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TS魔法少女の二度目の復讐  作者: グレンリアスター
第一章 魔法少女の兄も魔法少女
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魔王2

「嘘……ですよね?」


 修はレティ―の言葉が信じられなかった。

 より正確には信じたくなかったのだ。

 神級の魔獣が魔王となった魔法少女だと。


「神級の魔獣が魔法少女?じょ、冗談ですよね?」

「事実だ。世界の半分を滅ぼしたのは魔王となった魔法少女だ」

「そんなわけ……そんなわけない!ですよね、先輩?」


 修は隣にいる蓮に視線を向ける。

 彼ならきっと「ああ、それは嘘だ」と答えてくれると思っていたから。

 だが、


「……彼女が言ったことは事実だ。俺の故郷の村に、世界の半分を滅ぼした魔法少女のことが書かれた記録書があった」

「そんな……」

「世界の半分を滅ぼしたのが魔法少女だと人々が知れば、魔法少女狩りが起きる。だから初代魔法少女と世界政府は魔王のことを隠し、世界の半分を滅ぼしたのは神級の魔獣ということにした」


 修はあまりにも衝撃的な事実に、言葉を失った。


「……いや、ちょっと待ってください。確か先輩のことを」

「そうだ、巨人族の少女。お前の隣にいるのは―――」


 レティ―は告げる。


「魔王だ」


 修は目を大きく見開いた。


「そいつは魔装の力で魔王の力を封じているが、間違いなく魔王だ」

「魔装……」

「そいつの右の耳についているピアス。それで魔王の力を封じている。だが……その魔装も限界だ。違うか、少年?」


 蓮は何も答えない。

 それは肯定を意味する。


「戦ってみて分かった。そいつには私以上の進化の才能を持っている。それだけじゃない。そいつは何度も限界を超え、復讐心という強い負の感情を宿し、数えきれないほどの魔法少女を殺している。恐らく……歴史上最強の魔王になるだろう」


