魔王1
大石修は言葉を失った。
全身が凍り付くようなほど恐ろしい化物の魔法少女を、先輩は倒したのだ。
長い白銀のツインテールを揺らす《機神》。
そんな彼を見て、僕は……涙を零した。
ああ、先輩……あなたはやっぱり僕の英雄です。
僕が憧れ、僕が一番好きな魔法少女。
僕の神様。
先輩……僕は、僕は―――、
アナタヲ逃ガサナイ。
<><><><>
雷の魔王レティ―・イナズマを倒した蓮は、片膝を地面に付けた。
彼は口からハァハァと荒い息を漏らしながら、肩を上下に揺らす。
白銀の魔法少女は少年へと戻り、顔から大量の汗を流した。
「クソ……無茶させやがって」
もはや彼の身体の中には魔力が残っていない。
激しい戦闘のせいで疲労が溜まっていた。
右手の中指に嵌っている銀色の指輪を見つめた蓮は、小さな笑みを浮かべる。
「お疲れ、【機械神】」
彼がそう言うと、指輪は浅く光った。
「せ、先輩!大丈夫ですか!?」
慌てた様子で巨人族の少女—――大石修は蓮に近付いた。
「ああ……少し疲れただけだ」
「よかった……先輩が無事でよかったです」
涙目になりながら、震えた声を漏らす修。
そんな彼女を安心させるために、蓮は微笑みを浮かべる。
「もう大丈夫だよ、修ちゃん。とりあえずは―――」
「あ~イッテ~」
「!!」
突然、聞こえた少女の声に蓮は目を大きく見開く。
「なっ!なに!?」
倒したはずのレティ―・イナズマはゆっくりと起き上がり、首をゴキゴキと鳴らす。
まさか完全に倒せなかったことに、蓮は驚きを隠せなかった。
「嘘だろ!あの一撃を受けて生きているのか!?」
「まったく容赦のない一撃だったな。私が魔王じゃなかったら死んでいたぞ?」
獰猛な笑みを浮かべて、瞳を怪しく輝かせるレティ―。
身体から黒い稲妻を放ちながら、彼女はウォーハンマーを構える。
「さぁ……第二ラウンドだ」
蓮は頬から一筋の汗を流しながら、目を細める。
(解放……するしかないな)
青い水晶が埋め込まれた金色のピアス。
右耳についているそのピアスを、蓮は指でつまむ。
そして指に力を入れて壊そうとした。
その時、
「なにをやってるんですか、お嬢様」
レティ―の背後に、メイド服を着た黒髪少女が現れた。
そのメイド少女は手に持っていたハリセンでレティ―の後頭部を強く叩く。
スパァン!と叩かれた音が鳴り響き、レティーは両手で頭を押さえながら蹲る。
「なにすんだ!ロロ!」
「お嬢様がまだ戦おうとしているから止めたのです。なんでここらへんでやめないんですか?殺し合いをしに来たのではないのですよ?」
「べ、別にちょっとぐらいいいだろう!」
メイド少女はまたハリセンでレティ―の頭をもう一度叩く。
「もう戦いは終わりです」
「いや、でも……」
「今日のご飯を抜きにしますよ?」
「し、仕方ない」
渋々と言った様子で、レティ―は魔法少女から少女の姿へと戻る。
「それと腕輪を嵌めるのを忘れずに」
「わかっている」
メイドから渡された腕輪を、レティ―は左手首に嵌めた。
すると彼女から感じていた恐怖が消える。
恐怖から解放された蓮と修は、身体が軽くなるのを感じた。
「我が主がご迷惑を。主に変わって謝罪しまう」
ペコリと頭を下げるメイドの魔法少女。
彼女に警戒しながら、蓮は問う。
「……あんたは?」
「私はロロ。お嬢様の従者であり、あなた達をこの無人島に連れてきて閉じ込めた者です」
蓮は目を鋭くして、ロロと名乗るメイドを睨む。
「不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。ですが信じてください。私たちはあなた達を殺したいわけではないのです」
「そんなの……信じられるわけないよ!」
ずっと黙っていた修は怒鳴り声を上げた。
そんな彼女の肩に、蓮は手を置く。
「落ち着いて、修ちゃん」
「ですけど先輩!」
「彼女は嘘を言っていない」
「え?」
「レティ―は確かに俺達を殺すとは言っていたけど、殺気は感じなかった。なにより戦闘中、君を巻き込まないようにしていた」
