐く。
静かに……秘密を喋る覚悟を決める。
「話すよ。俺が今までお前達に隠していたことを」
目を開けた蓮は、真剣な表情で語る。
エイミーとエイナに秘密にしていたことを。
「俺は……二人の学費と入院費を稼ぐために、警察の依頼を受けていたんだ」
「依頼?」
「エイミー。魔法少女の仕事には大きく分けて四つある。一つ目は異世界からやってくる魔獣の討伐。二つ目は災害にあった人を助ける人命救助。三つ目は高性能な魔装を作ること。四つ目は人々の生活を豊かにすること」
「それは知ってる。中学校でも習った」
「だけどな……魔法少女の仕事にはもう一つあるんだ」
「もう一つ?」
「危険な裏組織の壊滅。そして連続殺人を起こした魔法少女の殺害だ」
「!!さつ…がい……?」
エイミーは目を大きく見開いた。
「なんで……そんなの聞いたことない」
「まぁ……表向きにできない話だからな。魔法少女になった奴が善人の場合もあれば、悪人の場合もある。そして悪人の場合は、大半の奴らが殺人を犯している」
蓮は言葉を続ける。
「そんな危険な魔法少女を排除するために、警察は一部の魔法少女……つまり俺みたいなやつに依頼を出すんだ」
「そんな……」
話の内容が衝撃的すぎて、エイミーは自分の口に手を当てる。
「危険な魔法少女を殺す依頼は、魔獣の死体を売るよりも大金が手に入る。エイナの学費とエイミーの入院費……特にエイミーの呪いの治療には何千万っていう金が必要だった。だから俺は最も大金が手に入る警察の依頼を受けた」
エイミーは悲しそうに顔を歪めながら、瞳からボロボロと涙を零した。
(私たちの……せいだったんだ)
エイミーの胸の中に罪悪感が湧き上がる。
(蓮兄さんは好きで人殺しの仕事をしていたんじゃない。人殺しの仕事をするしかなかったんだ)
エイナの学費を稼ぐため。
エイミーの治療費を稼ぐため。
最も大金が手に入る警察の依頼―――人殺しの依頼を蓮は受けたのだ。
(なんでこんなことに気付かなかったんだろう。きっと今の蓮兄さんの心は……ボロボロのはず)
エイミーは蓮が優しい人だと知っている。
そんな彼が人殺しをして、無事であるはずがない。
「ごめんなさい……私たちのせいで……蓮兄さんにそんなことさせて」
蓮に抱きついたエイミーは、嗚咽を漏らしながら謝った。
謝ることしかできなかった。
「泣かないでくれ、エイミー」
蓮はエイミーの頭を優しく撫でる。
「お前達はなにも悪くない。それに警察の依頼を受けると決めたのは俺だ。手を汚す依頼を受けて金を稼ぐ方法しか思いつかなかった俺が悪い」
「でも!」
「それに俺はお前たちの両親を死なせてしまった。助けられたかもしれないのに……」
蓮は顔を歪めながら思い出す。
血を流しながら地面に倒れたエイナとエイミーの両親の姿を。
「エイナとエイミーは俺が助ける。それが俺のできるせめてもの償いだ」
蓮の言葉には、強い決意が宿っていた。
(ああ……そうなんだ。この人は私たちのためなら、どんなこともするんだ)
エイナとエイミーの両親を死なせてしまった。
その罪悪感があるかぎり、蓮はエイナとエイミーを助ける。
例え自分の心が傷つき、手が血で赤く染まるとしても。
(助けたい。蓮兄さんを……)
これ以上、兄が傷つくのは嫌だ。
これ以上、兄の手を血で赤く染めたくない。
「蓮兄さん。私―――」
エイミーがなにかを伝えようとした。
その時、突然遠くから爆発音が鳴り響く。
音が聞こえた方向に視線を向けると、大きなビルが何度も爆発を繰り返していた。
「エイミーは先に学生寮に帰ってろ!」
嫌な予感を感じた蓮は、爆発が発生しているビルに向かって駆け出す。
「蓮兄さん!」
エイミーは呼び止めようとしたが、蓮は止まらない。
遠くなっていく蓮の背中を、エイミーはただ……見ていることしかできなかった。
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