 その言葉を聞いて、修は俯いた。

 そんな彼女に蓮は手を伸ばそうとしたが、すぐにやめる。

 なんともいえない沈黙が部屋の中を支配した。


「……今日はここで休め。明日、お前達がいた場所に帰そう」


<><><><>


「どうぞ、こちらの部屋でお休みください」


 蓮と修はロロに客室に案内された。

 客室には大きなベットとオシャレなテーブルや椅子がある。

 まるで高級ホテルのよう。

 普通の人なら「すげー」「ここに一生、住みたい」などと言うだろう。

 だが蓮と修はなにも喋らない。


「……あの、修ちゃん。俺は……」


 沈黙に耐えられなかった蓮は、喋り出そうとした。

 その時、


「すみません、先輩。僕……少し外の空気が吸いたいので。すいません、ロロさん。お庭に案内してもらっていいですか?」

「……承知しました。どうぞこちらへ」


 ロロは修と共に客室から出て行く。

 ドアが閉まる音が、蓮の耳には大きく聞こえた。

 数十秒間、沈黙が続く。


「……ハァ」


 残された蓮はため息を吐き、近くの椅子に座る。


「やっぱ……怖いよな、俺のこと」


 世界を滅ぼすことができる魔王。

 そんな化物が自分の知り合いだと知れば、恐れるのが当然だ。

 しかも多くの魔法少女を殺している。

 怖いと思うのは自然。

 それは蓮も分かっている。

 しかし、


「後輩に怖がられるのは、ショックがデカい」


 額に手を当てながら、蓮はもう一度ため息を吐く。

 自分の大切な後輩で、しかも妹の友達。

 そんな子に恐れられるのは、蓮にとって嬉しくない。


「だけど……後悔はない」


 今更、魔王になることに蓮は恐れていなかった。

 敵である魔法少女を殺したことに後悔はない。

 復讐の道を選んだことにも後悔はなかった。

 ただ一つ……思うことがあるとすれば、


「あと少しで……みんなとお別れだな」


 蓮はあと数回ぐらい魔法少女になれば、魔装は壊れて魔王になるだろう。

 そして魔王になった瞬間、蓮は多くの人に恐れられる。

 その中には彼の妹や友人、後輩も含まれているのだ。

 もし魔王になったら一人で生きていかなければならない。


「……寂しいな~」


 魔王になることに恐れはない。

 しかし大切な人と別れるのは、寂しいと思ってしまっていた。


「まぁ……しょうがないよな」


 少し悲しそうに眉を八の字にして、蓮が小さな笑みを浮かべた。

 その時、ドアからコンコンというノックの音が響く。

 蓮は椅子から立ち上がり、ドアを開けた。


「よぉ、新たな魔王」


 客室にやって来たのは、雷の魔王―――レティ―・イナズマだった。


「お前は……なんのようだ?」

「なに、少し魔王同士で話がしたくてな」

「話?」

「ああ……お前のことが知りたくてな」

「……」


 蓮は何も言わず、レティ―を部屋の中に入れた。


「……で?話って?」

「いや、お前がどんな奴なのか~とか、なにが好きなのか~とか」

「なんでそんな話を?」

「……知りたいんだ。お前のことを」


 真っすぐな瞳でレティ―は、蓮は見つめた。

 蓮は少し悩んだ後、口を動かす。


「俺は魔森蓮。魔法少女になれる男だ。好きなものはライトノベル」

「マモリレン……いい名だ。それでマモリ?らいとのべるとはなんだ?」

「小説だよ。十代から二十代が読むような本だ」

「ほう?それは興味があるな」

「特にラブコメ系のものを読むかな。甘酸っぱい恋をする主人公とヒロインの話が好きだ。あとはスローライフ系やバトル系、王道ファンタジーとかもいいな」

「ほうほう」


 蓮の話を、レティ―は面白そうに聞いていた。

 先ほどまで戦っていた敵だと忘れて、彼は自分の好きなものを話す。

 人間とは自分の好きなことを一度話すと、止まらなくなるものだ。

 それから満足するまでライトノベルのことを話した後、蓮は少し躊躇った様子でレティ―に問い掛ける。


「……レティ―。俺も聞きたいことがある」

「なんだ?」

「なんで……魔王になったんだ?」

「……」


 レティ―は椅子に座り、腕を組んだ。

 そして数秒後、彼女は懐かしむように語る。


「……惚れた男を守りたかった」

「惚れた男?……あの魔法少女になれる執事のことか?」

「ああ。昔の私は……いいとこのお嬢様でな。だけどある理由で家は潰れて貧乏人になった。そして両親は私を捨てた。そんな一人になってしまった私を、ロロは傍にいてくれた」

「いい奴なんだな」

「ああ。……だけどある日、強力な魔獣がロロを襲った。私は必死に戦い、限界を超えて、そして魔王になった。それから私はロロと共にこの無人島で静かに暮らしている。今は娘も生まれて幸せだ」

「そう……だったのか」


 レティ―は幸せそうに微笑んでいた。

 そんな彼女に、蓮は目を細めながら尋ねる。


「あの執事が魔王になったあんたと一緒にいられるっことはつまり……」

「ああ……お前の予想通りだ」

「……そうか」

「お前は……伝えないのか?あの巨人族の少女に」

「……俺は孤独の魔王でいい。そう望んでいるし」


 前髪の隙間から見える蓮の瞳。

 その瞳には、一人で生きていくという覚悟が宿っていた。

 だが同時に……少し悲しそうに顔を歪めていたのを、レティ―は見逃さない。


「マモリ。お前にこれを渡そう」


 そう言ってレティ―はポケットから腕輪を取り出し、蓮に投げ渡す。

 片手でキャッチした蓮は僅かに目を見開く。


「これって……」

「その腕輪を付ければ魔王になっても、人の姿であれば周囲を怖がらせずに済むぞ。まぁ……魔法少女になるとその腕輪の効果は発動しないがな」

「いいのか?」

「ああ。魔王のよしみだ」

「……感謝する」


 蓮は腕輪をズボンのポケットに入れる。


「マモリ」

「ん?」

「魔王になったからって、心まで魔王になるわけじゃない」

「……」

「魔王だって元は人だ。寂しいときは寂しいし、悲しいときは悲しい。だから……もし共に居たいと言ってくれる奴がいるなら、一緒にいろ」


 まるで子供を慰めるような優しい顔で言うレティ―。

 そんな彼女の言葉を聞いて、蓮は何も答えなかった。

 いや、より正確に言うには、なにも答えることができなかったのだ。

 まるで喉に魚の骨が引っ掛かったような感覚を、蓮は感じていた。


<><><><>


 蓮とレティ―が話している間、修はロロと一緒に廊下を歩いていた。

 しばらく歩くと、ロロは立ち止まり、修に視線を向ける。


「それで?私になにか御用ですか?」

「……気付いてたんですね」

「はい。あなたが私に用があるのですよね?」


 修はコクリと頷いた。


「僕は……先輩のことが好きです」

「……」

「あの人とずっといたい。離れたくない。でも……魔王になったら一緒にいられない。そんなの……嫌だ」


 胸の前で拳を握り締め、修は真剣な表情を浮かべる。


「だから……教えてください。魔王になった人と一緒にいられる方法を!」

「……なぜ、私に?」

「レティ―さんは魔王だった。見ていて恐ろしかった。なのにあなたは魔王であるレティ―さんの近くにいたのに平気でした。つまり……魔王と共に居られる方法があるということですよね?」

「……」


 ロロは何も答えない。

 それは肯定を意味すると思った修は、頭を下げる。


「お願いです。魔王と共に居られる方法を……教えてください」


 ロロは顎に手を当てて少し悩んだ後、口を動かす。


「……後戻りはできませんよ?」

「構いません」

「後悔をするかもしれませんよ?」

「しません」


 修は顔をゆっくりと上げた。


「ッ!?」


 彼女の顔を見たロロは……背筋が凍るような感覚に襲われた。


「僕にとって先輩は英雄であり、神です。そんな人と離れるぐらいなら……死んだ方がマシです」


 瞳を真っ黒に染めた巨人族の少女は、まるで狂信者のよう。

 そんな彼女を見て、ロロは頬から一筋の汗を流す。


(彼には同情しますね)


 魔森蓮は修から逃げられない。

 逃げることは許されない。

 どれだけ蓮が恐ろしい化け物になろうと、修は離れることはない。

 例え地獄の底にいても追いかける。

 そんな魔王とは別の意味で恐ろしい修に、ロロは告げた。


「いいでしょう。魔王になった魔法少女と共に居られる方法……あなたに教えましょう」

 読んでくれてありがとうございます。

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