「!!」
修は驚愕の表情を浮かべながら、レティ―に視線を向ける。
「いや~バレてたか」
頭を掻きながら、アハハと笑うレティ―。
「あんたらの目的は俺で、修ちゃんは巻き込まれただけってところか」
「そうだ。どうしても確かめたかったんだ。新たな魔王がどんな奴かを。ここで話すのもなんだし、ウチに来い。ロロ」
「はい。お嬢様」
ロロは両手をパチンと合わせた。
すると四人の足元に巨大な魔法陣が出現する。
「これは……あの時の!」
次の瞬間、魔法陣が強く光り出した。
<><><><>
気が付くと、蓮達は小さな屋敷の前にいた。
その屋敷は木で作られており、古風を感じさせる。
「私たちの家にようこそだな」
そう言ってレティ―は親指を屋敷に向ける。
「まぁあがれ」
蓮と修はレティ―とロロと一緒に屋敷の中に入った。
屋敷の中はとても綺麗で埃一つない。
高そうな壺。
豪華なシャンデリア。
そしてレティ―が描かれた絵画。
まるで貴族の屋敷のよう。
「すっごい豪華」
「ですね」
蓮と修が驚いていると、
「お客さん?」
幼い女の子の声が聞こえた。
視線を向けると、そこには小さな女の子が。
その女の子はレティ―にそっくりな顔立ちをしており、黒い髪を伸ばしている。
「おお、レレ。ただいま」
レティ―が両手を広げると、彼女の胸の中に幼い女の子は飛び込んだ。
「おかえり。ママ、パパ」
「パパ?」
蓮は周囲を見渡したが、男の姿はない。
どこにいるんだと探していると、ロロが手を挙げる。
「私がこの子のパパです」
「え!?」
蓮は前髪で隠れていた目を丸くする。
隣にいた修も首を傾げていた。
「えっと……あんた、女だよな?」
「いえ、男ですよ」
そう言ってロロは胸に手を当てた。
すると彼女の身体が光り出す。
やがて光が収まると、ロロはメイドの魔法少女から執事服を着た少年になっていた。
「え!?あんた……本当に男だったのか!?」
「はい。あなたと同じく、男でありながら魔法少女になれる者です」
まさか自分以外にも魔法少女になれる男がいるとは思わなかった蓮は、驚きを隠せなかった。
「あんたも……魔法少女の家系なのか?」
「いえ、私の場合は魔法使い計画の生き残りの子孫だから魔法少女になれた……と言ったところでしょうか」
「魔法使い計画?」
「……この話はここで終わりにしましょう。どうぞこちらへ。温かい紅茶とお菓子を用意しています」
<><><><>
蓮と修が案内されたのは、広い部屋。
木で作られた高級そうな机とソファー。
オシャレなランプ。
美しい壁。
「さぁ……お客様。どうぞそこのソファーに」
蓮と修は警戒しながら、ソファーに座った。
するとロロは目に止まらぬ速さで紅茶をカップに注ぎ、クッキーを用意した。
「どうぞ。お砂糖も用意しております」
「……俺たちはお茶を飲みに来たわけじゃない。そこの魔王に聞きたいことがあるんだ」
蓮は前髪で隠れていた目を細めながら、対面のソファーに座るレティ―を睨む。
彼女の膝の上では、レレという幼い少女が栗鼠のようにクッキーを食べていた。
「ああ、全て話そう。私がお前を襲った理由……それは、新たな魔王がどんな奴か知りたかったからだ」
「……」
「他の魔王も気になっていてな。だから私はお前と戦って確かめたかった。もし危険な奴であれば殺す必要があったしな」
「……で?俺はどうなんだ?」
レティ―はカップに入っている紅茶を一口飲み、口を動かす。
「お前に世界を滅ぼす意思はない。だから殺す必要がないと判断した。他の魔王にもそう伝える」
「……そうか」
蓮はどこか安心した様子で、ホッと息を吐く。
「すまなかった。だが世界に害をなす魔王かどうか知りたかったんだ。許してくれ」
頭を下げるレティ―。
そんな彼女を見て、蓮は責める気になれなかった。
その時、
「あの~先輩。さっきから魔王魔王って言っていますが、魔王って何なんですか?」
蓮の隣に座っていた修は、恐る恐る手を挙げながら尋ねた。
「お前は……巻き込まれた巨人族の少女だったな。そこの少年とはどういう関係だ?」
「恋人です」
真剣な表情で答える修。
蓮は飲んでいた紅茶を口から噴き出した。
「ゲホゲホ……しゅ、修ちゃん!?何を言って」
「ああ、すいません。間違えました。嫁です」
「修ちゃん!?」
修の発言に、蓮は目を大きく見開く。
二人の様子を見ていたレティ―は、顎に手を当てる。
「ふむ……なら話してもいいか」
「違うから。恋人でも嫁でもないから」
「では教えよう。魔王のことを」
「おい、聞けって!」
蓮の言葉を無視して、レティ―は教える。
魔王のことを。
「まず巨人族の少女に聞きたい。魔王ってどんな奴だ?」
「えっと……勇者に倒される存在とか。世界を支配したり、滅ぼしたりするとか?」
「そう。魔王は世界を滅ぼす力を持つ。そしてその魔王は……この世界に数人いる」
「!!魔王って……なんなんですか?」
「魔王とは……特殊な魔力を持った魔法少女のことだ」
「特殊な魔力を持った魔法少女?」
意味が分からず、修は首を傾げる。
「まず魔力ってなんなのかは知っているな?」
「は、はい。〈マジックアイテム〉に選ばれた少女の体内に流れるエネルギー……ですよね?」
「そうだ。その魔力のおかげで魔法少女に変身できたり、特殊な道具である魔装を作れたり、永遠の若さを手に入れて寿命を延ばしたりすることができる。だが……その魔力がなにかしらで変化する時がある」
「変化?」
「そう。変化した魔力は〈マジックアイテム〉と肉体を何十倍、何百倍まで強化する。代わりに普通の生活が送れない」
レティ―はクッキーを手に取り、一口かじる。
「どういう意味ですか?」
「初めて会った時、どう思った?私のこと」
「……凄く怖かったです。全身が動かなくなるぐらい」
「そう。変化した魔力を持つ魔法少女—――魔王は周りから恐れられ、人間の生活ができなくなる。今、こうして話せるのは特別な魔装を着けているからだ」
そう言ってレティ―は左手首に着けている腕輪に指を指す。
「……魔王って誰でもなれるんですか?」
「いや、魔王になるにはある条件がある」
「条件?」
「まずある才能がないとダメだ」
「どんな才能が必要なんですか?」
「それは……進化の才能」
「進化の才能?」
「そう。ありとあらゆる技や知識を吸収し、誰よりも速く成長することができる才能。ごく稀にいるだろう?そんな奴が」
「は……はい」
「その才能がある者が、ある三つの条件の中で一つを満たすと魔王になる」
「……三つの条件って……なんですか?」
修は唾をゴクリと呑み込んだ後、尋ねた。
「まず一つ目は限界を超えること。戦闘の時や危機的な状況の時、限界以上の力を発揮すること」
「なるほど……二つ目は?」
「強い負の感情を宿すこと。悲しみや怒り、殺意、嫉妬……そんな負の感情を持つことが二つ目の条件」
「……最後の三つ目は?」
「三つ目は―――」
「多くの魔法少女を殺すこと」
修は言葉を失った。
だがレティ―は言葉を続ける。
「進化の才能を持つ魔法少女が他の魔法少女を殺すことで、その者が持つ魔力を吸収することができる」
「じゃあ……あなたも」
「私は違う。ある戦いで限界を超えて魔王になった」
「そう……なんですか」
修はホッと胸を撫で下ろした。
「だが魔王が危険なのは変わらない。事実……その昔、魔王になった魔法少女は世界の半分を滅ぼした」
「世界の半分って……そんなの聞いたことありません。神級の魔獣が世界の半分を滅ぼしたってのは、授業で習いましたけど」
「……神級の魔獣なんて存在しない」
「え?」
「神級の魔獣の正体は―――」
雷の魔王は語る。
世界の半分を滅ぼした神級の魔獣の正体を。
そしてそれを聞いて巨人族の少女は後悔する。
「魔王になった魔法少女だ」
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